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難易度Sランク コスメデコルテ リポソームアドバンスド リペアセラムの成分解析と期待される効果

大谷選手が使ってると話題になったコスメデコルテのリポソーム美容液。実は、大谷選手がブランドミューズに起用されていたのですが、WBC中に広告起用発表するというコーセーさんの手腕には恐れ入りました。

さて、この商品、成分的にめっちゃすごいんですが、何がどうすごいかというと、普通の化粧品とは違う点が1点あり、個人的に難易度Sランク級と思います。

化粧品研究開発10年以上の知見を生かして、何がすごいのか、どういう成分か、効果はどんなのかを解説してみたいと思います。

リポソーム アドバンスド リペアセラムの特徴

1992年に初代のリポソーム美容液「モイスチュアリポソーム」が発売され、30年ほど全く処方が変わらずに大人気でした。

それがついに2021年に先代モイスチュアリポソームからリニューアル改良されたのが、リポソーム アドバンスド リペアセラムです。

リニューアルの時は業界が激震していたと思います。私も初めて聞いた時は驚きました!

さてこちらのセラムですが、普通の化粧品との違いはなんと言っても、リポソームを配合している点です。

公式サイトによる特徴は以下。

●生体組成成分リン脂質から成り、たまねぎ状に幾重にも重なる層の中に美容成分を贅沢に抱えた0.1ミクロン※1の超微細なマイクロカプセル「新・多重層バイオリポソーム」が、1滴に1兆個※2。つけた瞬間から、成りかわるように肌に溶け込み、カプセルそのものがダイレクトに肌を美しくすることで、潤いに満ちたハリ・ツヤあふれる若々しい印象に導く、新・リポソーム美容液です。

コスメデコルテブランドサイト, https://www.decorte.com/site/g/gJVAI/

そもそもリポソームとは?効果やメリット

さてこちらのセラムですが、普通の化粧品との違いはなんと言っても、リポソームを配合している点です。

リポソームってなんぞや?という点を見ていきましょう。

引用:https://corp.kose.co.jp/ja/research/secretstory/liposome/

これがリポソームのイメージ図。100nmくらいの大きさのカプセルで、多重層構造をしています。

このカプセルが1滴(0.1mL)に1兆個(1×10^12個)入っているそう。数が多すぎて意味がわからないですね。水分子は1滴に30垓(がい)個(30×10^20個)ですので、水分子に比べたらめちゃめちゃ少ないですが、でもすごいことです。

リポソームは、リン脂質(レシチンや水添レシチンなど)という両親媒性成分(水にも油にもなじむ)でできたカプセルです。

カプセルの一番中心は水に馴染みやすく、リン脂質の脂質部分は油にも馴染みやすい構造を持っています。なのでビタミンCなどの水溶性薬剤や、レチノールなどの油性薬剤もカプセル化できます。

元々は、医療分野のドラッグデリバリーシステム(DDS)で応用されている成分です。医薬品有効成分をリポソームカプセルで包み込むことで、必要な量の薬物を必要な部位に必要なタイミングに送達する技術ですね。

それをなんとか化粧品に応用できないか?と研究されたのが、コーセーさんなんですね。

リポソームの化粧品で使う時のメリットは、以下のようなものがあります。

  1. ラメラ構造をとり高保湿・柔軟性を付与する

  2. 皮膚浸透しにくい水性美容成分の皮膚浸透性アップ

  3. 角層で長く留まる

  4. 壊れやすい成分を安定化できる

リポソーム戦争 コーセー vs 富士フイルム

ちなみに、リポソームは多数膜(マルチ ラメラ ベシクル)と一枚膜(スモール ユニラメラ ベシクル)に分類されることがあり、コーセーさんは多数膜の方を製品にしています。(参考:化粧品科学へのいざない シリーズ第2巻 化粧品を支える科学技術 薬事日報社)

一枚膜の方が、カプセル化できる割合が大きくて水溶性薬剤の浸透の面では有利ですが、多数膜の方が安定性が高いためだそうです。

なお、2022年、富士フイルムさんでは、一枚膜リポソーム技術を発表しており、美容液を発売。コーセーさんとの差別化を図っているものと思われます。

と思いきや、今度はコーセーさんも一枚膜リポソームを組み合わせたアイセラムを2023年に発表しており、コーセーVS富士フイルムのリポソーム戦争が勃発しています。

リポソーム化粧品の商品化は難易度Sランク

私が勝手にSランクと言ってますが、リポソーム化粧品は仮に配合できたとしても商品化は非常に難しいんです。

リポソーム配合したことをパッケージ等に記載するためには、普通の化粧品とは違って、色々な条件が求められます。

まず、リポソームをまず安定的に配合するのが難しい。さらにそれをクリアしても安全性を担保するデータをとったり、普通の化粧品では求められないことをやる必要があります。

