高校軽音楽部のためのPA講座第2段として実施した現場指導、の報告

今年1月、設置済みのステージを前に約120分のPA講座を行い、翌当日はボランティアで出向いて成果を確認したり必要な助言を行いました。他校を招いて行われる「合同ライブ」の、次回開催が3/30ということで、第2回PA講座の依頼がありました。28日にステージを組み、29日には内輪の「卒業ライブ」が催され、ここまでは部員による運営。私の行く30日は現場を修正し、学生の動きを監修して必要なら指導、それをもって講座とする趣旨でした。

この高校の軽音楽部は、ライブ運営のスタッフ業務を部員自らが行うことになっており、演者とそれを支える作業の両面を経験することでリアルな音楽活動を深く知ることとなる優れた指導方針をお持ちです。予算の有無という要因もありましょうが、音響・照明等を業者に依頼するよりも困難は増えるものの、学生にとっては貴重な体験を積み重ねることができます。

私の役割は、彼等の自主的な動きが的を射たものであるよう、基礎知識の伝授から、現場での具体的で的確な指示、示唆といったものを与えることにあるように思います。そうした意味で、例えばミックスそのものであるとか、EQのポイントとかを私自身が作ってしまうのではなく、より良い方向へバランスさせるヒントを提示することだと考えます。

10時開演、9時半に他校生が集合、ホスト校の部員は8時半入りとあって、私もその時間に伺いました。前日の卒業ライブは無事であったか尋ねたところ、ギターアンプ周りでの音が出なくなる系のトラブルが起き、少ししたら自然治癒したような話でした。原因はわからずじまいの模様。

ドラムのマイキング

現場を一瞥すると、スネアのマイクが立っていないことが最初に目に付きました。卓に余裕があることはわかっているのでマイクを出してもらい加えます。オーバーヘッドの位置も調整しました。彼等は卓のチャンネル割りに拘りがなさ過ぎて、LRが逆の配置だったり、キックとスネアが離れていたり(スネアを後から追加したため)しても平然としていたのでショックでした。大人の常識は、やはりいつか教わって身に着けたものなのでしょう。こうした方が良いよ、ということは伝えました。マイキングは音を出してみないと適正かどうかわからないので、後ほど詰めていきます。

メインから音を出してみる

まずは機材に火を入れ、メインスピーカーから音源を再生してもらいました。よく知らないJ-popなのはまだいいとして、圧縮音源なのか解像度が低いため出音の善し悪しを判断できません。幕間のBGMに使うつもりの用意なのでしょう。持参していたリファレンスの無圧縮音源を再生させてもらい、とりあえず問題が無いことだけ確認できました。音色を作り込みたい気持ちですが、時間がありませんのでそのまま行くことにします。マスターのEQも過去の設定を使い回します。

全部のスピーカーから音を出す

モニターはセンターと上下手、そしてドラム用と4系統あります。全てを音源で鳴らしてみました。回線に問題はありません。ドラム椅子に座ってモニターを聴くと違和感があったので、ハイハット横からプレイヤー背後へと移動してみました。ハイハット側には2台のギターアンプもあって、鳴らせば音像が偏りそうでした。実演中に確認しても、こうして良かったと思いました。

全てのマイクをオンにする

出力側の回線がOKでしたので9本のマイクを確認していきます。個別に回線チェックを行った後、前日のボリュームまでフェーダーを上げさせ、プレイヤー不在ですが全マイクが生きた状態で、全スピーカーを鳴らしてみました。するとそれだけでハウリングが発生します。

1本ずつオンオフしたり、モニターを調整することで原因を突き止めました。ギタリスト用のコーラスマイクと上手モニターの間でフィードバックがあるようでした。モニタースピーカーを手で持ち上げ、ハウリングの起こらない位置を模索し、結果、台の上ではなく床置きが良いとなりました。サービスエリアが顔に向くよう、ラックの蓋を使って角度を煽ります。このように位置を変えるだけでハウリングの起こりやすさを抑制することができました。

