“良心をビジネスにした人たち”とかすがう、「スナックかすがい」 第三夜・体験記

Text by 文園ぴりか | Pilika Fumizono 
Photo by TATSUYA

トークライブ前の、ひとりごと。

先月参加してすっかりファンになり、今月もまた来てしまった。そう、今日は月に一度の「スナックかすがい」開店日。トークライブまでまだ間があるけれど、一緒に来た友人と、飲み放題のベルギー生ビール「ヒューガルテン」でさっそくカンパイ。受付で首にかけてもらった「グリーン豆・燻製風味」をカリポリ食べながら、「WeWork新橋」に集まりだした人々の喧騒とイベント前のソワソワした空氣を、胸いっぱいに吸い込んでみる。

第三回目となる今夜のテーマは、「良心をビジネスにした人たち~途轍もないアイデアの実現と継続のレシピ」。またまた面白そうなタイトルに、心の目が輝いている。今夜のゲストの光本さんと川口さんは、30代と20代。“良心をビジネスにする途轍もないアイデア”は、これまでの既成概念にとらわれない若さのタマモノかもしれない。今日はその若いセンスを、存分にチャージさせてもらおう。

それにしても、このポップアップスナックを企画・運営している春日井製菓(株)は、相当お茶目でクレバーな会社だと思わずにはいられない。だって、創業 91年目を迎える老舗級の菓子メーカーでありながら「スナックかすがい」などとネーミングしたこんな月いちイベントを開いてしまうなんて、ニクイほどシャレが利いているではないか。

「つながり」が以前にも増して重要視され、「絆」や「共生」という言葉があちこちで叫ばれているこの時代に、創業者の苗字に由来する社名が“ふたつの存在をガッチリつなぐ代名詞”として知られる「子はかすがい」の「鎹(かすがい)」と同じ音だったとは、もうそれ自体何だか運命的な感じがするが、この会社はその一致をオヤジギャグとして葬り去ることなく恵みとして活かし、このスナック形式のイベントを始めたのだ。私はコピーライターとして、このやわらかな着想と「もうすぐ創業100年」という重厚さとのギャップに、萌えずにはいられない。

しかも、このスナックを企画・運営しているのは、なんと全員、春日井製菓の社員なのだ。これまでの私の経験だと、TVCMを流している規模の企業がこのようなイベントを行う場合、広告代理店やイベント会社が企画・運営を請け負うのが常識で、自社の社員が自分たちだけでイベントの企画・運営をするなど聞いたことがなかった。

社員たちが自ら考え、動き、自分たちの商品を買ってくれるユーザーたちと直接ふれあうイベントを自ら運営しているなんて、かなり珍しくて斬新なことだと思う。そしてまたその社員さんたちの様子が素朴で楽しげなので、こちらも何だか親しみを感じ、オトクな料金設定やトークライブの魅力も手伝って、ついまた来たくなってしまうのだ。 

二度目にしてすっかりこのスナックの常連氣分になっている私だが、実は前回参加するまでは「春日井製菓」と言われてもピンと来ず、「かす~がい~の~グリーン豆♪」というコマソンが記憶の彼方にうっすら残っていた程度だった。

が、前回ここで春日井製菓の商品を見たり食べたりし、手みやげでもらった商品の詰め合わせセットを「なるほど、こんなのも出してるのね~」と思いつつ家で味わったせいか、最近はスーパーやコンビニでこの会社の商品がやけに目に付くようになり、お店に並んでいるのを見ると、何だか友達に会ったような親しみを感じるのだ。今までは認識すらしていなかったのに、いやはや何とも、「スナックかすがい」恐るべし。

