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作られた分断:第八部 デニー氏勝利は基地反対の民意なのか?

翁長雄志沖縄県知事の急死にともなう県知事選は辺野古新基地建設に反対する玉城デニー候補が当選。

この選挙は、日本政府が米国との【辺野古の海にコンクリを流して基地にする】約束を認めるかどうかが問われた選挙であり、日本の安全保障のあり方も左右するものだった。

しかし、議論の矛先は

「デニーさんが知事になれば沖縄県が中国に乗っ取られる!」

という非常にレベルの低い方へと向けられた。

特に頭が柔らかく、想像力をフルに使ってしまった10代、20代の若い世代の多くが「デニーさんが勝つと中国に侵略される」と本気で思っていたらしい(実際に、知事選の結果を見ると10代20代の過半数はアンチデニーだった。)

数々のベストセラーを世に送り出したあの作家も知事選後「沖縄は終わった」と落胆。保守陣営はまさに世紀末状態‥‥‥‥‥。

と思いきや、中国よりも先に沖縄に上陸したのは台風24号だった。
そして連日中国の”お客さんたち“で賑わう尖閣諸島(沖縄県)も知事選から2週間経過するのに実に閑散としている。

◇政権が推した候補はマッチョイズム全開のマッチョなおじさん

ところで、「デニーさんが知事になったら沖縄に中国が攻め込んでくる!」とTwitterやFacebookでせっせと拡散していた連中はみな安倍政権を支持している。 

なぜなら「中国が攻めてくるぞ!」とでも言わなきゃ、沖縄に米軍基地を置いている大義がなくなてしまうから。

そして安倍政権がこの知事選に満を持して送り込んできたおじさんが佐喜真淳さん。

この人、ラグビーをやっていたゴリゴリの体育会系オジさんで当然ながら脳みそも筋肉でできていたようだ。

ちなみに教育勅語上等男尊女卑推進マッチョイズム全開の日本会議所属という華々しい経歴もお持ちなようです。(彼の華々しい活躍はこちら

つい2年半前、沖縄県の宜野湾市で「ディズニーランドを作ろう!」と言ったら市長になっちゃったこのオジさん。

若い人はよく分からないハコモノを作られるよりテーマパークを作ろうと頑張ってくれるオジさんに惹かれがち。

でも、ディズニーランドを作ろうという大風呂敷は周辺に大渋滞を巻き起こすなどの懸念が大きかったこともあり頓挫。

公約を達成できないまま市長のオシゴトを放棄して知事選での再起を誓った。

今度こそさすがの脳筋でも、もっと脳ミソを使った公約を出してくれるのかと思ったら

「携帯料金を4割値下げします!」

とよりウェイトアップした公約をお披露目した。

衆議院選挙や参議院選挙のような国政選挙の場で出す公約ならまだしも、これはさすがに脳ミソを使わなさすぎている。

この公約の荒唐無稽さは度が過ぎているので言うまでもないけど、どれだけ度が過ぎているのかといえば、「中国が攻めてくるぞ!」と騒いでいた人たちまでもが「さすがにちょっとアタマ悪すぎません?」って失笑したほど。

それに、この公約が知事の権限では実現できないということを地元の新聞社に報じられる始末。

新聞に政策の実現可能性を完全否定されるのはよほどのことがない限りあり得ない。

そもそも、知事の権限で携帯料金が4割下がるなら全国の自治体によって携帯料金に大きな差が出ているはず。(当然ながら携帯の月額料金を最終決定するのは企業)

「和歌山のauショップで契約したら大阪で契約してたときよりも月額料金が安なったわ~」なんて言った次の日には和歌山のauショップに大名行列ができるでしょう。  

これは、日本のなかで貧困率が比較的高い沖縄県に住む人たちを釣ろうとした悪徳商法。

戦後70年あまり権力の座をほしいままにしてきた自民党の先生方にとってみれば、選挙は言ったもん勝ち。

それがウソだろうが、実現不可能だろうがお構いなくとりあえずアンテナを張り巡らして、みんなが食いつくようなおいしそうなエサをぶら下げればあとは待つのみ。

選挙に当選して公約が達成できなさそうになっても「限界突破して努力したけどできませんでした」とでも言っちゃえば、「限界まで頑張ってくれたならできなくてもしゃーないな」となってくれるか「え?そんなこと言ってたっけ?忘れてたなぁ」程度に許してくれる有権者の性を自民党の先生方は知っている。

学校の先生に宿題の提出を求められて、「一生懸命やったけど今日はおうちに忘れてきた」とでも言い訳すれば、教科書でビンタされるのが常(あくまでも一例です)であるのだが、有権者はそこまで厳しくない。


◇デニー氏の当選は基地反対の民意ではない?

