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【音食同源】第38回:青森「くどうラーメン」のチャーシューメン(中)とザ・ローリング・ストーンズ「It's Only Rock'n Roll」

取材のため、久しぶりに青森にやってきました。

青森駅のすぐ近くに宿を取ってもらったのですが、帰りの新幹線まで時間があったので、しばらく散歩することに。

何しろ、前日は一日中ホールの中で椅子に腰かけたままじっとしていたので、少しでも体を動かさなくてはという思いと、久しぶりの青森を満喫したいという気持ちもありました。雪が舞う街の光景は雪国の方にとっては日常でも、都会に住んでいると新鮮に感じるものです。自分も田舎の出身なのに、なんだか一丁前に都会人ぶって街を歩いてみました。

すると、道路沿いに一軒のラーメン屋さんが。どうやら地元ではもちろん、旅行客にも有名なお店のようです。早朝から営業しているらしく、店内には午前中にも関わらず多くのお客さんがいました。券売機で「チャーシューメン(中)」の券を買い、店員さんに渡します。ごくごく普通の食堂の、ごくごく普通のお姉さんというかおばさまたちが働いていて、店内には雑誌や新聞のたぐいがあり、テレビもついています。ごくごく、ありきたりな普通の風景。そして、出てきたラーメンは、これまた「普通」な見た目、普通なしょうゆ味。麺も、チャーシューも、普通。ごくごく当たり前で普通な店の、普通のラーメン。でも、それがイイ。いや、最高と言っていいくらい、良いのでした。

考えてみたら、このラーメンを「普通」に思える感覚って、すべての世代に共通しているわけじゃないんですよね。きっと、自分にとっては昔からラーメンといえばこういう見た目と味が普通だっただけであって、人によっても住んでいた環境によっても違います。どれが普通でどれが普通じゃないのかは人それぞれです。その感覚はあらゆる物事において、当てはめることができるのでしょう。3コードのロックンロールを誰もが「スタンダード」だとは思ってはいない、ということは近年とてもよく感じることです。スタンダードなものがあってこそのカウンターとしての「オルタナティブ」だと思うのですが、今や多くのジャンルにおいてそれは逆転現象を起こしている気すらします。それは時代の変化であって、それを好むか好まざるかは、趣味趣向の問題です。自分も、色んな音楽を聴きますし、色んなお笑い芸人さんが好きですし、色んなタイプのラーメンを食べます。あらゆるジャンルで多様性がどんどん広がってきて、いつでもどんなものでもそれぞれがチョイスして楽しめる世の中です。

だからこそ、なおさらこのシンプル極まりないラーメンを「普通」に美味しく感じる自分の感覚をとても大事にしたいし、とてもいいなあ~と、思ったのでした。

ザ・ローリング・ストーンズ「 It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It)」の有名すぎるほど有名な一節。「たかがロックンロール 、でもそれが大好きなんだ」。そう言ってしまえる気楽さが、シンプルなロックンロールにはあります。店主がバンダナに腕組みをして出してくるラーメンよりも、「たかがラーメン」と言ってしまえる庶民的な味(言うまでもなく手は込んでいるはずですが)の青森「くどうラーメン」。そんな、ロックンロールな味でした。


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