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【大阪ダブル選挙2019】:都構想実現ならなにが変わる?経済効果は

松井一郎府知事、吉村洋文市長の辞職にともなうダブル選挙が4月7日に投開票を迎えます。

都構想の是非を問う住民投票をもう一度行うため、吉村市長は府知事候補として、松井知事は市長候補として立候補しました。両氏ともに任期が8ヶ月残っているので、同じ役職で立候補して当選しても任期は延長されず8ヶ月後にふたたび選挙をしなければならないため、お互いの役職を入れ替えるクロス選という形をとりました。これならば、当選すれば新たに4年の任期が与えられるということです。

◇住民投票、またやるの?

今回のダブル選挙、それぞれ任期を8ヵ月あまり残して行われる理由はいたってシンプルです。都構想の是非を問う住民投票の開催に公明党が首を縦に振らなかったから。

公明党はあの石原さとみ※も入信する宗教団体「創価学会」を支持母体としており、大阪ではその名を知らない人はいないほどデカい存在です。公明党は政界きっての風見鶏なので常に勢力の大きな方によりかかる金魚の糞。なので維新としては公明党を味方につけて住民投票を開催したかったということです。

4年前にも都構想の是非を問う住民投票が行われ、僅差ではあったものの「反対多数」という結果となりました。都構想を発案、推進していた橋下元市長は当時「これが一回限りの最後のチャンス」と訴えていたにもかかわらず、多額の税金を使ってまたやるということですから、ただの子どものわがままにすぎません。

◇都構想とは

前回の住民投票でも、多くの大阪市民は最後の最後まで都構想がどういった制度でどういう変化をもたらすのか分からないままでした。大阪の将来にかかわる話なのになんのこっちゃ分からんままでは平成も越せません。

では、都構想とはなにをどう変えることなのか。

都構想とは、大阪市をなくし、4つの特別区に分割することです。これによって大きく変わるのはお金の使い方と行政システムです。

都構想の区割り案。区割りに不満があり都構想に反対するという有権者もいる。(毎日新聞2018年4月7日)

たとえば、平成30年度の大阪市の税収(市税)は7488億円。現行制度ではこれがそのまま大阪市のために使われます。
ところが、大阪市が特別区になると市民が払った税金はいったん大阪「都」に吸い上げられ(「都」に吸い上げられるのは2000億円ほど)大阪「都」全域の広域事業に充てられてしまいます。

◇住民サービスを削るか増税を受け入れるか せまられる選択

どうして「都」に市税を吸い上げられてしまうかといえば特別区になることで権限が弱まるからです。現在、大阪市は「政令指定都市」。つまり都市としては最高ランクの権限を持っています。特別区はそれよりも1つランクを下げた「中核市」をベースとしているので権限が弱まります。
当然、市税を使った大阪市独自の住民サービスがあるわけで、それをそのまま大阪「都」でもやろうとすれば、税金つまり区民税を上げるほか方法はありません。それでいて、特別区民は大阪府民税も払わなければならないのです。まさに二重行政ならぬ二重納税です。

大阪市独自の住民サービス

・4,5歳児の幼児教育無償(平成29年4月より他の自治体に先駆けて実施。ただし、保育費は対象外)
・敬老パス(65歳以上の市民は大阪メトロ、市営バスを50円で乗車できる。維新府政以前は3000円を払えば乗り放題だった)
・学校外教育助成(所得要件を満たす市内在住の中学生5割を対象に習い事、塾などにかかる費用として月1万円が助成される)
・子ども医療費助成(市内在住の0歳~18歳が対象) 

大阪市が特別区に再編されれば、「政令指定都市」から「中核市」へと格下げされる。(寝屋川市は平成31年4月より中核市へと格上げ)

◇透ける東京化への野望 二重行政はどうなる

予算も潤沢で権限も強い政令指定都市を潰してまで格下げされた特別区を設置する理由はどこにあるのか。

都構想を発案・推進してきた大阪維新の会はその目的を「東京に肩を並べるため」、「大阪府と大阪市という権限の強い自治体が競い合うよりも、権限を『都』に集約した方が政策を実行しやすい」としています。

東京に近づきたい。それは分かりますが、東京が首都として発展しているのは企業の本社機能、経済機能が集約されているからであり、大阪「都」になって存在感が増したからといって今さらだれがあんな狭い大阪に本社機能を移そうなどと考えるでしょうか。

それに、大阪府と大阪市の二重行政を解消するための都構想だといわれますが、政令指定都市をなくして大阪を弱体化させるようでは本末転倒もいいところ。反都構想陣営は、政令指定都市である大阪市を廃止することなく府と市の連携を目的とした「大阪会議」での二重行政の解消を訴えてきました。これに対し、維新候補は「今までは府市どちらも維新だったから、二重行政になることはなく政策決定がやりやすかった。これが維新がリーダーでなくなったらまた、府市がケンカして二重行政に戻ってしまう。」と反論し平行線をたどったままです。

