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ポーター・ロビンソンをこれから聴くあなたに知ってほしい、日本愛に溢れた5つの歩み

アメリカ出身のプロデューサー、ポーター・ロビンソンが先日、実に7年振りとなる自身名義での最新アルバム『ナーチャー』をリリースしました。今回はポーターにインタビューした経験もあるDJ/キュレーターのTJOさんに、今作とそれに至るまでのポーターの日本愛を語ってもらいました。

これほどまでに日本への愛と音楽への優しさに満ち溢れた海外アーティストがいるでしょうか?

彼の楽曲の素晴らしさは世界中を魅了し、特に我々日本人の琴線に触れるポイントが沢山あります。その理由を探っていくうちに彼の親日派としての顔、さらに作り出す音楽への想いを知って僕はさらに彼自身のことや作品がもっと好きになりました。今回の記事ではポーター・ロビンソンの事を知らなかった人はもちろん、「最近名前聞くけどどんな人なの?」という人にそんな彼の魅力を5つのポイントに分けて紹介したいと思います。


1. 華麗なる経歴もきっかけは日本

1992年生まれ、ノースカロライナ州出身のポーター・ロビンソンは、2010年にリリースした「セイ・マイ・ネーム」をきっかけにスクリレックスに才能を認められ、2012年にはゼッドのグラミー受賞曲「クラリティ feat. フォクシーズ」の共同プロデュースも手掛けます。当時のEDMムーヴメントの波にも乗り数々のヒット曲を出した後、2014年には22歳の若さでファーストアルバムとなる『ワールズ』をリリース。このアルバムは米ビルボードの「2010年代ベスト・ダ ンス・アルバム」にランクインし、彼の非凡な才能は早くから認められる事になりました。

そんな華々しい経歴も実は元を辿ると起源は日本にあるのです。

彼にとっての初めてエレクトリック・ミュージック体験は、幼少時代に兄が教えてくれたゲーム「ダンス・ダンス・レボリューション」。そのサウンドトラックで日本人アーティストによる音楽を聴いて自分も音楽を作りたいと決意したそう。そして他にも日本の音楽とアニメが大好きで、アニメソングやJ-POP固有の感傷的なメロディに感銘を受け、自身が作る曲のほとんどはアニメソングのスタイルに影響を受けたものと公言しています。Google翻訳の読み上げ機能で「私はちょうど何が重要か見つけようとしている」という日本語と2012年のアニメ「あの夏で待ってる」のセリフを歌詞に使って、新幹線の窓から撮影したであろう風景を使ったミュージックビデオと組み合わせた「フリッカー」(『ワールズ』収録)はその分かりやすい一例といえるでしょう。


その表現は楽曲のみならず自身のシンボルを日本発の顔文字を使って【=◈︿◈=】で表したり、ライブショーでのVJやミュージックビデオでアニメーションを駆使したりと日本は彼の表現の中に無くてはならないものになりました。

またプロモーションや公演以外にもプライベートでまめに来日していて、『ワールズ』をリリースした2014年には秋葉原のメイド喫茶を訪れた写真をSNSでアップしたり、昨年にはドン・キホーテの店内BGMが気になって直接Twitterで絡んでしまったこともあるほど。

ここからはそんな彼の日本とのより深い関係を紹介していきます。


2. 日本のファンと喜びをシェアした名曲「シェルター」

2016年に盟友マデオンと共に作り上げた「シェルター」では、その日本のアニメに対する愛を爆発させています。

同年10月18日、彼はこの曲のミュージックビデオを渋谷MODIの大型街頭ビジョンで世界で初めて公開しました。来日していた本人からの事前告知もあり、集まったファンは200人以上。そして最も驚きと感動を与えたのはそのビデオが全編アニメーションの作品だった事です。これはポーター自らがストーリー原案を練り、彼のお気に入りのアニメである『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで知られるA-1 Picturesと共に制作したもの。ポーターはこのビデオのために何度も日本を訪れ、ディレクターの赤井俊文、デザイン原画の河野恵美と綿密にやり取りを行い、楽曲以外のパートにも声優の三澤紗千香を起用するなどミュージックビデオの域を超えた6分に及ぶ力作を作り上げました。

悲観的でノスタルジックな映像はマデオンと作り上げた「シェルター」の世界観をさらに拡張させ、渋谷MODIでファンの祝福を受けて世界に向けて発信されたこのMVは世界的評価を獲得。2020年には13憶ストリーミング再生を突破し、ア メリカレコード協会からゴールドディスク認定を受けるほどの大ヒットになりました。

この時期、僕が担当するラジオ番組にゲストで来てくれたポーター、「EDMスターがその成功の証として高級車や家を買うところを、僕は自分のアニメ作品を作りたかったんだ」とアニメ好きとしてのこれ以上ない熱量のこもった言葉を聞かせてもらったことが今でも忘れられません。彼にとって日本のカルチャーは欠かせないもの。外国人にとって分かりやすいものだけでなくもう少しローカルなカルチャーにも注目して制作したいとも語っていました。