具体的には、以下のようなデータを揃えて、国(厚労省など)に認めてもらわないとダメなんです。

  • リポソームが安定であること

  • 製剤が安全であること

  • リポソームの証拠写真

安定性

リポソームは非常に不安定なので、室温3年間、あるいは40℃6ヶ月程度で安定であることを示す必要があります。

しかし、リポソームは不安定な構造体で、肌の分解酵素、リン脂質の純度、その他の添加成分、pHなどに影響されて壊れるようで、いかに安定化できるかがキーポイントとなります。

参考:内藤昇,リポソームの化粧品への応用, 製品 & 技術(Products Spotlight):膜(MEMBRANE),31(4),221-223(2006)

しかし、それを研究して完成させたのがコーセーさんです。例えば、こちらの論文を見ると、普段は壊れやすいビタミンC誘導体が、リポソームに包み込むと40℃6ヶ月で80%ほど残存したと報告されております。

さらに、リポソームの大きさも均一で、カプセル構造も変化ないことを確認されています。

安全性

リポソームにすると、本来肌に浸透しにくい成分が肌に浸透しやすくなるので、これまで安全だった成分の毒性が増強される恐れがあるとして、安全性にも詳細なデータが求められます。

詳細は不明ですが、厚労省が納得するデータを出されたものと思います。

証拠写真

リポソームは、多重カプセルになっていることを示すために、証拠写真を提出しなければなりません。

0.1ミクロンと非常に小さく、しかもカプセルになっていることを撮影するには、電子顕微鏡を用いた特殊な技術が必要で、コーセーの開発当時は撮影するのに1年もかかったそうです。

引用:https://corp.kose.co.jp/ja/research/secretstory/liposome/

このように、リポソームを配合するだけなら誰でもできるのですが、それを商品で訴求するためには、安定性、安全性、写真撮影という超高いハードルをクリアしなければならないのです。

ただ、先代のコスメデコルテ モイスチュアリポソームが発売されたのが1992年で2020年くらいまでは、コーセーさんしか訴求してなかったんですが、最近になって富士フィルムさんやノエビアさんが訴求しだしたので、いろんなメーカーさんが要件をクリアしているのでしょう。コーセーさんの特許切れっていうのもあるのかもしれません。

リポソーム アドバンスド リペアセラムの成分解析と効果

成分解析に当たっては、コーセーの公開特許でリポソーム関連のものを参考にしました。全成分や、配合目的、先代との違いを見ていきましょう!

全成分
水・BG・グリセリン・水添レシチン・DPG・PCA-Na・アセチルグルタミン・エクトイン・シラカンバ樹液・セリン・テンニンカ果実エキス・トコフェロール・ヒドロキシプロリン・ビフィズス菌培養溶解質・加水分解ヒアルロン酸・加水分解酵母タンパク・酵母培養液・(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー・カルボマー・キサンタンガム・コハク酸・コハク酸2Na・セラミドNG・ダイズステロール・フィトステロールズ・水酸化Na・フェノキシエタノール・安息香酸Na・香料

https://maison.kose.co.jp/site/cosmedecorte/g/gJVAN/

油性成分をほぼ含まない、水ベースのとろみがある美容液です。ナイアシンアミドなどのような医薬部外品の有効成分になり得る成分は入っておらず、酵母エキス、植物エキスなどが入っております。

  • 特許3521517

  • 特許2807840

  • 特許5848511

関連特許は上記でして、今回のリニューアルにあたっての新しい特許はないようです。

以下、処方の特徴や気になる成分をピックアップします。

リポソーム高濃度化

先代モイスチュアリポソームに比べてリポソームの高濃度化に成功したとのこと。これまでのリポソームを単純に高濃度にするとリポソーム同士が衝突して不安定になるため、リポソームの膜構造を安定化する処方に取り組んだそうです。

水添レシチンやフィトステロールなどの純度や配合比率に秘密がありそうですがそこはシークレットですね。素晴らしい。

参考:https://corp.kose.co.jp/ja/research/secretstory/liposome/https://www.kose.co.jp/company/ja/content/uploads/2021/06/20210615.pdf

