生徒さんのベースを選定する その2

私が約束の時間にお店に顔を出すと、遠くに生徒さんの姿が見え、SadowskyのMetroline Expressを弾いている音が聞こえていました。2bandのEQを半分くらいまで持ち上げているような、40Hzと4000Hzを中心とした、ベースのピッチ、基音よりも低いレンジと高いレンジを持ち上げた、特徴あるサウンドです。その生徒さんにとってアクティブ・サーキットは未知なるものなので、もしかすると店員のセッティングなのかも知れませんが、こうした「どんしゃり」サウンドこそがSadowskyの旨味であると今でも信じているのでしょう。決して批判はできませんが。

ご存じの通り、このフィルターはローとハイのブースターですから、ポットを真ん中にセットしても、プリアンプが素直に増幅したトーンになりません。そのように使用するかどうかは一旦別にして、スタックのノブを絞りきった状態で音を聞いてみることは、私のような古い人間には当然のことです。もちろん、それに不服があって、じゃぁうまいことブーストさせて、これは行けるとなれば、楽器としてOKなわけです。Sadowskyは、今日ではプリアンプを前提としたコンセプトで楽器を作っていますので、それがお気に入りなら、第三者が否定すべきものではありません。

Expressレンジのサド(以下、略します)の現物を見るのは初めてでした。印象としては、それまで30万円前後で売られていたMetrolineよりも、少しだけ安っぽい感じは拭えませんが、弾いてみて、実用面では遜色ないような気がしました。かつて一度だけ持っていたことのある国産サドは、UVと言われるフェンダーサイズのボディでしたので、このような小型ボディのタイプとは根本的にサウンドが異なります。

生徒さんに、サド流のアクティブプリアンプの動作を解説し、トーン・スタックを0にしたり、プリアンプをバイパスしたりと、まずこのような素の音があって、自分で好きな加減にメイキャップして使う物なのですよと話します。すると、バンド発表会のような一発勝負の場所で、そこをピントの合うセッティングにできる自信が無い、というような弱気なことを返してきました。同意します。プロでも、なんかおかしくない?という鳴らし方をする人居ますので。

それが20万円弱で売られていることから、その方の予算が、そこまで確保されていることが窺われます。サドがちょっと特殊(フェンダーみたいなのと較べて…)であることを知っていただこうと、そこにあった同価格の売価が付いたヒストリーを試奏させていただきます。パッシブで比較すると、こんな風に違いますと。サドの場合、その物足りなさを補うために、二つのつまみを回していくんですよ、と。どちらが良いではなく、思想の問題です。

でも、この2bandを良き塩梅に調整したところで、私が弾いた音を聴いても、ご本人が鳴らしてみても、全然パッシブのベースの方が好印象のようでした。軽さを突き詰めてサド、という提案がありましたが、「私は音が好きではない」とはっきりおっしゃいました。

ちなみに、ではサド以外は重いのか、といった話から計量してもらうと、なんとそのヒストリーは3.7kgを割っており、3.7kg台のサドExよりも軽かったのでした。しかも糸巻きはGotoh GB2が使われており、抱えた途端すとんとヘッドが下がるのでバランスは良くありません。しかしコンパチのGB640に交換してしまえば、更なる軽量化(驚きの3.5kgになってしまう…)とバランスを向上させることになります。かつてフェルナンデスのPBをモディファイして成功した経験もあり、新品であれ部品交換は容認できるようです。

GB2からGB640へ交換することによるトーンの変化、これは、それが気になる人にとって大問題かも知れませんが、弾き易い環境を得ることは学ぶ上では更に重要です。弾き心地を妥協して音質にこだわるか、事前事後の音質劣化を許容して弾き易さを向上させるのか、私なら迷うこと無く後者を取ります。

サウンドハウスで買えるGB640の価格は約13000円ですので、これは予算に入れる必要があります。GB2からでしたら穴位置が同じですので、私がやってあげますので工賃は考えなくていいです。(以下、内緒話になりますが、同機種のアウトレットが他店で14万円くらいで販売されており、ペグ代を加えて153000円ならば間違いなくお買い得と思います。そこまで軽いかはわかりませんが)。

店内をそれとなく見ていると、ちょっと気になるものがありました。J.W.Black JPの中古です。中古は嫌だとおっしゃっていましたが、パッシブのベースサウンドを比較するのに好都合と、試奏させていただくことにしました。その店のヒストリーと同価格、サドExより僅かに高額(2000円くらい?)。重量は4kgを若干下回ります。中古であるからこそ候補に加えることのできる一品です。

JWBは初めからGB640が使われており、膝の上でのバランスも極めて良好でした。ネックは厚みを感じますが、もしかするとフィニッシュのせいかもしれません。どちらもオール・ラッカーですが、ヒストリーは半艶のような薄い塗装、JWBはグロスのため塗膜はそれなりにあります。ヒストリーはアッシュボディ、グラナディロ指板。JWBはアルダーボディ、ローズウッド指板でした。両者は、このような違いからサウンドの傾向が異なります。しかし、どちらも悪くないので、好きな方を選べば良いでしょう。この時点で、完全にサドは候補から外れることになります。

追記:ちょっと気になって調べたら、GotohのGB640とGB2はビス穴の位置が同じではありませんでした。GB640の元となった通常の重量のモデル名を失念しましたが、公式サイトには記載が無く、すでにディスコンかも知れません。訂正してお詫び申し上げます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?