ここからは、あくまでも個人的な見解にすぎないので、そんな考え方もあるんだね程度にとらえてほしい。

翁長県知事の後継ぎ候補のデニー氏が当選を果たした翌日の新聞各紙には「辺野古移設ノーの民意が示された」との文言が躍った。

・「安倍政権の基地政策に対する有権者の「ノー」の意思表示」
(沖縄タイムス)


・「新基地建設に反対する沖縄県民の強固な意志が改めて鮮明になった。」(琉球新報)


・「沖縄知事選 辺野古ノーの民意聞け」
(朝日新聞 社説題)


・「沖縄知事に玉城デニー氏 再び『辺野古ノー』の重さ」
(毎日新聞 社説題)

確かに、当選した玉城デニー氏は普天間飛行場の辺野古への移設に明確に反対しているので当選の結果が「基地反対の民意」だとみる向きは間違っていないと思う。

住宅密集地のど真ん中に敷かれた普天間基地=Photo by Hiroaki Maeshiro/Bloomberg via Getty Images

ただ、ことし2月におこなわれた移設問題で揺れる辺野古を抱える名護市の市長選では、移設反対派の候補に大差をつけて移設推進派の候補が勝利した。

そして、今回の知事選における名護市の開票結果はというと明らかに玉城デニー氏の得票数が佐喜眞氏を上回っている。

名護市長選挙の開票結果(2018年2月)
・渡具知武豊  20,389票 (54.6%) 
・稲嶺進    16,931票 (45.4%)
沖縄県知事選挙 の開票結果(2018年9月 名護市)
・玉城 デニー 16,796票(52.4%)
・佐喜真 淳  15,013票(46.9%)

しかも、佐喜真氏は名護市長選で威力を発揮した勝利の方程式を踏襲した戦いを展開していた。

その勝利の方程式とは①辺野古移設に対して立場を明言しない、②辺野古へ移設すれば国から補助金が出ると言って移設反対派を威嚇することの2つ。

「辺野古に新しい基地を作ればお金がもらえる。」騒音なんて成人式の暴走族くらいだよっていう人にとってみればこれだけで反対する理由が消える。 

ところで、選挙をたたかうなかで佐喜真氏は一貫して「対立より対話」を掲げていた。

基地増設が進められるキャンプシュワブメインゲート前=沖縄県名護市(2017年3月)

ミソは対立と対話のかかる対象が「安倍政権」だということ。
つまり「安倍さんに歯向かって損するより、安倍さんと仲よくしてカネもらった方がオイシイよね?」っていう切り口。

先にも言った通り、沖縄県は他の都道府県と比べて貧困率が高い。
それに加えて沖縄県在住の男性の多くは沖縄の外に出たこともないこともあり、何が起きようと「なんくるないさ~」精神で乗り切ろうとするため女性からすれば、「男らしくない!」となってシングルマザーに転向する女性が多い現実がある。

沖縄県は県自体がリゾート地なので、自分が沖縄で生まれ育っていたらヒモになっていたことは間違いない(顔とまゆ毛の濃さからよく『南国の方ですか?』と聞かれることはヒミツです☆)

こうした現実を抱える沖縄県にとって経済発展はなによりも大事なこと。だから、国からの補助金というエサを使って釣ろうとした。


では、次に辺野古移設反対の機運をより効果的にしぼませるためにはどうすればよいのかといえばこれがわりとカンタンにできちゃう。

そう、SNSや支援者(公明党や創価学会)をフルに活用して「デニーさんが知事になったら沖縄が中国に乗っ取られる!」と拡散すること。

そうすれば、佐喜真氏がわざわざ自分の口からそんなデマを流す必要がなくなる。

これで自らの手を汚さず票集めをすることができる。

なんか本題から大きくズレたので話を戻すと、同じ「基地より経済を」戦法で挑んだのに市長選では功を奏し、知事選ではほとんど意味をなさなかった。デニーさんに味方したのは基地に対する反対の民意だけでは推し量ることのできない”なにか別のチカラ”だと考えるのが自然。


◇勝敗を分けたのはイメージ戦略?

