最終決戦

ホンダのディーラーでの体験は、ここでまた軽々しく口にしますが、いつかホンダ車にも乗りたいと思うに十分でした。将来乗りたい、というか次は人生最後かと思うのですが、もちろん今新車で売っているどれかになることは無いだろうけれど、すでに沢山の次期候補が現れてしまいました。

その機会は、MTはもう無理でATにするしかないとき、だがしかし、まだクルマが必要な場合、というわけで、このままMTを乗り続けて引退、ということも考えられるので、もう買い換えはないかもしれません。しかしCitroënかMazdaかHondaか、ってなところでしょうか。屋根が開く車がいいですけどね。さように今回(昨夏ですが)の試乗を通して様々なことを考えました。

お気づきの通り、前回ボルボを買ったときに考慮していた車種は、また今回も意識していました。あのとき、最有力だったのがBMW 1シリーズのディーゼルでした。FRは、そうであるだけで別格の良さでした。あの時、試乗車が歩道を越えて車道へ合流する一転がりですら、後輪が車両を前に押し出す感覚に感動しました。免許取り立ての頃、実家にあった日産スカイラインも、次に来たマツダ・ルーチェもFRでした。すっかり忘れ去っていた感覚に興奮したものです。

BMWに試乗したときは、徒歩でディーラーに伺っていました。後日、The Beetleで乗り付け、査定をお願いしようと連絡した日に限って、担当営業の都合が悪い(他の者に代わりますとは絶対に言いません)ため時間が空き、代わりに冷やかし気分でボルボディーラーに行ったら、まんまと捕獲された次第です。誰をも恨んでいませんが…。

都内のホンダディーラーを出て我が家への帰路を走りますが、そこを通り越したところへ別件の用事で伺います。BMWの正規ディーラーが営む中古車店です。条件に適う、MTのMini Cooper Sを在庫していたからです。日本全国で3台見つかった中の1台でした。

そもそもミニでもMTは選べたはずだと思っていたのに、春までに販売終了しておりました。ですから買うとしたら中古車になりますが、アクセラ、CX-3もディスコンの仕様を探し求めましたので同じ事です。いささかも抵抗ありません。

アポを取ってありますので、先方は用意して待ってくれていました。書類を書いて、すぐに営業の方と、彼の用意したルートを回ります。途中、家に寄って駐車場の出し入れをさせてくださいと申し出ます。明らかにV40よりは小さいですから、楽であろうと思いましたが、ドアの開閉については、さほどの変化はありません。ただ、全長の短さは車庫入れでの切り返しの面倒を拭い去りました。

しかし、それはダメ押しのための儀式に過ぎません。走り始めから、もう決めていました。2.0Lターボは、相当な底力をもっているはずですが、2000回転と少しくらいのところまでで大抵の仕事はこなすことができます。印象的なのはブレーキでした。スイスポとは次元が違います。減速時にボディ剛性も感じることができ、姿勢を変えずにしゅっと速度だけ踏んだ分落ちるのは、高級という言葉が似合うポイントでした。

ステアリングの中央付近には遊びがありますが、拳一個くらいの回転を与えればすっと舵が利いてきます。刺激を欲しいと言えば、もっと鞭をくれてやる必要がありますが、なだめていればいい子にしてくれていて、そこは育ちの良さが際立ちます。性懲りも無く、また女性に例えたくなってきました。

見た目は小柄で愛嬌のあるかわいらしさです。どちらかといえば大人しい方でいながら体育系の部活もたしなみます。しかし競技命というほどののめり込み様ではなく、普通にしていればトップクラスの学校へ無理なく進学できる知性を持ち、そうした家柄に属する育ちの良さが薫る会話は、やはり知的で楽しいものです。従順そのものというわけではなく、その気になれば欲望を解放する刺激的な遊びにもつきあえるくらいの懐の深さ、好奇心、ユーモアを解する姿勢などを持ち合わせます。絶えず魅力を感じさせる離れがたい存在です。

BMWの中古車店ですので、ミニもですがBMWも多く抱えています。ボルボV40を検討していたときにはFRだった1シリーズは、フルモデルチェンジを経てFFに変わりました。FRだった頃の最終モデルのディーゼル搭載車がそこにありました。ややフェミニンな薄いブルーのメタリックに、内装は白の革。ヨーロッパのリゾートが似合いそうな、品のある佇まいでした。V40でなければこれになっていたかも、というような好ましい1台です。考え得る可能性は検討し尽くすべく、試乗を申し込みます。

同じルートを辿り、自宅駐車場への入庫・出庫も試します。同じ8速オートマチックですが、V40よりもレスポンスは良いように感じます。そして、すぐにまたFRであることを感じることができました。走り出した瞬間にあの日の記憶が鮮明によみがえり、同じようにこれが欲しいと思いました。がしかし、出会うタイミングを間違えました。私は、私にとっての新しい時代をこれから生きる必要があります。4年前の忘れ物を取りに戻るのが正しい道とは思えません。違うことを始める、そのひとつの象徴としてMTを選ぶ必要があります。それが結論です。

信頼の置ける友人に、この2台の画像を送り、どう思いますかと聞いてみます。ミニ一択という答えが返ってきます。昔Audi A3の「買える」色が黒か黄色と言われて、その時にも(別の方ですが)クルマに詳しい友人に連絡しました。黄色しかあり得ないと言ってくれました。どちらの場合も、私が用意していた答えに合致し、心強い援軍を得ました。こうして、そこにあった赤いミニは、我が家へと迎え入れることになりました。


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