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“良心をビジネスにした”若者たち。

…などと思っているうちに、いよいよトークライブがスタート。今回のゲストスピーカーは、売りたいモノの写真を送信すれば与信審査なしで瞬時に買取額のキャッシュを振込み、現物の郵送は2週間以内でOKという『CASH(キャッシュ)』や、思い立った時に旅行に行けて費用の振込みは2ヶ月後でOK、という『TRAVEL Now(トラベル・ナウ)』などのスマホアプリサービスを提供する「株式会社バンク」の代表取締役CEO・光本勇介さん(38歳)と、14歳で炊き出しボランティアに参加して以来ホームレス支援に携わり続け、20歳で彼らの就労先となるシェアサイクルビジネス『HUBchari(ハブチャリ)』を立上げ、2018年にはホームレスの人のための宿泊施設『アンドセンター』を設立した、「NPO法人Homedoor」理事長・川口加奈さん(28歳)。

光本さんは、外資系の大手広告代理店「オグルヴィ&メイザー」を退社した約10年前からインターネットを活用した事業を次々立上げ展開中。『キャッシュ』や『トラベルナウ』以前は、「自家用車の大半は駐車場で眠っていて使われていない」という事実と「レンタカーの需要は伸びている」という事実をマッチングさせた個人間取引のカーシェアリング事業『CaFoRe(カフォレ)』や、おしゃれなオンラインストアを最短2分で無料作成できる『STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)』などのインターネット事業を立ち上げてきた実績がある。

「ぼくの夢は、マス(大衆)に選ばれるサービスをつくること」と語る光本さんが目指している本質は、そして、インターネット事業にこだわる理由は、いったいどんなことなのだろう?

インターネットなら、小さな資本で世の中を変えられる。

これはぼくがよく話す例えなんですけど、ぼくはキャバクラや合コンに行って事業名を言った時に、女の子たちに「きゃ~すごい!」って言ってもらえるものをつくりたいんですね(笑)。なぜなら、彼女たちに「きゃ~♡」って言ってもらえるってことは、それだけ名前が知られていて、すごいと思ってもらえていて、もうマス(大衆)に受けいれられている証拠だから。

ありきたりかもしれませんが、「自分の手で世の中を変えてみたい」っていう想いが、ぼくのいちばんのエネルギーになってる気がします。

ぼくは新卒で外資系の広告代理店に入ったんですけど、広告代理店ではよく『アレオレ詐欺』っていうのがあって、それはたとえば週末に彼女と家でテレビを見ている時に自分が制作に関わったCMが流れると、『あれ、オレがつくった』ってドヤ顔で言う人たちがいっぱいいるってことなんです(笑)。

まぁ確かにその人はそのCMづくりに関わったかもしれないけれど、TVCMって100人以上の人が関わってつくられているから、「オレがつくった」と言っても、ホントは100人のうちの一人でしかない。

でも、インターネットの世界には大きな資本やチームや会社じゃなくても大きく世の中を変えられる可能性がいっぱい転がっていて、心から『あれ、オレがつくった!』って言えるんですね。

だから、やるならやっぱりインターネットの領域だな、と思ったし、世の中の事業を見渡してみた時に、ぼくがワクワクするのはやっぱりインターネットを使った事業だったので、自分でもそういった事業や会社をつくって世の中を変えてみたいな、と思って、ここ10年くらいやってきています。

「最悪」を想定しておけば、「失敗」はない。

やんちゃな瞳で楽しそうにそう語る光本さんのベビーフェイスに、私は何だかつかみどころのない氣持ちになった。なぜなら、彼の顔や口調は世知辛い世間の風になど当たったことがないかのように屈託がなく、ズルさや苦労の跡がちっとも感じられなかったから。

「自分の手で世の中を変えてみたい」という野望を成就できる人など実際は一握りであろう厳しい世界を生き抜いてきたはずなのに、少年の瞳と晴れた声で「世の中は可能性だらけで、やってみなくちゃわからない」と言い放ち、「ほしいものを今すぐあげます。支払いは後からゆっくりどうぞ」という性善説に基づくような事業を次から次へと立上げ、成功させてきた光本さん。

彼はなぜこんなにも軽やかに「人を信じること」を前提としたビジネスを展開できたのか。そのビジネスが爆発的な売上げを上げているのはなぜなのか。その理由を突き止めたくて、私は彼の言葉に耳と心を集中させた。