デニーさんの当選に“別のチカラ“がはたらいたとすれば、考えられるのは単に佐喜真さんよりイメージがよかった。ということじゃないかと思う。

実際に男女別の投票行動を見ると、圧倒的に女性人気が高かったのがデニーさんだった。


ここでデニーさん、佐喜真さんの写真を見てもらいたい。


少しお腹が出ているのは撮影前に食べ過ぎたのか、それとも私腹を肥やした結果でしょうか。打ち出の小槌のようにお腹を叩けば札束が出てきそうです。

笑顔がステキですね~


ぱっと見の時点で公約云々の前に自分の脳内では圧倒的にデニーさんが勝利してる。 

笑顔の作り方からしても佐喜真さんがニヤけている(スケベっぽい)のに対してデニーさんは作られた笑顔とは思えないほど。

女性のハートをグッとつかむのはどちらか。もはや言うまでもない。

デニーさんはDJをやっていたこともあり、プロモーション動画で使う楽曲もまさに新時代の到来を予感させるようなフレッシュなテイストだった。

対する佐喜真さんは、おじさんの悪いエキスを吸ってしまっているのでのんびりとした曲調で優しく語りかけるベタな演出でも支持が集まると勘違いしてしまった模様。

今回の選挙ではこうしたイメージ戦略の成否が最終的な勝敗を決定づけたのではないかなと思う。

◇前回の勝因と今回の勝因は明らかに違う

前回の知事選では長らく辺野古移設を推進する立場にあった自民系から立候補した翁長雄志さんが「辺野古移設反対」を掲げたため、左右の対立を越えた共闘態勢となり圧勝した。しかも、この知事選の前に行われた名護市長選では移設反対派の候補が勝っている。

翁長さんは自民党出身ということもあり、保守革新を越えた幅広い支持を獲得して当選した。=産経新聞 2014年11月16日 

今回は、前回と打って変わって名護市長選で移設反対派が敗北し、翁長さんを支援していた保守のおじさんたちも、5年生存率がきわめて低い膵臓ガンを患って日に日に痩せ細っていくなかで辺野古移設を反対する姿を見てられなくなったのかどんどんと撤退していった。

亡くなる10日前に辺野古の海の埋め立て承認を撤回した翁長雄志知事。これが最後の公の場となった。=毎日新聞 2018年7月27日

おそらく、翁長さんがそのまま知事選をたたかっていたら健康面での不安などから敗北は目に見えていたと思う。

そんな状況下でデニーさんは沖縄県知事選史上最多得票を獲得して勝利したのは奇跡に近い。

◇本土の無関心が「沖縄いじめ」を生んでいる

一方で日本政府がアメリカとの約束のために基地の多くを沖縄に置いている現状に本土に住む人間は知らないし関心も持たない。

おそらく、次に本土に住む人間が騒ぐのは沖縄の基地負担軽減のために他の都道府県が基地を受け入れますと言ったときだろう。

基地がやってくるというのは、朝から晩まで近所の国道を訓練のため暴走族が暴走することを受け入れるようなもの。暴走族なんて地上を暴走してるだけマシで、いつ民家に落ちるかわからない米軍のポンコツヘリコプター「オスプレイ」が飛び回るって考えたら不眠症になる人は間違いなく続出する。

それだけじゃない。戦争になったとき、敵は軍事基地を真っ先に叩きに来る。
実は沖縄に居る米軍って1年の半分以上をお留守状態にしているので、お留守のところに攻め込まれたらひとたまりも無い。

自分ちの近くに戦争で経済を回してきたような国の軍隊が居座っていることの恐ろしさはそれを経験した人にしかわからない。

しかし分からないからと言って、辺野古の海に土砂を流し込むタンクローリーの前に寝っ転がって命がけで止めようとするおじおばに向かって「暇人」「活動家」という言葉を浴びせるのは人としてどうなんだろうか。

地元の市民が命がけでタンクローリーの前に立ちはだからなければならないのは、基地で働く人間も警察もALSOKも工事関係者もみんなボーッと突っ立ってサンゴが広がる海にコンクリ流されるのを見てるだけの役立たずだから。

安倍晋三先生とそのなかまたちは「中国が攻めてきたらヤバいからアメリカ様に沖縄にいてもらった方がいいよね?」っていうのんきな国防論を持ち出して沖縄いじめを正当化している。

でも、日本も中国も経済的には依存し合っている。経済的に依存しあっており、比較的経済が成長をしている国に戦争するメリットは皆無。

むしろ、経済が長らく低迷している日本こそ戦争に活路を見出そうとする恐れがある。

かつてのドイツも第1次世界大戦や世界恐慌などで経済が破綻していたところにヒトラーが現れ戦争を起こすことによってそれを乗り切ろうとした歴史がある。

そして、ヒトラーの側近が残した有名な語録がある。

もちろん国民のほとんどは戦争など望んではいない。でも戦争を起こすことは、指導者にとっては簡単です。国民に対しては、今おまえたちは攻められているのだと危機を煽り、これに反対する平和主義者に対しては、非国民として脅せばよいのです。これを繰り返せば、国など簡単に戦争に向かいます。ドイツだけではありません。すべての国に共通です。“ヘルマン・ゲーリング

まさに、現政権が沖縄県に住む人たちに向けることばそのものといっていい。


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