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琵琶湖入門〜世界で三番めに古い湖。

タイトルに入門と入れたからと言って、僕は琵琶湖に詳しいから教えよう、というわけではなく、むしろその逆です。関東に住む僕にとって、琵琶湖とは以前からよくわからない存在であり、京都の手前に何かあるな、程度の認識しかありませんでした。新幹線から見えないからかもしれない。しかし、ちょうど2年くらい前、いくつかのきっかけによって琵琶湖に興味を持ち、短期間、何度か出かけるうちに、ズブズブとその沼に(沼じゃなくて湖だけど)はまって行った次第。今では日本列島が誇る大自然のひとつ、とさえ思っています。
つまり琵琶湖入門記です。
琵琶湖に詳しい方、琵琶湖を愛して止まない方、僕の認識に間違いや勘違いがあれば大いに指摘していただき、さらには琵琶湖のお勧めポイントなども教えていただき、新たな琵琶湖観を共有させていただければありがたいです。

最初のきっかけは京都。そして、滋賀県立琵琶湖博物館。

そう、京都なのです。
何度か足を運んでいる割烹料理屋さんで、頼んだポテトサラダには鮒寿司を発酵させる飯(いい)が和えてありました。なんだこの、ブルーチーズのような味は。
「お嫌いでしたか?」
いえいえ、とんでもない。こんなに美味しいものがあれば、チビチビとつまみながら、日本酒を一時間くらい飲み続けることができそうです。僕は、こういう発酵系の味が大好きで、お腹にもよさそう。
「ポテトにブルーチーズを和える料理があるくらいだから、鮒寿司でも行けるんじゃないかと」
と、板前さん。
琵琶湖の北東岸、長浜あたりの郷土料理とは聞いていたけれど、これがあの有名な鮒寿司なのか。もしかすると、一生つき合える相手になるかもしれない。

そしてもう一軒、別の店ではビワマスという魚を勧められた。これは琵琶湖の固有種を養殖したもので、京都では9月のその時期にしか分けてもらえないものなのだとか。勧められるままにいただきました。何と柔らかく、程よい脂質、そして香ばしさ。淡水魚には臭みがあって… などと、利いた風なことはとても言えない。琵琶湖の人は、こんなに美味しいものを食べているのか、という、軽いカルチャーショックさえ覚えました。そして何より、あの誇り高き京都の料理人たちから、琵琶湖の食材に対するただならぬ敬意を感じたものでした。

これが噂の、ビワマスのお造り。今年はもう、食べられないかな。

そんなこんなで琵琶湖が気になり始め、頭の中の半分が琵琶湖になり、今、MRIで僕の脳の画像を撮れば、おそらく滋賀県の地図にそっくりなのではないか、と思っていた頃、友人から、ある博物館の図録を見せられた。
それが、これです。

企画展『湖国の食事』は、2021年の7月17日〜11月21日の間に開催された。

こう見えても僕は編集者なので、この冊子の素晴らしさはわかります。何より、見慣れない食材の説明が簡潔に分類されていてわかりやすいこと。琵琶湖愛に溢れていること。読むだけで、琵琶湖を一周旅するような気分になれること。とにかくいい本だな、と。で、行きましたよ。開催期間の終了間際。11月の中旬でした。これまで琵琶湖は何かのついでに寄る地域でしたが、今回は目的地になりました。そして、この図録はすでに売り切れていました。事前に取り寄せておいてよかった。

