傍聴記録15 未成年の大麻密輸事件

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。
千葉地裁
2017年1月26日(木) 6F xxx号法廷 14:00-15:30
犯行時少年 (公判時は成人のため、のちに被告人の名前が出ます。)
平成29年(わ)第xxx号 大麻取締法違反、関税法違反 新件
裁判官:皆川亮介 書記官:上村 譲 検察官:松沢房代 弁護人:大沢晴男

裁判官「それでは開廷します。まず通訳人の方、宣誓をお願いします。」
通訳人「宣誓。良心に従って誠実に通訳することを誓います。通訳人」
裁判官「はい。」
裁判官「被告人は証言台の前に立ってください。まず名前を教えてください。」
被告人「グエン ヴァン フンと申します。」
裁判官「生年月日はいつですか?」
被告人「1997年1月30日です。」
裁判官「国籍はどこですか?」
被告人「ベトナム社会主義共和国。」
裁判官「日本での住居はどこですか?」
被告人「千葉県東金市大野1748。」
裁判官「仕事は何をしていますか?」
被告人「留学生です。」

裁判官「はい。それでは被告人に対する大麻取締法違反事件について審理を行っていきます。起訴状は受け取って読んでいますかね?」
被告人「はい。」
裁判官「まず検察官から起訴状を読まれます。検察官から起訴状を朗読してください。お願いします。」

検察官「公訴事実。被告人は、みだりに平成28年10月19日(現地時間)ベトナム社会主義共和国所在のハノイ•ノイ•バイ国際空港において、同空港発、成田国際空港行きの航空機に搭乗する際、大麻である緑色乾燥植物片86.02グラムを隠し入れた透明ビニール袋等在中の刻みたばこ1袋を収納したダンボール箱を、機内預託手荷物として預けて同航空機に積み込ませ、同月20日、千葉県成田市所在の同空港内の駐機場において、同空港関係作業員に同ダンボール箱を同空港に到着した同航空機から機外に搬出させ、もって大麻取締法が禁止する、本邦への輸入を行うと共に、同日、同空港内の東京税関成田税関支署第1旅客ターミナル旅具検査場において、同支署税関職員の検査を受けた際、関税法が輸入してはならない貨物とする前記大麻を携帯しているにもかかわらず、その事実を申告しないまま同検査場を通過して輸入しようとしたが、同職員に前記大麻を発見され、これを遂げることが出来なかったものである。
罪名および罰条、大麻取締法違反、関税法違反。大麻取締法違反、第24条1項。関税法。第109条3項1項、69条の11、第1項1号。以上です。」

裁判官「今これから、先程読みあげられた公訴事実について審理を行っていきます。審理にあたって説明しておきます。被告人には黙秘権という権利がありますから、答えたくないことについては答えなくてよいですし、ずっと黙っていても構いません。もちろん質問に対して、答えることは出来ますけど、被告人がこの法廷で話した内容は、有利不利を問わず、証拠になります。わかりましたか?」
被告人「はい。」
裁判官「それではさっそく裁判所から尋ねますが、先程検察官が読み上げた事実について、どこか間違っているところはありますか?」
被告人「確かに私が大麻草を日本に持ち込んだことに間違いありませんけども、故意にして持ち込んだということはありませんでした。事前にこれが大麻草であることは知らなかったんです。この植物片を日本に持ち込んだ時には、うっすら何かの違法性があると思っていましたけれども、まさか大麻草だとは知らなかったです。」
裁判官「はい。弁護人のご意見はいかかでしょうか?」
弁護人「本人が言うとおり、大麻を持ち込んだという外形的事実についても争いませんし、本人は大麻というものを知らないですけれども、大麻を含むような違法な薬物を日本に持ち込んだこと自体は、まあ大麻を含むような違法な薬物かもしれないという認識で日本に持ち込んだので、事実関係については争わないということになります。」
裁判官「はい。弁護人、1回私のほうから確認してよろしいですか? 被告人のほうに。」
弁護人「はい。」
裁判官「先程、被告人が言ったことについて、少し確認させてください。大麻草であることは知らなかったと言いましたよね?」
被告人「はい。」
裁判官「それは大麻を含む違法薬物かもしれないと。その認識についても解らなかったということでよいですか? それとも大麻を含む違法薬物かもしれないということは解っていたんですか?」
被告人「知らなかった。」
裁判官「大麻を含む違法薬物かもしれないという認識も全くなかったというわけですね?」
被告人「少し、疑惑があったんです。もしかして輸入禁止なものかもしれないという認識がありました。少し。」

