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【音食同源】  第12回:ストリーマーラテとビョーク『Utopia』

フリーランスで自宅を仕事場としている人のあるあるだと思いますが、自宅で仕事をする上で一番の敵は、「睡魔」です。

デスクで文字起こし、編集作業や調べもの等をしているときにそいつはふいに襲ってきます。ときにはさっき起きたばかりなのに、なぜか仕事を始めたとたんに眠くなってしまったり、「ちょっと仮眠してからまたやろう。その方が効率的だからな」と、30分だけ寝るつもりがいつの間にやら5時間経過、時間旅行してしまうことがあります。「夢は時間を裏切らない、時間も夢を裏切らない」。たしか松本零士さんが言っていた気がしますが、時間は仕事のやる気をあっという間に裏切ってきます。

そこで、最近はどうしてもやらなければいけない、締め切り間近な仕事を抱えているときには、近所の「STREAMER COFFEE」に行くことにしました。これまでは、「カフェで仕事をしているライター」って、渋谷直角さんに漫画に出てきそうなサブカルクソ野郎的な感じがしてなんとなく抵抗があったのですが、誰もがMac持参であちこちで仕事をしている昨今、そんな小さなことを機にしているのもばかばかしい。さらに、僕がカフェに行くようになった決定的なこと、それは最寄り駅に隣接した「STREAMER COFFEE」がいつ見てもめちゃめちゃ空いているからです。平日の日中とはいえ、渋谷の街中ならばこんなに空いているカフェはないはず。これはカフェ運があるといえるでしょう。

頼むのはいつもメニューの一番上にあるストリーマーラテ。それしかわからないから。猫舌なので冷めるのをしばらく待ってzzz…と啜りつつ仕事を開始、だいたい3時間~4時間程度滞在します。そんな僕ですが、先日は仕事を一切せずに、ただまったりとしたいというだけでカフェに行ってみました。そして、何か音楽を聴こうとスマホをいじっていて、なんとなくビョークの新作アルバム『Utopia』を聴いてみることに。もちろんビョークを聴くのは初めてではありません。『Post』『HOMOGENIC』等初期作品は聴いてましたし、主演映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の救いようのない虚しいエンディングに無言で映画館を出た記憶もあります。近年は『Volta』等を完全に面白がってジャケ買いしていました。

今回久しぶりのビョーク体験となる新作『Utopia』をカフェでまったりしながら聴いてみたところ、もはや何ごとが行われているかもわからないその音の様子に驚かされました。何しろ、「楽器の演奏があってそれに乗せた歌がある」という概念がまったくありません。というか、そんな概念はとっくにビョークの中にまったくないのかもしれませんが。浮かんでくるのは野原でバッタが飛んでいるところでしゃべるように歌っている何者かもわからない謎の生き物、ビョークです。これは歌なのか?と言いたくなるほど、節のない感じの曲が並んでいながら、ちゃんと作品になっている。いや、なっているのかもわかりません。

正直理解ができたのかといったら、できていません。というよりも、これは「理解しなきゃいけない」という、マニアックな音楽リスナーが抱える強迫観念への挑戦ではないかとすら思いました。そんなことを考えていたのかどうかもいまとなっては覚えていませんが、『Utopia』を聴き終わる頃には、ストリーマーラテはすっかり冷め、外も日が暮れていました。そこには部屋でつい眠ってしまったときとはまったく違う時間の過ぎ方がありました。師走のこの時期、仕事の忙しさでいっぱいいっぱいになってしまいそうになったら、またカフェでまったりしながらビョーク『Utopia』を聴いて時間を忘れてみようと思います。

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