3. ゲーム音楽とトランスへの愛を捧げたヴァーチャル・セルフ

彼の日本愛はまだまだ止まらず、さらに形を変えて表現されていきます。

2017年にヴァーチャル・セルフ名義でリリースした「ゴースト・ヴォイセズ」は、先にも挙げた「ダンス・ダンス・レボリューション」など自分が好きだったリズム&ダンスゲームや「ファイナル・ファンタジー」、「ファンタシースター」などのファンタジー〜SF近未来的な要素と、90年代後半〜2000年代のトランスやハードコアからの影響を色濃く反映させた楽曲。自身がエレクトロミュージックに触れた経験、そこから音楽を作りたい!と思わせてくれたゲーム音楽への愛が詰まった1曲で、ポーターの見事な手腕でアップデートされたサウンドは世のゲーム、ハードコア好きのみならずダンスミュージック・シーンでも大きな反響を呼び、2019年の第61回グラミー賞「最優秀ダンス・レコーディン グ賞」にノミネート。さらにあのカルヴィン・ハリスが「この曲でもう一度ダンスミュージックに立ち戻りたくなった」と新たにラブ・リジェネレーター名義でダンス回帰するほどまでに影響を与えました。

特にこのプロジェクトへの強い想いを感じさせたのが2018年5月のヴァーチャル・セルフ公演でした。ポーター名義の曲は一切なしという徹底ぶりで、トランシーなレイブサウンドやハードコア成分が高いパフォーマンスがゲーム的要素を多く盛り込んだVJと融合しフロアを魅了。ゲーム「ビートマニア」シリーズの楽曲の引用や、恋愛アドベンチャーゲーム「AIR」の主題歌「鳥の詩」のマッシュアップなど、ポーター名義でのライブとはまた違った日本音楽への愛を感じさせる素晴らしいショーでした。

余談ですが、ここでポーターのゲームの異常なまでの上手さを軽く紹介。「ステップマニア」というPCのリズムゲーム(音ゲー)でMadeonとの「シェルター 」をプレイしながらファンの質問に答えるという企画をやっていたのですが、会話をしながら軽々とコンボを出し続ける凄技にビックリ仰天!もはや「ゲーム音楽は身体の一部」と言わんばかりの説得力を感じました。

リンク>>> Porter Robinson playing ‘shelter’ on stepmania!

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4. 日本人アーティストも多数出演するフェスを主催

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彼の日本アーティストへの想いが強く伝わるのが、2019年に初開催された「セカンド・スカイ・ミュージック・フェスティバル」から続く主催フェスの数々。

ポーターはここで多数の日本人アーティストをブッキングしています。2019年は水曜日のカンパネラを、そして翌2020年にはコロナ禍でオンライン・フェスとして『シークレット・スカ イ・フェスティヴァル』を主催し、そこではkz (livetune)、キズナアイ、長谷川白紙を招聘。この配信は14時間近くにも及ぶライヴ・ストリーミングを延べ 400万人の人々が体験したという世界からの期待値を証明した一大フェスとして話題になりました。

ここではゲストのみならずポーターのDJセットもとても印象的でした。当時の技術的な向上なども含めて乱立気味だったDJ配信疲れを逆手にとったDJ機材にプロジェクターVJ映像を被せただけのシンプルなセット。その中で自身の楽曲はもちろん、アニメソングやゲーム、宇多田ヒカルなど日本人アーティストの楽曲を多く盛り込んでいました。特にハイライトだったのが「サムシング・コンフォーティング」にその日の共演者でもあるkz(livetune)の名曲「テル・ユア・ワールド」をマッシュアップ、さらにアルバムから初公開された新曲の「ルック・アット・ザ・スカイ」の初披露。広がる草原と青く澄んだ大空のVJ にシンプルな歌詞が浮かび上がる演出に、当時の皆が感じていた閉塞感にポーターの優しくも同時に力強いメッセージで明るい希望を照らされた人も多かったはず。そういう僕もこの時の感動が今でも忘れられなくて個人的にもアルバムで一番好きな曲になりました。

そして先日『ナーチャー』のリリースを記念して行われた2回目の「シークレット・スカイ・フェスティバル」ではEnd of the World、serph、高木正勝と自身が敬愛するアーティストを招き、ポーター自身もライブセットとして最新アルバムの曲を中心に1時間を超えるこれ以上ない最高なパフォーマンスを見せてくれました。

しかも今年のフェス終演後には今秋にリアルフェスとしての「セカンド・スカイ」の帰還を高らかに発表し、アルバムの世界観を堪能させてくれただけでなく、もうすぐリアルで会える喜びを最高なサプライズ告知の形で我々に伝えてくれています。