「よくそんな事業を立ち上げたね、怖いと思わなかったの?」とか、「けっこうリスク取るよね」とよく言われるんですけど、ぼくからするとリスクを取ってるつもりはまったくないんですよね。基本的に何でもやってみないとわからないので、ぼくにとってはすべてが“実験”。

世の中はいつもめちゃくちゃ変化していて、トレンドなんてデータをとってもつかめないことの方が多い。だからまずやってみることの方が手っ取り早いし、それが最高のマーケティング活動だと思っています。

すべてが“実験”なので、失敗したとしても「これをやると失敗する」という成果が得られるから実験の目的は達成されるわけで、失敗も成功と同じこと。むしろ成功するより失敗した時の方が得られる経験や知見や知識が多いから、全然怖くありません。

それに、実験やチャレンジって「最悪のケース」を想定できるじゃないですか。その「最悪のケース」は一般的に見ると「リスク」なのかもしれませんが、「最悪の状態」が見えているならそれ以下はないわけで、ぼくの場合はどの事業も「最悪ここまでは良しとする」と思ってやっているので、何の怖さもないんですよ。

例えば、持っている以上のお金が出て行く実験は成り立たないけれど、持っているお金の最高10%までなら失ってもいい、とか、自分なりのラインを決めて実験すれば、何も怖くないと思いませんか?

なるほど、確かに「最悪のケース」を明確に想定できていればそれが現実になる手前で回避できるわけで、そうすればそこまでに得られたすべての実験結果は、「二度と同じ轍を踏まない」という意味も含めた「成功への貴重な資料」になり得るだろう。

起業について素人考えしか持ち合わせていない私が、これまで自分や他者が夢の実現に踏み出し「最悪のケース」に陥って悲しい結末を迎えた例を思い出してみると、夢の実現に踏み出す時、「成功のヴィジョン」は描いても「最悪のヴィジョン」を明確に描くことはしていなかったことに氣がついた。もしも最初に「成功」だけでなく「最悪のケース」をも冷静にヴィジョンできていれば、確かにそれをしない場合よりずっと、「最悪」を回避できる可能性は高まるはずだ。

今さらながら過去の自分の詰めの甘さを痛感し、頭の片隅でふと、南米最高峰の登頂とスキー滑降という夢の実現を目前に控えつつ医師の助言を受けいれ下山を決断した、プロスキーヤーの三浦雄一郎さんを思い出した。夢の実現に本氣で取り組んでいる人ほど「最悪のケース」を明確に認識していて、途方もないチャレンジに踏み出す勇氣は、そこをハッキリと見据えておく強さと覚悟に根ざしているのかもしれない。

「ホームレス支援になる」とは打ち出さない。

もうひとりのゲスト、川口加奈さんは、14歳でホームレス支援の炊き出しボランティアに参加したのをきっかけにホームレス問題に取り組み始め、19歳でホームレス支援のNPO法人「Homedoor(ホームドア)」を立ち上げた28歳。先日、日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー 再出発サポート賞」も受賞した"時の人"は、いったいどんな想いで、どんな事業を展開しているのだろう?

“ホームドア”は、お金や住民票やケータイなどを一切持っていないホームレスの人々でも働ける場所をつくりたいという想いで始めました。

せっかくなら彼らが得意なことを仕事にしようと思って聞いて回ったら、ホームレスの人の7割近くが自転車修理が得意であることがわかったんですが、その理由、わかりますか?

ホームレスの人って、「働いてない」とか「怠けてる」って言われがちなんですけれど、実は7割の人が“缶集め”という廃品回収の仕事をしていて、それは10時間集め回ると全国平均で1,000円、時給換算だと100円にしかならないのですが、その稼ぎを得るには自転車がマストアイテムなってくるんですね。

で、大量の缶を積んで一日10時間回るとやっぱり自転車も壊れてくるわけですが、1,000円の収入からパンク修理代500円も出していられないのでセルフで修理するようになり、結果的に自転車修理が得意になる、ということなんです。

