見出し画像

夜のデザートには、甘いと優しいを



キッチンでりんごをむきながら、あの夜のことをおもいだす。
あの夜に食べたものに名前なんてない。なのに、こんなにも心にのこるとくべつなもの。


ただ、もし名前をつけるのなら、きっと。



テーブルの上には、大きなお皿に盛られたおかずがたくさんならぶ。


メインのおかずがやまのようにもられたまわりに、野菜のおかずと煮物がならんでいく。あつあつのおみそ汁とたきたてのごはん。おはしを置くのもギリギリなくらいのてづくりの夜ごはん。


「ごちそうさま。」


さくらんぼ模様の白いお茶わんとおみそ汁をもってキッチンへたつ。ほとんどのおかずに手をつけていないから、当然だ。


わたしの夕ごはんは、すこしのごはんとおみそ汁、ちょっとのおかずをすこしずつだけだからにしてたから。


もういいのっという心配そうな声を背中にかんじながら、部屋にもどるのが日常だった。



思春期とよばれる年齢のころ。
わたしの身体は、ぷくぷくと体重がふえた。


いま思えば、年ごろの健康的なふっくらとした体格だっただけのこと。ただ、身体の変化にとまどってしまったのだ。


もともとほっそりとした身体がどんどんふくらんで。ふっくらとしたラインになっていくことが、イヤでイヤでたまらなかった。


太ったんじゃないのっていう冗談まじりの言葉も、ナイフのように突きささった。


太ももやおなか周り、顔のりんかくもふくふくしてきて。きづいたときには、体重計にのるのが怖くなってしまうほどだった。


単純なわたしは、食べる量を減らせば、やせると思っていた。たしかに一時的にはへったけど。無理していた反動で、さらに増えてしまった体重。


イライラしてどんどん甘いものにも手が伸びた。どうしていいかわからず、もがいてた日々は、子どもながらにとてもとてもつらかった。



あの夜は、たしか。帰るのが遅くなって、ひとりだけの夜ごはんだった。


取り分けてもらっていたおかずに、ほとんど手をつけずに食事を済ませる。まだ食べたいと、もう食べちゃだめっとが心のなかで言いあいながらも、おみそ汁とお茶わんをもって立ち上がろうとする。


すると、コトンと目の前に置かれたものをみて、おもわず声がもれた。


「わぁ。」


ちいさなグラスのパフェだった。フルーツののったお店のようなデザートだ。見上げると、母の笑顔があった。ないしょねっと言葉とともに。



あの日からだった。
わたしのごはんをしっかり食べるようになったのは。


野菜もお肉やお魚もたべた。キライなものも、すこし食べるようにした。しっかりよくかんで、味わって。


甘いものもすぐにやめられなかったけれど。前みたいにすごく食べちゃうことはなくなった。


どうしてものときには、お母さんのつくってくれたパフェを食べる。それだけで、甘いものが食べたいきもちがすごく落ち着いたから。



カゴのなかのりんごをかるくあらう。トントンと8等分してから、皮をむいて、たべやすい大きさに。すこし大きいかなってくらいがいいんだよね。


りんごを塩水につけている間に、グラスにオールミートとヨーグルト、てづくり苺のジャムを交互にかさねていく。


しあげに、りんごをのせて、いちごジャムとはちみつをとろりとさせる。
あの夜、母がつくってくれたパフェだ。


見た目はパフェなのに、おなかにやさしい。りんごのおかげで、おなかもふくれる。はちみつといちごジャムの甘さのおかげで、甘いものを食べたいきもちも満たされた。


わたしは、母のつくってくれたパフェを受けついだ。はじめてつくってくれた夜のように、ふたり分のパフェをつくるんだ。




あの夜にたべたものに名前なんてない。だって、名前をつけてしまいたくないくらい、とくべつなものだから。
ただ、もし名前をつけるのなら“とくべつなパフェ”にしよう。
ふたりだけしか知らない、夜のヒミツなのだから。


いつも読んでくださり、ありがとうございます♡