いずれにせよ、大阪市廃止が二重行政を解消する唯一の解決策ではありません。仮に、政令指定都市を廃止して道府県のトップダウンを強めることでしか二重行政が解消されないのなら、同じような大阪市と同等規模の都市を抱える、神奈川県や愛知県なども都構想をやろうと躍起になるはずですが、都になりたがっているのは唯一大阪だけなのです。

◇都構想による実体的な経済効果はなし

当初、都構想が実現すればその経済効果は4000億円にのぼると言われていました。しかし、その内訳は大阪市営地下鉄の民営化によるものがほとんどですでに実現されています。(2018年4月1日に大阪市営地下鉄は大阪メトロに改称、民営化)市営地下鉄という名前をメトロにするあたりが東京を意識しているなと思います。

ちなみに、市営地下鉄がなぜ民営化されたかというと公営のままだと鉄道事業以外の事業に手を伸ばせないからです。市営地下鉄は一部赤字路線があったものの全体としては大幅な黒字でした。したがって、民営化する必要性はあまりなかったのですが、維新としてはどんなに黒字が出ていても「市営」なのでその利益は大阪市にしか還元されないのを問題視したようです。

維新支持者は「維新府政のおかげで民営化が実現できた」とありがたがっていますが、実際には橋下市政以前から民営化の必要性は議論されていたので維新のおかげではありません。

維新が示した都構想による4000億円の経済効果はほとんど地下鉄民営化によって生み出されるものなので、今回の選挙戦、維新側は経済効果についての話をいっさいしなくなりました。経済効果という強力な切り札がなくなってしまった以上、維新は「大阪府と大阪市による『府市あわせ』(不幸せ)をなくそう」と連呼するしかなくなりました。

それどころか、むしろ赤字になるのではとも言われています。大阪市内には現在24の行政区があり、それを都構想で4つにまとめるので行政システムの大幅な改変や特別区全体を管理する組織をあらたに創設するのに合計で1500億円のコストがかかります。

大阪市の負債はゼロで黒字運営なのですが、大阪府は多額の負債を抱えているため、これ以上ムダな支出はできないのです。そんななかで、1500億円ものコストはかかっても経済効果があるかどうか分からないことに手をつけていたら、大阪がどんどん弱体化していくのは明らかです。

◇都構想実現でも「都」にはならない

都構想都構想と連呼されているので大阪市がなくなって特別区が設置されたら東京のごとく「大阪都」に変わると期待している府民もいるのですが、現状「都」を名乗れるのは東京都だけです。法律でそのように定められています。大阪府が「大阪都」と名乗るためには地方自治法を改正しなければならない。法改正には、国会での承認が得られなければならない。つまり、大阪府以外の人たちに「大阪都」を認めてもらわわなければならないのです。

都構想を推進する松井一郎、吉村洋文両氏は大阪では対立する自民党の安倍さんと仲がいいのですが、いかんせん安倍さんは一度も都構想を認めた発言をしたことがありません。むしろ、今回の選挙戦においても反維新を掲げる自民党候補の応援演説に安倍さんの側近がかけつけるほど。これはもう維新をつぶしてこいと言わんばかりです。

維新が国政で自民党の二番煎じのようなことしか言わないのは、中央の自民党から都構想推進のお墨付きをいただきたいからです。維新が大阪の有権者以外からはほとんど支持されていないのもそのためです。

なによりも日本で唯一「都」を名乗る東京都からの後押しがあると維新としては鬼に金棒なのですが、そのような声もありません。

形だけ東京に肩を並べても意味がないと分かっているからでしょう。

◇府知事選挙は棄権しました

今回のダブル選挙は、大阪をよくするための議論というよりも維新と自民・公明によるイス取りゲームの様相を呈しています。

維新陣営の吉村洋文候補は「この選挙は維新と自民・公明・立民・共産の巨大連合との戦いだ」と息巻いています。ただ、反維新陣営として立候補した自民党候補は共産党との共闘を嫌っており連携はしていません。それに、反維新を旗印に立候補する自民系候補2人は都構想には反対であるものの、維新や自民党が推進するカジノ導入には賛成の立場をとっています。一方でその自民系候補を自主支援している共産党は都構想にもカジノにも反対なので、先日の記者会見でもその整合性を問われ、「カジノに関しては主張の違いはあるが、維新政治を終わらせるという一点で自主的に支援させていただくことにした。」と苦しい言い訳。

維新と自民が推進するカジノについては次の機会にふれたいと思います。個人的には、維新の屋台骨は「都構想とカジノ」だと思っているので、ほかにもいろいろ理由はありますが、今回の府知事選ははじめて「棄権」という選択をしました。

次回は「カジノと利権」についてです。

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