バンドが立ってサウンドチェック

最初のバンドのメンバーが入ってくれたので、ドラムのキック、スネア、全体と、ベース、ギターの順にチェックしていきます。ここですることは主にゲインの設定で、フェーダー位置が0dBに揃うよう入力の側で整えていきます。

ギターアンプの問題

次いで、ベースアンプ裏からのライン、ギターアンプを起動してのチェックを行います。マーシャルDSL40Cの調子が悪く、40Wでブチブチ音が途切れます。20Wに切り替えれば使用できるかやってみましたが、時間が経つと同様にブツブツとノイズが乗ってきます。前日に音が出なくなったとも聞いているので、使用をやめるよう提案しました。代わりにローランドGA-112というモデルが出てきました。デジタルのアンプシミュレータをプリアンプとして用いるハイパワーコンボアンプです。だましだましマーシャルを使用することも可能ですが、最悪の事態を想定し予防策をとっておきます。

GAにはキャスターが付いていて、それを外せなかったのでアンプは直置きにしました。もう1台のギターアンプはJC-120で、元々マーシャルと共に学習机に乗せていましたが、キャスターがあっては危なくて持ち上げられません。やはりギターアンプの設置場所は大事で、低い位置にあるGAを使ったバンドは、高い位置のJCよりもラウドに鳴らしていました。中音のバランスは良好とは言えませんが、今回は致し方ありませんので外音の方で補うこととします。

最初のバンドはギターが一人でしたので、本人が両方を鳴らし較べてGAの方を選択しました。開演に先立つガイダンスでは、マーシャルを使用する予定であった出演者に向け、トラブルのためローランドに変わっている旨をアナウンスしたのが良い配慮です。誰の指示もなく、それができるMCは素晴らしい。

進行していくと、ひとりマルチエフェクターのアウトをJCの入力ではなくリターンに挿していたギタリストがいて、使い慣れていることに感心しました。

いよいよ開演

持ち時間15分、平均2曲で次々とバンドが入れ替わっていきます。その都度サウンドチェックを行い、場合によっては「ワンコーラスやります」とか「サビだけやります」などとリハーサルまで決行します。もちろん衆目の中でですが、これは部活。ハイここからが本番、と切り替えることで、そのパフォーマンスが思うように成立すれば前後は無かったことにしてしまえるのです。潔くて良いです。舞台監督はしっかり時間管理を行い、あと○分ですといったコールを行いますが、多少押すことには寛容で、悔いの無いパフォーマンスの実現を支援する気概を感じます。

PA班は転換で忙しく動きます。編成は予め表になっており、楽器の差し替え、マイクのオンオフ、諸々効率的にやってくれています。これだけでも大いに褒めてあげたい。

メインのオペレーターには、プレイヤーが音を出した瞬間を捉えてゲインをしっかり取り直すよう言います。ドラマーが違えば、ギターアンプのセッティングが違えば、歌い手が変われば、全てマイクへの入力信号は増減します。基本はフェーダー0dBの位置でバランスが出るような、そしてピークで歪まないゲイン設定へ、バンドが替わるごとに修正する必要があります。そこは機敏にやって欲しい。

バンドが短時間の「リハ」をやるような場合には、リクエストを言っくるのが常です。彼等は演奏がしやすいかどうかを確認しているので、問題があれば解決を求めてきます。以前も書きましたが、ここでできないと言ってはいけません。今回も一度、これ以上(モニターを)あげられないと答えてしまった場面がありました。本音なので仕方ないですが、こういうときこそ機転を利かし、お互いが妥協できるポイントに導かなければなりません。

あるドラマーは、周りの音が大きすぎて自分の音が聞こえないからドラムを返してくれとリクエストしました。そこはやはり中音を下げる以外ないでしょう、と正直思います。バンドのアンサンブルのあり方を見直すべき契機ではありますが、とはいえ今ここでそれを言っても始まりませんので、ギターアンプを少し下げてもらうと共に、ドラムへの返し全体を小さくしました。モニターだってうるささの原因になります。前のバンドでドラムモニターの音量を上げ気味にしていたまま、次のバンドへ繰り越してしまったのが原因です。リクエストの積み重ねによって次第に改善すれば良いのですが、演者、演目、編成が異なるのでそうはならないのが難しいところです。極論すれば毎回のリセットが必至。