そこで、その特技を活かしてビジネスをつくれないかと考え、8年前の2011年に、まだ日本では今のように普及していなかった「シェアサイクル」に目を向けました。

駐輪場不足や放置自転車などの問題を解決しようという主旨でヨーロッパから広まってきたそのビジネスをホームレスのおっちゃんたちがやれば、ずっと支援される立場だった彼らに「自転車問題を解決する担い手」として支援する側に回ってもらえる。それはいい考えじゃないかな、と。

もちろん自転車修理屋さんや中古自転車販売なども考えましたが、それらはすでにやっている人が多く、既存のお店との差別化を打ち出すとなると『ホームレス支援につながる』という部分になってしまうので、それってなんかヤダな、と思ったんですね。

そもそも「ホームレス支援」には関心を集めにくい現状があったので、打ち出したところであまり効果は見込めないだろうし、すでに中古自転車屋さんが多数ある中で万が一ウチが大儲かりして他の自転車屋さんをつぶしてしまったら元も子もないですしね。

それで結局、当時まだ大阪になかった「シェアサイクル」はいいんじゃないか、ということになったんです。シェアサイクルのお客さんたちは「便利だから使う」という人がほとんどで、そうやってふつうに使ってもらって、後から「実はこれがホームレス支援につながってたんだ」と知ってもらう方が、彼らへの偏見がなくなるとも思いました。

この話の後にスナックのマスターから感想を求められたお客さんが、「既存の商売をやっている方々への影響も考え合わせ、“誰もやっていないことをやる”という目の付けどころがスゴイなぁと思いました」と言っていたが、川口さんの話には一貫して”社会全体を冷静に見わたす力”と、”誰もを平等に大切にするまなざし”がにじんでいる氣がした。

社会的事業として”ホームレス支援”という正義感を前面に打ち出すのではなく、あくまで通常のビジネスとして成り立つかどうか、という観点で事業が立ち上げられていたことに、聴き手はハッとさせられたのではなかろうか。

「営業」より、「実験」

立ち上げから6年経ち、「最近はシェアサイクルの他にも、駐輪管理や自転車の出張メンテナンスサービスなど、仕事の幅が広がってきています」という『ハブチャリ』だが、実は立上げ当初の1年間は、踏んだり蹴ったりだったらしい。

シェアサイクルはヨーロッパでは行政主導の公共事業として普及していたので、私たちもまずは大阪市に協力を仰いだのですが、相手にされずたらいまわしにされてしまって…。

それなら企業のビルの玄関先などをシェアサイクルの拠点として提供してもらおうと約300社に飛び込み営業したんですが、「ホームドア」という団体名が不動産業者だと誤解されたり、女子大生がホームレス支援していることに共感も理解も得られず怪しまれるばかりで、結局一年ロスしました。

困り果てて相談した起業家の先輩のアドバイスで「1週間限定でシェアサイクルの実験をやってみよう」ということになり、イベント的に場所を貸してくれた4ヵ所を拠点にやってみたら、それがニュース番組のWBS(ワールド・ビジネス・サテライト)に取り上げられ、それを機にやっと場所を提供してくれる企業さんが現れたんです。

なるほど、新しい事業を始める時、「ひとまず実験的にイベント形式でそれをやってみる」というのは、リアルなアイデアと言えそうだ。新しいことは、言葉で説明するよりもやって見せた方が手っ取り早く魅力が伝わるだろうし、今はSNSを通して体験者自身が広報してくれる可能性も高い。川口さんの実験エピソードに光本さんも共感。マイクをふられた勢いで、笑いながらいきなりこう切り出したのだ。

すみません、実はぼく川口さんの話を聞きながら、今ずっと新しいビジネスのアイデアを妄想してました(笑)。

光本流・ビジネスのつくり方

ホームレスの人の7割が自転車修理が得意っていうのがすごく面白いなと思って、そこから新しいビジネスをつくれないかと思って勝手にずっと妄想してました(笑)。

で、思いついたのが“金貸しのモノ版”で『動産融資』の考え方なんですけど、例えばぼくが新品の自転車パーツを原価で仕入れ、ホームレスの人々に貸して自転車を組み立ててもらい、完成した新品自転車を販売し、その売上げから融資分を差し引いた額をホームレスの人々と折半するっていうビジネスができないかな、って。