何と、琵琶湖は世界で三番目に古い湖なんだそうだ。

それにしても、眺めのいい、気持ちのいい博物館だな。
企画展よりも先に、常設展示を見て回る。おそらく子どもたちにもわかりやすく、大人にとっても興味深い展示の数々。興味深いというよりも、知らなかったことばかり。何より、ここに来るまで古代湖という言葉さえ知らなかったのだから。
ここで簡単に受け売りをしておくと、湖の寿命は、数千年から数万年しかないらしい。で、生まれてから100万年以上経つ湖は古代湖と呼ばれ、世界に20ほどしかない。我らが琵琶湖はその中のひとつであり、地殻変動によって誕生したのが約400万年前。世界で三番目に古い湖なのである、と。
そんな大事なことを、このトシになるまで知らなかったなんて。だからこそ、この湖には独自の生態系が生まれ、固有種が生き続け、独自の食文化が育まれ… これ以上、受け売りはやめよう。興味のある方は、ぜひ古代湖、琵琶湖、などなどで検索してみてください。いちばんいいのは、この博物館に足を運ぶこと。
で、お楽しみの企画展に移る。

のれんをくぐると典型的な琵琶湖畔の家庭の台所が置かれていた。


鮒寿司やビワマスだけではない。
暮らしを支える様々な食材が、この地域では独自の発達を遂げているのだった。


この展示、わかりやすい。しかも、知らないものばかり。すべて食べたくなるのです。

博物館の展示を、あまり詳細に撮影してはいけないので、写真はこのくらいで。
展示の中には、来訪者の故郷の自慢料理を教えてください。というものがあった。来訪者がポストイットに書いて貼り込んで行く、というもので、B全くらいのボードに、びっしり貼られていましたっけ。「お母さんのカレー」とか「盛岡の冷麺」とか「いかなごのくぎに」などなど。
その展示の意図は、もっと、故郷の料理を守り、大切にしましょう。というメッセージなのだろうと理解した。琵琶湖はこうです。ところで、あなたの地域ではどうですか?
展示の最後の方には、このようなメッセージが掲げられていました。
「今日、あなたは何を食べましたか? 台所で、何をしましたか?……」
琵琶湖博物館のサイトはこちら。
https://www.biwahaku.jp

長浜で、鯖そうめんに驚く。

この日の宿泊は長浜だった。滋賀県出身の友人が、琵琶湖は北の方がええよ。と言っていたからだ。長浜市とは言ってもとても広く、とは言え、大型の観光ホテルのような施設が多く、これと言って「是非泊まりたい」という施設は少ない、と言うか、きっと良い宿があるんだろうけど、ネットではわからない。実を言うとマークしておいた料理旅館が二軒あり、一軒は予約が取れないことで有名、もう一軒は連泊ができない、ということで諦めていたのです。どこか、お勧めがあれば教えてください。
ということで、宿泊はビジネスホテルにして、さっそく長浜駅周辺を散策。観光地としては、寂れちゃってるかな、という雰囲気なのだけど、美味しそうな居酒屋が数軒。その中に「鯖そうめん」を出してくれる店をみつけた。とりあえず今日のところは、食べたことのある鮒寿司よりも鯖そうめんを優先しよう。ということで、大通寺門前のレトロな店に入ってみました。

鯖そうめん、うまっ! 麺は、奈良の三輪素麺のような、太い麺が合うとのこと。

醤油とみりんで煮付けたプリップリの鯖と、煮汁を和えた素麺でご覧の通り。ただそれだけのことなのに、なぜこんなに美味しいのでしょう。鯖がいいのかな。これを関東に帰ってから作ろうにも、こういう元気の良い鯖はあまり見かけない。缶詰でごまかそうにも、醤油で煮た缶詰って少ないでしょう?
この地域の、おもてなし料理なのだとか。長浜って福井が近いんだなぁ、と思う。
ところで後日、何度か彦根にも泊まったのだけど、彦根の街には鯖そうめんを出す店は無いんですね。ほかにも郷土料理のビワマスも鮒寿司も何もかも、琵琶湖ならではの水産物は、長浜に行かなければ食べられないようです。

