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さくらんぼおじさん

先日、事務所ライブの楽屋で先輩の岡野陽一さん(1000万円の借金があるのに常にヘラヘラしてる)が大量のさくらんぼを持って現れた。

「きのう仕事で取ってきたんだ。みんなにも食べてほしいから持ってきたぞ」

なんと岡野さんが後輩のために差し入れとして持ってきたのだ。この人はネタで『生の鶏肉』を使って会場を揺らすほどの爆笑をかっさらうのでてっきり小道具で持ってきたのかと思った。そもそも岡野さんが後輩を想ってこんなことをするなんて考え難い。つい先日だって「ABCお笑いグランプリで優勝したら2万くれよ」と言われたばかりだ。

「じゃあみんなが食べやすいよう楽屋の真ん中に置いて、メッセージも書いとこう」

いったいどうしちゃったんだよ。本来、岡野さんはこんなことをする人間じゃない。つい先日だって「いいか森本。俺は森本の足を引っ張ることができれば他になにもいらないんだ」と言われたばかりだ。

いや、でもこうして人は変わっていくのかもしれない。ここで茶化したら岡野さんの成長を妨げてしまうことになる。僕は黙ってメッセージを書く岡野さんを見守ることにした。

ん??

儲けようとしていた。岡野は岡野のままだった。この人がタダで後輩にさくらんぼを振る舞うわけなかった。しかしこれはあくまでお気持ちだ。先輩だからといって無理にお金を払う必要はない。

しばらくしてさくらんぼゾーンを覗いてみると

なんでだよ。『駆け出しストリートミュージシャン』くらい稼いでいた。やはり1,2年目の後輩たちは気を使ってお金を払ってしまうのかもしれない。これ以上被害額を増やさないため、ここは芸歴7年目の僕が食べても払わないというケースを見せつけるべくさくらんぼをひとつ口の中に放り込んだ。

「うっっっま!!!!!!」

気付いたら僕はウキウキで財布から10円を取り出してビニール袋に投げ入れた。

後輩たちは気を使ったのではない。美味しいさくらんぼに対してのお気持ちが抑えられなくなっただけだったのだ。そもそも岡野さんに気を使ってる後輩なんて見たことがなかった。

しばらくすると近くの別会場でライブをしていたヤーレンズ出井さんが楽屋に遊びに来てくれた。あいさつもそこそこに岡野さんのさくらんぼに気付いた出井さんは

「……」

「……(チャリン)」

無言でチャリンじゃないんだよ。そしてそのままさくらんぼの余韻に浸りながら去っていった。さくらんぼだけ食べに他事務所ライブの楽屋来るなよ。

その後、集まったお金を回収する岡野さん。

「442円稼いだぞ〜」

絵に描いたような『爆裂コソ泥フェイス』で報告してきた。なんだったら後半は「わたしが丹精込めて育てました」みたいな振る舞いをしていた。

もしかしたらこれに味をしめてまたさくらんぼで小銭稼ぎをしそうで恐ろしい。

そうなる前に岡野さんには一刻も早く、

人生2度目のチェリーを卒業してほしい。

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