見出し画像

カメラと金木犀の夜

「だいたい夜はちょっと感傷的になって、金木犀の香りを辿る。」

きのこ帝国「金木犀の夜」の最初のフレーズだ。去年リリースされたのに何故か懐かしさを感じるこの曲が、段々と似合う季節になってきている。
金木犀に特に思い入れは無いけれど、夕方から夜にあの匂いをかぐと、ほんのり甘いような、ほろ苦いような、そんなよく分からない感情が一瞬頭の中を駆け巡る。

写真を撮るようになってから、自分の中の些細な変化に敏感になった。それが良い方向に転ぶこともあるし、そうで無いこともある。自分なりの持論として、写真は見たものの記録の他に、撮った時の感情も写し込めると思っている。写真を通して、無意識に感情を可視化しようとしているのかもしれない。

今、季節はどっちと言うべきなんだろう。日中はまだ暑さを感じるのに、夕暮れ時の風は肌寒く、それと一緒に寂しさがやってくる。夏と秋を一日で行き来しているような気がする。外に出る理由が「出かけたい」ではなく「寂しくなって」というのは、多分今の時期だ。

カメラとともに、暗くなってからいつもの街を散歩した。

ちょっとスーパーに入ってみたら、冷房が寒いと感じるようになって(元々冷房が強いスーパーだけど)、外に出たときに夏は曇っていた眼鏡も、すっかり曇らなくなった。些細な変化が増えてきた暁に、秋は深まっていくんだろう。

夜の写真は青めに撮るのが昔から自分の中での定番。でも、夏と違ってこの時期の写真は後を引く余韻というか、派手さはないけどジワッと染み入ってくる、言葉にならない何かがある。なんとなく感覚では分かるのだけど、それを言葉で説明できるようになるには、まだしばらく時間がかかりそう。

とはいえ、その「なんとなく」の感覚の後押しで自分はシャッターを切れている。漠然としてでも、そんな感覚を持てたことは幸運なのかもしれない。今はそれを大事に、一枚一枚、大事に写真を撮っていこうと思う。

金木犀の夜、カメラとともに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?