緒形拳さん

東京に異動して、最初にプロデュースしたのは、葉月里緒奈さんが主演、緒形拳さんが葉月さんのお父さんを演じられた連続ドラマ「八月のラブソング」だった。緒形さんは老舗の中華料理店のオーナーシェフという役回り。周富徳さんが「料理指導」として付いた。

この役を気に入った様で、大きな業務用の鍋で料理を作る緒形さんの芝居はダイナミックでリズム感が凄く、見惚れるほどだった。

僕が緒形さんの芝居に惚れたのは、今村昌平監督の映画「復讐するは我にあり」。野村芳太郎監督の「鬼畜」。そして、NHKのスペシャルドラマ「破獄」。

緒形拳さんの芝居は身体の内側から溢れ出てくる。

いつもは事務所の女社長が運転してスタジオ入りする緒形さんだったが、ある日、本人がベンツのゲレンデバーゲンを運転して来られた。APのTくんと緒形さんの車庫入れを見ていたら、駐車場の柱に車をぶつけてしまった。緒形さんが車を降りて来る。少し顔に笑みを浮かべ、何事も無かったかの様にエレベーターに乗り込む。我々3人は無言を貫き、控え室に向かった。

それから何年経ったろう。緒形拳さんは自分の病気を隠して、倉本聡脚本、フジテレビのドラマ「風のガーデン」に出演された。このドラマが遺作となる。

緒形さんのあの時の「子供の様な笑み」が忘れられない。緒形拳さんの様な「やんちゃな」役者は今後現れる事は無いだろう。一つの時代が終わった気がした。

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