ゲストバンド

12月、1月と私が本校主催の「合同ライブ」に携わるのは3度目になります(12月は下見ですが要所で手伝いました)。トリを飾る優秀なOBバンドの感想こそ試金石となります。経験豊富な彼等が、下手なライブハウスよりやりやすかったと、あれは社交辞令ではなく、言ってくれているのだと思い、ほっとします。

セッティングの殆どと本番中オペレートするのは生徒自身ですから、学生バンドで突発的にハウってしまっても、中音を作る演者の手腕にも依るところが小さくないので、如何ともしがたい面はあります。しかし手練れのゲストバンドが、気持ちよく自分たちの表現を後輩へ見せつけられたとしたら、音響チームの仕事は合格です。照明班も終始集中して良い仕事をしていました。

所感

ホスト校の部員が担う仕事は「音響」だけでなく、「照明」や転換を手伝う「舞台」だったり、全体に指示を出す「舞台監督」だったり、影アナ、MCや「誘導」など多岐にわたり、「制作」部隊はチラシを作ったり事前準備にも勤しみます。部外者目線ですが、それらを楽しそうに、十分こなしている様子は、彼等にとっての充実した時間がそこにあるようで、見ていて幸せになります。もちろん彼等はバンドを組んでいて、全員は出ませんが出演者でもあります。

ここは昨年4月に顧問の先生が替わり、それからの1年弱で、このようなイベント運営を高水準でやれるようになっており、驚くべき進歩を果たしました。僅かでもその一助となれたのは嬉しい限りです。3年は卒業し、2年はゴールデンウィーク明けに引退するとのこと。新入生如何で今後の活動のレベルが変化するというのは、部活動の本質的な難しさであり、また面白さでもあるのでしょう。形が変わり続けるのです。

音響チームに加担して一番に感じることは、無理からぬ事なのですが、音で状況を把握できてないな、というところ。バンドサウンドにアコギで参加していたプレイヤーがいました。DIに挿していたシールドが、途中アクションによって抜けてしまったことに気付くのが遅いです。アコギの音が出ていない。本人は頑張って弾き続けています。トラブルに馴れていないので、演奏が途切れても挿しに行った方がいいと判断できません。曲は続いています。

といった場面でステージ袖にスタンバイしているPAチームが誰一人動いていません。メイン卓の方からも指示が行きません。そういう時はもちろん私が動きます。ですが「指を加えて見ている」という様子を、内心、私は容認できません。プレイヤーをがっかりさせたくない、という気持ちがあるためです。PA担当は、もっともっと演者がやろうとしていることに寄り添わなくてはなりません。彼等がステージで何を感じているか察知し、時には先回りしてやりやすい環境を整えてあげるのが仕事なのです。

もっと耳を傾け、音そのもので状況がわからなくてはなりません。例えばギタリストがマイクに近づいて声を出しているように見えれば、その声は届かなくてはなりません。聞こえていないのに、ミュートスイッチが入りっぱなしだったり、フェーダーが上がっているのに鳴っていないなら、マイク本体のスイッチがオフになっていないか疑ったり、その解決へ動かなくてはなりません。その反応が、私からすると極めて遅い、というのが現状でした。これからの課題にしてください。

もちろんプロ並みのオペレーションを求めるのは酷というものです。しかしこれは気持ちの問題でもあるのです。音響の仕事は長時間、一瞬も気を抜くことができず、トラブルの責任を負わされる立場でもあります。何事もなかった、と言う部分で成功と見做される、なんとも報酬の実感しがたい職務かもしれません。だからこそ誰にでもできることではない。演者と聴衆の充足感を見ることを自身の喜びに変えていく、そんな仕事かもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?