5. 新作『ナーチャー』と日本を繋ぐもの

最新アルバムジャケ_ナーチャー

ここまでデビューアルバム以降の流れを追ってきて順調そうに見えたポーター。実はスランプに陥っていて制作が思うようにいかず音楽への情熱を見失っていたそうです。そんな時期を乗り越えた彼の最新アルバム『ナーチャー』の完成にも実は日本がとても強く影響しています。彼はアルバムの構想初期、今年の「シークレット・スカイ」の出演者でもある高木正勝が音楽を手掛けた2015年の映画『おおかみこどもの雨と雪』を観たことで人生を変えるほどの衝撃を受けたと言っています。今まで「遠くて触ることができないものこそ美しくて情緒的だと思っていた」彼が高木さんの草原や花畑に横たわっているような気持ちにさせてくれる音楽に触れ(今作のジャケもこのイメージにインスパイアされた?)、「近くにあるものやパーソナルなものでも美しさを表現することができる」と初めて認識し、今作のコンセプトの方向性を決めたほどです。

アルバム4曲目「ウィンド・テンポ」には、そんな大きな影響を与えてくれたヒーロー高木正勝への想いが強く反映されています。過去に来日した際にダメ元で高木さんに共作をオファー。すると高木さんは自宅へ数日間ポーターを招いたそうです。自分にとっての音楽のヒーローとして、ダフト・パンクも引き合いに出しながら高木さんも自分の人生や世界を明るくしてくれた存在と称しています。高木さんから教えてもらった2000年初期のアンビエントの楽曲からインスパイアを受け、そんな彼との共同生活の中で高木さんが弾いたおもちゃのピアノの音を録音した1.5秒ぐらいのサンプルの許諾をもらい、ごくわずかながら曲中で使用しています。あるインタビューで彼との本格的なコラボレーションを次の目標としつつも、高木さんと過ごした穏やかな日々が彼に大きな影響を与えたのが楽曲を通じて我々にも伝わってくる印象的なエピソードです。


さらに日本のファンへのサプライズとして用意されたのがボーナ ス・トラック「フルムーン・ララバイ」。これは2019年の初主催フェス「セカンド・スカイ」のゲストでも招いた水曜日のカンパネラとのコラボレーションで、フェスが楽曲にも結びついた好例としてこの流れを見ていたファンにとっても嬉しい1曲。ポーター曰く、制作が思い通りいかず煮詰まっていた時期にオファー、水曜日のカンパネラのコムアイは何事にも縛られないフリーマインドな人だからその時の自分と対照的でコラボすることで刺激になると思ったと語る通り、両者の魅力が存分に詰まった我々へのプレゼントになりました。

他にもこのアルバムの中での日本との繋がりは沢山。「ミラー」ではオンラインで出会った日本のイラストレーターHota、手書きの花や星などのデザインにLA在住の日本人クリエイターShun Kinoshitaが参加し、「ミュージシャン」のミュージックビデオは日本の音楽ユニットずっと真夜中でいいのに。の「秒針を噛む」も手掛けるWaboku、Mahが監督。「トライング・トゥー・フィール・アライブ」は北海道出身のバンド、ガリレオ・ガリレイを聴いていたころに生まれた楽曲で、昨年のオンラインフェスでのハイライトだった「ルック・アット・ザ・スカイ」は日本のコード進行にインスパイアものと語っています。


そんな日本との繋がりが深い『ナーチャー』への思い入れもあって、先日リリースされたばかりの今作の日本盤はポーター本人の強い希望によ り、全日本語オリジナル・ブックレット・デザインを始め、日本語の曲タイトルやメッセージ訳、歌詞対訳に至 るまで全てポーターが監修しているという気合の入りよう。あるインタビューでは、最近トラップやダンスミュージックを聴くことが増え、Tohjiもチェックしていると語っていて、秋にはリアルフェスも決定したことですし、今後の彼の生み出すクリエイティブやコラボレーションで一体どんなものを届けてくれるのか今からワクワクが止まりません。

以上、簡単に5つのポイントで紹介しても十二分に伝わってくる日本への愛、そして本人から溢れ出る繊細で優しさに満ちた音楽性。こういった想いを知ることでさらに『ナーチャー』がより魅力的に聴こえてくるはず。そう遠くないいつの日にか、またポーター・ロビンソンに出会えることを楽しみにこのアルバムを聴いてもらえたら嬉しいです。

text by TJO

参考資料:今回の記事を書くにあたり参考にしたインタビューを
様々な角度から、より彼の作品を理解するためにもぜひ読んでみてください

・block.fm:「対談|Porter Robinsonが白濱亜嵐に語る、最新アルバム『Nurture』制作秘話

・GIZMODO:「VRの楽しさと新作とオンラインフェスについて、ポーター・ロビンソンに聞いてみた」

・Billboard JAPAN:「ポーター・ロビンソン 苦悩を乗り越え完成させた『ナーチャー』を語る」

▼リリース情報
Porter Robinson
ニュー・アルバム『Nurture』

2021.04.28 ON SALE
¥2,200(税別)
Porter Robinson監修による対訳、日本語オリジナル・デザイン仕様
視聴/購入リンク↓↓↓↓