ほかにも湖北エリア、見たまんま。

話が長くなってきたし、食べ物の話ばかりになってきたので、以下、写真中心に進めてみます。まずは湖北エリアから。

まずは北の端、高島市のマキノ高原のメタセコイア並木。
行ったのは今年の初夏だけど、紅葉すると素晴らしいようです。


風情という点では、JR木之本駅近くの北国街道かな。良い道です。


北国街道にある酒蔵『七本槍』。
もちろん、由来は賤ヶ岳の戦いで活躍した7人の戦国武将であります。


そして木之本駅前の売店では、こうして鮒寿司や「へしこ」を買うことができます。


このサラダパンって、こっちではけっこう有名なのかな?
刻んだたくあんとマヨネーズの、かなりクセになりそうな味です。


賤ヶ岳のリフトに乗り、山頂から見た余呉湖。この湖は「日本のウユニ湖」と呼ばれており、水鏡となることが多い。この日は残念ながら風があり、湖が雲を映すようすを撮ることができませんでした。


高島市から見た日の出。琵琶湖では、日の出も日没も見ることができます。

続いて近江八幡エリア。

思えば多くの戦国武将が、いろいろな思いを抱えてこの琵琶湖を眺めていたことでしょうね。浅井長政(小谷)、織田信長(安土)、羽柴秀吉(長浜)、明智光秀(坂本)、石田三成(佐和山)、井伊直政(彦根)。さらには信長の妹である「お市の方」、そしてお市の娘の三姉妹。
僕はとりたてて戦国時代マニアではないけれど、それでもこの界隈をクルマで移動していると、歴史で聞いたことのある地名が出てきてゾクゾクします。ときにはクルマを降りて、城跡の界隈を歩いてみたことも数知れず。この湖は、日本の歴史にも見えない影響を与えてきたのかもしれない。


安土城に行ったら、ぜひとも天守閣跡まで登ってください。軽い気持ちで登り始めたら、ほとんど登山と呼べるほどのキツい登りでした。階段とは言え、あの時代に作られたものは段差がまちまちで登りにくいの何の。戦国武将の脚力を、自分の脚と比べながら実感することができます。


安土城のすぐ近くにある新名所、ラ・コリーナ近江八幡。緑の草に覆われた写真が多いけれど、去年の秋に行ったときには、ご覧の通り黄金色に染まっておりました。とても混んでいます。その点では、いつも空いている信長の安土城は落城。駐車待ちの渋滞が起きるようなので、クルマで行くなら平日がお勧め。

という具合。過去2年の間に3回行きました。なので、まだまだ近江八幡から湖北のエリアしかカバーできていません。もしも琵琶湖愛に溢れる方がこの記事をご覧になったら、ぜひとも「ここに行きなさい」と教えていただければサイワイです。

湖の風はサラッと爽やかなのだよ。

その3回目は、先週、9月の末に行ってました。とは言え2泊3日の短い間でしたが、初めて船にも乗りました。

彦根港から竹生島まで、島での滞在時間も含めて3000円。かなり爽快なクルーズです。


こうして沖に出てみると、琵琶湖の広さがわかる。なんたって、向こう岸が見えないのですよ。
どことなく江ノ島にイメージが似ているな、と思っていたら、やはり弁天様が祭られていました。

「このトシになるとさ、海じゃなくて川の方がいいんだよ。もう、波に乗ったり重い海水に逆らったりするんじゃなくて、川。海水じゃなくて真水!」
今年の夏、ある友人が言っていた、そんな言葉を竹生島で思い出しました。たしかに。こうして30分近く沖を眺めていても、カラダはベタつかずにサラッとしているし、何より湖の上は静か。苦手なフナムシもいない。海の波の音もいいけれど、湖の静けさは貴重です。
この次は、湖の中に浮かぶ有人島、沖島にも行ってみたいと思いながら、今回の琵琶湖の旅を終えたのでした。ビワマス、食べたかったなぁ。

最後は、彦根から見た日没。これほど大きな湖なので、周りに雲がなくても、琵琶湖の周りだけは独特の雲が現れるらしい。いつも適度に湿度があるので、冬も加湿器はいらないんだとか。なるほどな。


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