たぶん自転車部品の原価は全部で1,500円くらいだから、できあがった自転車を8,000円で売ると一台につき6,500円の利益で、その半額の3,250円が融資の金利分と考えればものすごく儲かる(笑)。

これを「ハブチャリ」とリンクさせるなら、ホームレスの人がつくった自転車にその人の印を付けて『ハブチャリ』のシェアサイクルとして使い、その自転車が使われるたびにレンタル料の例えば20%が作者に支払われ、その自転車が稼いでくれるレンタル料から出資者への部品代も返金される、っていうしくみをつくることもできる。

世の中は経済でまわってるので、みんな儲けなきゃ意味がないんです。ホームレスの人も儲かるし、ぼくも儲かるし、世の中の人も便利になるっていうのが最高のビジネスだから、どうすればいちばん儲かるだろう?って、さっきからずっと考えてました(笑)。

数々の成功を収めている光本さんの脳内からライブで生み出されるビジネスアイデアに聴き手たちは惹き込まれ、川口さんも「おもしろいですね!」と乗り氣に。これぞ「かすがい成果」。実際のビジネスとして世に出されるよう、ぜひとも期待しようではないか。

「良心」「社会貢献」≠「儲かるビジネス」?

ここで光本さんから、今回のテーマに切り込む問いが投げかけられた。

光本さん:ぼくは“社会起業家”とか“ソーシャルビジネス”っていう言葉にいつも違和感を感じるんですけど、みなさんはどうなんですかね…。ぼくは、全員起業家だし、ぜんぶがビジネスだから、別に“社会起業家”って分ける必要はないと思ってるんですけど。
川口さん:私は自分を起業家とすら思ったことがなくて、おっちゃんの話し相手、というのがしっくりきます(笑)。私はもともとホームレスの人たちを全くよく思っていなくて、「自己責任ちゃうの?」とか「もっと勉強したらええ大学行って何とかなっちゃんちゃうん?」とか思っていたタイプだったんです。

でも、たまたま炊き出しに参加して実際にホームレスのおっちゃんたちと話してみたらいろんな事情がわかってきて、「え?私が思ってたのと全然違うやん!」とビックリして、そのギャップを知った時に、「なんかできることないかな」って思ったんですよね。

“ホームレス”って一括りにしていても、ほんとはちゃんと一人ひとりに名前があるわけで、ちょっと話してる間にまずその人の名前がわかって、それまで「こんばんは」って話しかけてたのが「○○さん、こんばんは」になって、そうしたら「おう来たんか」と言って起きてくれて、ちょっと話しているうちに「ウチの事務所でシャワー無料で使えるから、よかったら来たら?」となって、シャワーを使いに来てるうちに「実は高血圧でしんどくて」みたいな話が出てきて、「じゃあ一緒に無料診療を受けに行ってみようか」となったり。

そうやって一つひとつステップを踏みながら、だんだんと関係性ができてきたんですね。だから私の場合は「社会貢献したい!」と思って熱い想いで取り組み始めたわけではなくて、自分が押せば悪循環が好循環に回るボタンを見つけたから、一つずつ押してきて今に至ってる、という感じなんです。
光本さん:ぼくはどんな事業や実験を考える時も、1日目からちゃんと稼げるかどうかを重視しています。世の中何をするにもお金がかかるし、言ってみれば結局のところ息をするにもお金がかかってるわけじゃないですか。だから、お金を稼ぐことは超大切で、稼げるかどうかはしっかり検証するし、儲からない実験はしません。

前提として、世の中と利用してくれる人をハッピーにしないビジネスは絶対に普及しないし、マスに選ばれるサービスにはならないんですね。そう考えると、世の中とユーザーをハッピーにしているものは、超ビジネスでありながら社会貢献にもなっているのかもしれない。

ワンショットで人を騙すのは超カンタンですけれど、それは多くの人に継続的に選ばれるサービスにはならないので、継続的に人をハッピーにするサービスって何だろう?と、いつも考えてます。

