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STORY① 記録的豪雪が生んだ、“奇跡” のはじまり。


『酔っ払いから女性を助けたら、彼女ができました』


数年前に流行った某掲示板、某映画のようなタイトル。

『おばあちゃんに声をかけたら、一緒にお店をやることになりました』

同じようにして、僕もそんなタイトルをつけようかと迷ったんだけど、なんだか俗っぽくてやめた。

でも、自分でもまさかこんなことになるなんて思わなかった。奇跡のような日々のストーリーです。



あれは2018年1月22日、東京都心で20センチを超える積雪を記録した日。そんな大雪は、実に4年ぶりだったという。


こんな日に限って仕事の終わりが遅くなり、中目黒駅の改札に入ることすらできず、しぶしぶ歩いて自宅まで帰ることにした。

帰路の途中、頭の中にはずっと、(早めに帰れば良かったなぁ……)と少しの後悔。なぜこうも運が無いのか……。

帰り道には、人っ子ひとり見えなかった。いつになく、不気味とも言えそうなほど静かだ。そこはかとない非日常を感じながら、心なしか気分はウキウキしている。久しぶりの雪を背景に自撮りしてしまうぐらい。普段はまったくそんなことないのに。


!!


先の見えない長い坂道に差し掛かったその時、遠くに小柄なおばあちゃんが見えた。体よりも大きな自転車を、時折ズルズルと滑りながら危なげに押している。

一人、二人、三人………

僕の目の前を歩くスーツのサラリーマンたちは、その苦しそうなおばあちゃんに目もくれず、無慈悲にどんどん追い越しすり抜けていった。


(どうしよう、声をかけようかな……)


そんな迷いが生じたのは事実、数年前までの僕ならきっと声をかけていなかっただろう。「面倒なことは嫌だ」と思ってしまう、善行などにはまったくの興味を持たなかった僕ならば。



話は早速脱線するが、僕には、3年間お付き合いをしている恋人がいる。

付き合ってすぐの頃、彼女と渋谷センター街を歩いていた時。鼻から血を流しながら電柱にもたれかかり、ぐったりと座り込んでいる男性がいた。


(どうせ酔っぱらって転んだんだろう。もしくは誰かに喧嘩を売って、返り討ちにでもあったんだろう。情けないなぁ)


そんなことを思いながらぼんやり彼を見ていると、隣で同じようにその姿を見ていた恋人は、慌てた顔で彼のもとへと駆け寄り、ポケットティッシュを差し出した。

電柱にもたれかかった彼は、泥酔もはなはだしく、会話もまったくままならない。ボソッと『ありがとう……』とだけ口にして、またさっきと同じように下を向いた。


「ほらな、自業自得だろ。あんなの」


そんな僕の言葉に、彼女はこっぴどく怒ってしまった。『何言ってんの、本当に。可哀想でしょ!』と。


“二度あることは三度ある” とはよく言ったもので、その出来事から十数分後、二人で歩く道すがらに一枚のPASMOを見つけてしまった。見つけた、ではない。見つけて「しまった」。

駅からかなり離れた住宅街、自宅まではあと数歩くらいのものだ。その “落とし物” を拾い上げた彼女は、『これはちゃんと交番に届けてあげよう』と言った。

内心、相当めんどくさい。家でゆっくりお菓子なんかを食べながら、映画のひとつでも観ていたいのに。


「いやいや、落とした人はすぐに戻ってくるよ。その辺のベンチにでも置いとけば良いじゃん」


僕のそんな言葉に対して、彼女はものすごく怒った。そりゃもう、ものすごく怒った。一日に二度も怒られるとは思っていなかった。僕からの言葉はいずれも本心だったから。「面倒臭いことには巻き込まれたくない」の一心だったから。

でも、そんな彼女と付き合っているうちに僕は、なんだか少しだけ、他人に対して優しくできるようになった気がする。損得勘定だけじゃない。(この人には、こうしてあげたら喜ぶかな……?)と思えるようになった。



脱線した話を元に戻す。大雪降りしきる道の真ん中、自転車を押しながらうろたえるおばあちゃん。

困り切ったおばあちゃんを見て、(きっと僕の恋人なら、声をかけて手伝ってあげるんだろうな……)と想像する。せっかくだから、僕も彼女の真似をしてみよう。結局僕は、そのおばあちゃんに対して一言、「手伝いましょうか?」と声をかけた。


「どこまで帰るんですか? 自転車、お家まで押して手伝いますよ」

『ありがとう。学芸大学駅の方なんだけど、良いかしら』

「もちろんです」


よほど困っていたのだろう。返事はかなり食い気味で、(そりゃそうだよな)と少し笑ってしまった。人助けは一旦成功だ。


道すがらは、よくあるたわいもない会話、それぞれの身の上話など。『なんでこんなに降るのかねえ』 「ね、さすがにこれは降りすぎですよね」なんて話しているうちに、気がつけば、学芸大学の五本木交差点にある「たこ焼き屋さん」に到着した。

https://www.google.co.jp/amp/s/s.tabelog.com/tokyo/A1317/A131702/13054205/top_amp/


「えっ? ここ?」

『ありがとう。実はここ、私のお店なの。良かったらたこ焼き食べて帰りなさい』


たこ焼き屋さんの存在は知っていた。ひとつ250円と、破格でたこ焼きを提供しているとの噂をかねがね聞いていた。まさか、このおばあちゃんがオーナーだなんて。びっくりだ。


話を聞けば、創業40年の老舗だと言う。ガラスには大きな「250円」の手描き文字。達筆な文字で書かれた、チラシ裏のメニュー。油にまみれた店内は、お世辞にも “綺麗” と言えないほど。


でも、なんだかそれが、目の前にいるおばあちゃんの人柄からか、とても素敵に見えた。古臭いすべてが、なんとなく「良い」と思えてしまった。


数分後、ソースの匂いが立ち込める店内、おばあちゃんが、できたてのたこ焼きを僕に差し出す。それと一緒に、一枚の紙きれも。

しわしわ萎れた公共料金の領収書だった。何だこれ?と裏をめくると、電話番号が書かれている。それも達筆で、ふと笑ってしまった。


『なんかあったら、連絡しなさい』とほほ笑むおばあちゃん。「ありがとうございます」と僕。冷え切りかじかんだ手で、それをポケットにしまいながら、なんとも言えない充実感を胸に帰路を歩き始めた。


大都会、東京。まさか自分の祖母と同じぐらいお歳を召した知り合いができるなんて、想像もしていなかった。とある雪の日、たこ焼きのあたたかさにも負けないぐらいハートウォーミングな一日。四年ぶりの大雪がもたらした、大層せわしなくも優しげな一日だった。




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Shunta Minoura

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