ビフィズス菌培養溶解質

こちらは、リニューアルで新しく入ってきた成分です。ランコムの大人気のジェニフィック美容液にも入ってます。ただし、同じ原料かは分かりません。

カルチャーBBという原料かもしれません。安息香酸Naが全成分に出てくるため。細胞実験などではエイジングケア成分として働くようです。それであれば、UVによる光ダメージを修復してくれるなどの効果があるかもしれません。

これらがリポソームカプセルに包み込まれて、肌の奥にじわじわと放出してくれるのかも。

水添レシチン、ダイズステロール、フィトステロールズ

リポソームのメイン成分である水添レシチンに加えて、リポソームを安定化するステロール類を加えています。

水添レシチンというのは、酸化しやすいのでレシチンに水素を添加して安定にした成分。

少しでもレシチンの不飽和結合が残っていると、リポソームが不安定になるそうで、高純度のものを使っているようです。

また、先代はステロール類として、コレステロールを入れてたのですが、コレステロールは動物性の油分なので、植物性のダイズステロール、フィトステロールに変えたのかなと思います。

セラミド2

ヒト皮膚が元々持っている保湿成分。角層細胞間脂質の1つで、加齢によって減少することが報告されています。この成分自体を化粧品に高配合するのは難しいと言われており、それはセラミドが水にも油にも溶けにくいためです。こちらの商品では、リポソームの中に組み込まれているのかもしれませんので、非常に良い浸透性も高く効果を発揮してくれそうです。

PCA-Na

PCA-Naは、ピロリドンカルボン酸ナトリウムと読みます。肌の角質細胞に含まれる天然保湿因子でもあります。

リポソームが角質細胞膜と近い構造なので、さらにPCA-Naも配合することで、より肌に近く、なじみが良いことをアピールしているのかなと思いました。

オキシベンゾン-5、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、メチルパラベンがなくなった

オキシベンゾン-5、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルは紫外線吸収剤と呼ばれ、サンスクリーンに使われたりしますが、先代には入ってたんですよね。

おそらくリポソームやカルボマーが光に弱いので、劣化を防ぐため配合されていたと思いますが、最近では紫外線カットする容器に入れたりできるので、これらの成分は無くなったのかなと思いました。

あとパラベンがフリーになり、フェノキシエタノールと安息香酸Naが入ってきましたね。

ホップエキスがなくなった

コーセーの特許を見るとホップエキスとリポソームを組み合わせて、抗酸化力を底上げし、肌のくすみをなくす美白効果を高めることができるそうです。先代のモイリポには配合されておりましたが、ホップエキスは無配合になってますね。

リポソーム系は、成分の浸透が上がるために、あまりアクティブにしすぎると安全性的に問題になると思ったのか、そこまで攻めた内容ではないように思いました。

エイジングケアできる美容液に進化したとのことで、酵母系のエキスでエイジングケアしつつ、リポソームやセラミドで、保湿やバリア機能改善にも良さそう。敏感肌さんにもおすすめです。

感触について

とろっとしたやや濁りのある液状。

なじみがよく、適度に潤います。個人的には先代の内側からくるふっくら感、エモリエント感が好きだったのですが、それはちょっと薄れてしまったような気もします。商品は30mLを持ってたのですが、妻と私で使い切ってしまって無くなっていました。

香りはティーグリーンフローラルの香りというらしく、緑茶っぽいフローラル?でかなり好きです。先代のはちょっと一昔前の化粧品っぽい香りだったので。

安全性について

昔のリポソームは紫外線吸収剤が入ってたので、敏感な人には合わない可能性もあるかもと思っていたのですが、なくなったのでより安全性が高くなった気がします。

また、ヒトでの安全性試験もたくさんしてます。一般的には、パッチテストで確認するのですが、それ以上の試験をたくさんしてますね。

●アレルギーテスト済み
●パッチテスト済み
●スティンギングテスト済み
●ノンコメドジェニックテスト済み
(すべてのかたにアレルギーや皮膚刺激が起きない、刺激感がない、コメド(ニキビのもと)ができないというわけではありません。)

モイスチュアリポソームの使用感触

余談ですが、先代モイスチュアリポソームは、以前の仕事でも真似して作って欲しいと言われていたことがあり、このテクスチャーを真似するのが超絶難しかったです。

すっと浸透し、割とあっさりした保湿感かなと思いきや、肌の内側からふっくらした感触になります。さらに、翌朝もふっくらしているような。

これを真似するのは難しかった、結局完璧なのはできませんでした。

おすすめな人

  • 乾燥肌、敏感肌でバリア機能や乾燥改善したい人

  • エイジングケアしたい人


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