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【音食同源】  第26回:GABAとノラ・ジョーンズ「Don't Know Why」

先日の日曜日、家でたまった文字起こしや編集仕事をしていました。

よく、友人などに「休みいつなの?」と訊かれることがあるのですが、別に土日だからといって仕事をしないかというとそんなことはありません。音楽のライヴレポートに行くこともあれば普通にインタビュー取材をすることもあります。先日は、音楽とまったく関係のない、高校生が経済についての知識を競い合う大会の取材などもありました。土日に働くからといって、代休的に他の日にまったく仕事をせずに休むということもありません。つまり、フリーランスの仕事には基本的に決まった休みはないということです。ただし、その分自由に時間をやりくりしてちょっと息抜きをしたりできるのはメリットで、たまにちょっと遠出して気分転換をすることもあります。

そんな生活を続けている私ですが、今年に入ってからはあまりの寒さに家からどんどんでなくなってしまいました。取材があったり飲みに行くことでもなければ外出することがなくなった私は、仕事をしながら気分転換する方法を考えました。それにはまず部屋に中に素敵な音楽を流すことです。文字起こしをしているときは聴けませんが、その他の仕事のときにはノラ・ジョーンズを聴くことにしました。

とくに先日の日曜日、太陽が隠れたままの一日に、さすがに憂鬱になってきた私にはノラ・ジョーンズの声はジャスト・フィットでした。そして、その美しくも哀しみを湛えた歌声をより味わい深く聴くために、めったに飲まないインスタントコーヒーを淹れ、コンビニで買った“ストレスを軽減する”チョコレート「GABA」を食べながら地道に仕事をこなしました。なんという至福のとき。日曜日だからといって何もなくて良い、仕事をしながらノラ・ジョーンズの歌声、コーヒー、そしてGABAがあればいい。ストレス知らずなマイルーム。うん、快適な気分で仕事も順調に進みます。と、思った矢先でした。机の上に置いたGABAが赤いパッケージをくねらせながら、落下していきました。真っ逆さまに床に落ちるGABA。その袋の口は開いたままでした。ビリヤードの第一打のようにシュパーンと床に転がり拡散されていくGABAたち。狭く散らかった部屋で彼らを見つけることは困難を極めました。ストレスを軽減するどころかストレスを思いっきりブーストさせているではありませんか。

私が「もぉぉぉ!」と誰にともなくストレスをぶつけながら、ストレス軽減という本来の目的を放棄し、恩をあだで返すビターなやつ・GABAをかき集めました。その間、ノラ・ジョーンズは歌い続けています。そのときにようやく、その声こそが最大のストレス解消に役立つことがわかりました。ストレス解消チョコなどに頼らなくてもいい、こんなに癒される音楽があるじゃないか。落ち着くんだ。ノラ・ジョーンズの歌声はそう言ってるかのようでした。後日、落とした現場からは離れた台所付近で、おもいっきり「グニャリ」と、柔らかくなったGABAを1粒踏んでしまいました。「なぜか逃げ出したあなたを なぜ、探しに行かなかったのかしら」。ノラ・ジョーンズは「Don't Know Why」で歌っています。逃げ出したチョコ、落としたチョコは早めに拾わなきゃだめ。土日もなく働くことで得られた教訓です。


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