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フランス大使館で開催された「Green Manufacturing Seminar」レポート ①

2024年3月13日~15日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で、欧州最大級の総合産業展示会「グローバルインダストリー」の日本版「SMART MANUFACTURING SUMMIT BY GLOBAL INDUSTRIE」が開催されます。

これに先立ち、2023年12月8日、東京・港区のフランス大使館にて「Green Manufacturing Seminar」が催されました。日仏の政策担当者、およびフランス企業4社による「製造業のグリーン化(グリーン・マニュファクチャリング)」への挑戦と成功事例が語られたイベントのサマリーをご紹介します。

脱炭素はイノベーションの促進がカギとなる

まずは、日本政府の脱炭素戦略について、経済産業省産業技術環境局環境政策課の太田優人氏が基調講演を行いました。太田氏自身、SMART MANUFACTURING SUMMITが開催される愛知県で育ち、「愛知県はものづくりの街であるとともに、炭素に依存している街でもあります。」と紹介しました。

太田氏は「日本は2030年度におけるGHG(温室効果ガス)の排出量46%削減(2013年度比)を表明、さらに2050年度までのカーボンニュートラルも目標にしています。脱炭素のカギとなるのはイノベーションです。そして実際に、我が国の戦略として、国際的なイノベーションの促進に重点を置いています。」と述べました。

経済産業省産業技術環境局環境政策課の太田優人氏。(筆者撮影)

続いて日本の脱炭素化に向けた取り組みについて、「日本における温室効果ガスの排出量は着実に減少しています。ただし、2021年の現状はマイナス17%にとどまり2030年の目標マイナス46%には遠く、排出量削減には行き詰まりもみられるのも事実です。」とし、その原因の一部は「経済の縮小で、企業の脱炭素化の投資が進まないことにある。」と指摘しました。

そして「産業部門の脱炭素化が難しいのはこのためです。また、エネルギー産業や重工業は化石燃料に依存しています。産業界のみで二酸化炭素の排出を削減するには限界があるため、政府としては、企業のテクノロジーへの投資を促すと同時に、新しいテクノロジーの研究開発活動への投資を推進しています。

研究開発には不確定なところが多く、まだ技術は競争段階にありますが、イノベーションの促進のためには、ある程度の財政支出が必要です。再生可能エネルギーや重工業への融資を1兆円程度に増やしていく予定です。」と説明しました。

G7各国の温室効果ガス削減の推移。現状は−17%にとどまっている。 出典)Greenhouse Gas Inventory Data (UNFCCC), EEA [Approximated estimates for greenhouse gas emissions],UK Net greenhouse gas emissions on a territorial basis J, Ministry of the Environment: FY2021 Created based on greenhouse gas emissions (confirmed values)


日本における二酸化炭素の排出は、エネルギー部門の占める割合が大きい。 出典)Created from Greenhouse Gas Inventory Office "Japanese greenhouse gas emission data"、IEA, CO2 Emissions from Fuel Combustion Highlights 2020

カーボンプライシングの導入

太田氏は、2023年に広島で開催されたG7サミットにも触れ、企業や大学と連携する重要性、そして環境問題に関する資金を調達する「グリーンボンド」や、企業などが排出する二酸化炭素に価格を設定する「カーボンプライシング」の導入についても話を進めました。

「将来的にはカーボンプライシングを導入し、企業が自らの排出量を削減する動機にしたいと考えています。そのために先行するEU諸国などから、そのシステムを学んでいきたいと思います。

そして、補助金と税額控除も準備します。全体で150兆円のうち、約半分を投資する予定で、これにより製鉄産業と化学産業の現状を改善したいと考えています。」と説明しました。

最後に経産省が進める成長志向型のカーボンプライシング構想「GX-ETS」について、「現在は試験段階ですが、すでに日本の排出量の40%以上をカバーしています。そして、発電部門では排出枠を有償で調達するオークションシステムを導入します。

水素利用のための研究開発活動にも投資する予定で、この技術が実用化されるまでには5年から10年程度かかるかと思います。GX-ETS2026 会計年度から正式に開始する予定です。」と述べました。

政府が進めるGX-ETSの概要。現在はトライアル段階で、2026年より正式に運用される。

フランスで効果が高かった排出量取引制度

続いて登壇したのは、フランス政府産業政策局企業総局、再生・脱炭素課のジャナン氏。フランス産業界における脱炭素化の現状を語りました。

ジャナン氏は「フランスの場合、炭素の排出は、いくつかの業界に集中しています。建築材料、特にセメントなど、化学産業が大きな部分を占めているのが特徴です。また、農業産業も大きな排出源となっています。フランスの場合、それらの産業は海沿いに集中しており、マルセイユ周辺や南フランス、北フランス、ダンケルク周辺が、業界の排出量の半分以上を占めています。

これらの地域から、どのように脱炭素化し、どのようにインフラを最適化するか考える必要があります。例えば、水素ネットワーク、CO2ネットワーク、電力ネットワーク、熱ネットワーク、脱炭素化のコスト削減などです。ただし、必要なことを実現するために、高度な技術が必要です。」とフランスの脱炭素の取り組みについて紹介しました。

フランス政府 産業政策局企業総局ジャナン氏の基調講演はオンラインで行われました。
(筆者撮影)

すでにフランスでは、「ETS(排出量取引制度)とCBAM(炭素国境調整メカニズム)が導入されています。ETSが施行されてからすでに15年が過ぎ、業界全体では大幅に排出量を削減できており、非常に効率的な市場メカニズムであった。」とジャナン氏は振り返り、「今後は公的資金の投入も必要だ。」と語りました。

続いて「多くの企業が、公的支援を必要としています。排出量を縮小する必要がありますが、多くは自社での投資に消極的であり、十分な達成が得られていません。すでに2020年と2021年、フランス全土で産業を支援する250のプロジェクトに対し、年間500万トンのCO2を削減するために12億ユーロを投資しました。

今後5年間で5億から10億ユーロを投資して、業界の脱炭素化を支援する予定です。私たちの目標は非常に野心的でもあり、達成は容易ではありません。そのためにも多額の資金が必要です。」と言及しました。


フランスにおける産業界の脱炭素の全体像。約50か所からの二酸化炭素排出が産業排出量全体の50%を占めており、重点的に対策が進められる。
241のプロジェクトを選定し、12億ユーロの補助金を投入。年間4,700万トンのCO2削減できた。これはフランスの気候行動計画における産業の目標の14%分に相当する。

ヨーロッパ諸国では、脱炭素のために水素テクノロジーに多額の投資を行っています。水素は利用時に二酸化炭素を排出しないため、水素発電や水素自動車といった水素サプライチェーンが期待されています。フランスでは水素テクノロジーへの投資額が70億ユーロ強にも達しているそうです。

ジャナン氏は「製鉄などのプロセスで水素を使用することは非常に革新的です。また、二酸化炭素を回収して地下に貯留するCCSについても推進する予定です。新しい技術に関するポイントはコストの削減です。

コストが高ければ普及しないからです。過去15年間で、再生可能エネルギーの開発が行われ、再生可能エネルギーのコストは大幅に下がりました。また、公的な支援も含め、できるだけ早く実現できるよう努力しています。」と説明がありました。

また、太陽電池プラント、ヒートポンププラントといったフランスのグリーン産業への支援体制についても説明があり、この分野での日本企業とのパートナーシップにも期待を表明して講演を締めくくりました。(小口覺)

レポートその2に続く。

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

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