ふたりの言葉を聞きながら、彼らを「社会起業家」と呼び特別視したがる傾向には、「良心を曲げずともビジネスはできると信じたい」という想いがあり、裏返せばそれは「良心とビジネスは相容れないものである」という想いに基づいているのではないか、と氣がついた。

「社会貢献事業」「社会起業家」「良心をビジネスにする」という言葉に心惹かれる私たちは、もしかしたら意識のどこかで、「お金儲け=悪代官」、「ビジネス=狡猾で冷徹なもの」、「利益を上げること=良心を殺すこと」と思い込んでいる部分があるのかもしれない。

一方、光本さんと川口さんにとってビジネスは、「自立」や「自分や人をイキイキと生かすこと」を実現するための切実な手段で、それを持続させていくためには「他にはない、みんながハッピーになるしくみ」が必要不可欠であると思い至り、それを模索、実験、継続してきた、というシンプルな道理なのではないか。

今現在、「低価格」や「便利」という目先のメリットだけでなく、「健康」や「環境」も含めた大きな視野で人間の持続的な幸せを根本から考慮したビジネスはなかなか見当たらない氣がするけれど、「大勢の人を対象とした継続的なビジネスを成功させるには、継続的に人をハッピーにすることが必要」という確信に基づく光本さん的な発想力と、「悪循環を好循環に変えるボタン」を一つずつ押していく喜びや楽しさに裏付けられた川口さん的な持久力があれば、「良心」や「社会貢献」はビジネスに欠かせない要素となり、お金は単なる「欲しいものとの交換チケット」という役割を超え、心を伝え合う「ポケットサイズの感謝状」になり得るのかもしれない。

「あなたは何に、突き動かされますか?」

ここで二度目の「かすがいタイム」となり、最初に自己紹介し合った人たちと語り合うことに。

「自分を突き動かすもの」というお題には、「その人が何を基軸に生きているのか」を通して実のある交流をしてほしい、という願いと計らいが込められているのだろう。結果的に会場全体に笑顔と熱氣が満ち、私たちのグループも例外に漏れず、初対面同士が以下のような意見を語り、大いに盛り上がった。

いま自分を突き動かすものは、2歳の息子ですね。新しい世界を体験してほしくて、先日も息子にも食べられる餃子を作りました。まだ話せる言葉が限られているのに、ギョーザと言ってくれて泣きましたよ。
自分のやりたいことをする、と決めたことかなぁ…。それがいつしか「目の前にいる人のために何ができるか」というチャレンジに変わってきていて、それを考えて実行して喜んでもらえると、気持ちいいんだよね。
自分が難病で死にかけた経験があるので、そこから得た知識や情報を伝えることで人が元気になるサポートがしたい、という想いが強いですね。
ずっとやりたかった小説を書くようになって、それをやっていると気持ちいいです!

「氣持ちいい」という言葉に全員が共感し、「突き動かされること」とは「やりたいこと」につながっていて、それは「氣持ちよさ」を呼ぶのだと確認し合った。そしてみんなが語った「やりたいこと」や「氣持ちいいこと」のシーンには、自分と誰かの笑顔と愛が、温泉のようにあふれていたのだ。

今回、スナックのちぃママとして司会席に加わっていた“ハッカちゃん”が、ゲストたちとのかすがいタイムの後に、「みなさん人が好きなんだなぁと思いました」と言った時、光本さんは驚きながら「ぼくは人が好きなんじゃなくて、しくみをつくることが好きなんですよ」と主張していたが、トークの中で「『これがないと困るんです』って言ってもらえると、チョーうれしい。そういうサービス、そういうビジネスをつくりたいんですよね」とも言っていた光本さんは、やっぱり人が好きで、「人に必要とされること」に突き動かされてきたのではないかと思う。

「息をするにもお金が必要」と言っていた彼にとって、「必要とされること」は「お金を運んでくれるビジネス」に直結しているのだろうが、「しくみ」も「お金」も「ビジネス」も目的を叶えるための手段だから、彼がそれらの手段によって叶えようとしている目的は、やっぱり「イキイキと生き続けること」だろう。イキイキ生きるには幸せの実感が必要で、それは決して「お金」や「しくみ」からだけ得られるものではないはずなのだ。

突き動かされるものは何かと尋ねられた川口さんが、その「イキイキ生き続けるために必要なもの」の一端を、彼女なりの言葉で、こんなふうに話してくれた。

私はもともと何の特長もない人間で、ホームレス問題に出合った中学2年生の時は特に、今私がこの社会から消えても誰も気づかないだろうな、と思いながら生きてたところがあったんです。

そんな時、私と同世代の中高生たちがホームレスの人を襲撃して殺してしまう事件が起きて、「ホームレスになったのは自己責任」という供述を残している高校生がいて、私もちょっと前まで同じように思っていた側だったので、気持ちはワカルなぁと思って。

でも、私は実際にホームレスの人たちと話して「自己責任なんて言い切れないんだ」と知ったから、先生が「ホームレスを襲っちゃダメ」って言うよりも、私みたいな友達が「ホームレスって実はこういう人たちだったんだよ」って言った方が絶対伝わりやすいと思ったんです。

 私にとってはそれが『自分にしかできないこと』を発見した瞬間で、以来『自分にしかできないこと』をやり続けてきたら結局ぜんぶホームレス問題になっちゃって、今に至ってるっていう感じなんですよ(笑)。

でも、今となってはホームレスの人たちが毎日のように30人くらい事務所にやってきて交流するようになって、ホームドアで仕事を見つけたおっちゃんたちが、百貨店で並んで買った人気のスイーツを「女子限定だよ」と言って差し入れてくれたり、ホームドアの毎月1,000円の寄付制度でサポートを受けていたおっちゃんが仕事を見つけて、「ようやく還元できるよ」と言ってサポートする側になってくれたりして、そういう循環を間近で感じられるようになれて、幸せだな、と思っています。

いつか「スナックかすがい」の番外編を大阪で開き、今日のメンバーでホームドアに集合して、光本さんのアイデアをもとにおっちゃんたちがつくったいろんな色やデザインの「ハブチャリ」からお氣に入りの一台を選び、ガイド役のおっちゃんの案内で、みんなで春の大阪の街をサイクリングしてみたい。

夜はおっちゃんたちとかすがいながらグリーン豆をつまみ、グループごとに「全人類をハッピーにする持続可能なビジネスプラン」を語り合い、光本さんに指南してもらおう。

そう、人や自然とつながってさえいれば、私たちはいつだって無限大の可能性に向かって夢を実現してゆける。「最悪のケース」をしっかりと検証したら、あとはみんなで実験の海原に漕ぎ出そう。何がどう転んだとしてもいつだって、経験という豊かさは、儲かるようにできているのだから。

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第四夜は、2019年3月28日(木)。がらりと変わったテーマで、これまた魅力的なゲストが初対面。どんなお話が飛び出すか、今から胸が高鳴ります。皆さん、ぜひぜひWeWork新橋でカスガイましょう。

※上の画像をクリックすると、申し込みページに移ります。


この体験記を書いてくださった人

文園ぴりか | Pilika Fumizonoさん ◆モノゴトの奥底で光る宝石を全身で感知し、その姿を言葉でコピーするように写し撮ってライトを当てたいと願っている、体感系コピーライター。◆あちこちに潜む色とりどりの宝石(輝きを感じ心ふるえるもの)を見つけ、誰かと一緒にそれを見て喜び合えると至福を感じ、その瞬間を味わいたくて仕事をし、毎日を生きている。pilikafumizono@gmail.com


この体験記の写真を撮ってくださった人

TATSUYAさん 埼玉県出身。地球や動植物へのリスペクトをモットーに、ジャンル問わず輝きの瞬間を撮るべく活動中。20代の頃にファッションフォトグラファーを目指して以来十数年、各国のVOGUEやHarper's BAZAAR、marie claireなどで活躍するトップフォトグラファーの写真を何万枚と見てきた眼で、今日もファインダーを覗いている。



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好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場、それが「スナックかすがい」です。

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