裁判官「輸入禁止の物の中には、大麻を含む違法薬物は入っていたんですか?」
被告人「はい。」
裁判官「そうすると、大麻など違法薬物を含む、輸入禁止物かもしれないという疑いを持っていたということでよいんですか?」
被告人「はい。」
裁判官「弁護人よろしいですか?」
弁護人「はい。」
裁判官「では証拠取り調べていきますので、被告人は一旦元いた席に座ってください。では検察官から冒頭陳述を行ってください。」

検察官「はい。それでは検察官が証拠により立証しようとする事実は以下のとおりです。まず第1に被告人の身上経歴等ですが、被告人はベトナム社会主義共和国で出生し、平成27年8月に、留学の資格で日本に入国し、犯行当時は城東大学に在学中でした。被告人は本邦において、友人とルームシェアをして同居していました。被告人は本邦における前科前歴はありません。第2に犯行に至る経緯および犯行状況等ですが、被告人は平成28年10月12日に日本を出発し、ベトナムに一時帰国しました。被告人は同月15日から17日までの間に、ドンコリー、以下「D」と呼びますが、Dなる人物とフェイスブックのメッセンジャーにおいて、
被告人「あなたの友達に聞いてくれる。それはどうですか?」
D「クサを買えるように聞いてあげるわ。」
被告人「はい。」
D「前は一個300万、例え値段が上がっても20万、30万しか上がらない。それでもOKなら俺が買ってあげる。もし1個が100グラムなら大きさはiPhone6のケースと同じくらい。」
被告人「100グラムは少なすぎる。」
D「100グラムはiphoneのBOXと同じ重さだよ。圧縮したクサ。」
被告人「OK。今晩また連絡するね。」
被告人「それを外に刻みタバコを包みたいから」
などという会話をし、同月16日、トロッグセロー、以下「T」といいますが、なる人物と同様に、
被告人「ちなみにクサあるか?」
T「クサを使用するなんて危ないよ。」

などという会話をし、その他複数の人物と、クサに関する会話をしました。
被告人は平成28年10月19日、ベトナムのハノイ•ノイ•バイ国際空港において、同空港発、成田国際空港行きの航空機に搭乗する際、大麻である緑色乾燥植物片86.02グラムを隠し入れた透明ビニール袋等在中の刻みたばこ1袋を収納したダンボール箱を、機内預託手荷物として預けて同航空機に積み込ませ、同月20日、同航空機は千葉県成田市所在の同空港内の駐機場において、同空港関係作業員に同ダンボール箱を同空港に到着した同航空機から機外に搬出させ、もって大麻取締法が禁止する、本邦への輸入を行うと共に、同日、同空港内の東京税関成田税関支署第1旅客ターミナル旅具検査場において、同支署税関職員の検査を受けた際、関税法が輸入してはならない貨物とする前記大麻を携帯しているにもかかわらず、その事実を申告しないまま同検査場を通過して輸入しようとして、公訴事実記載の犯行に及びました。被告人は同検査場にて携帯品検査を受けた際、紙巻きタバコ3カートン、刻みタバコ2袋を所持していた。税関職員に対して、当初、紙巻きタバコ3カートンのみ所持していると申告し、刻みたばこを所持していることを申告しませんでした。その後、税関職員が、被告人の手荷物であるダンボール箱の中から、刻みたばこ2袋を発見すると、すぐに被告人は、それもタバコであって、リンという友達の物と説明し、税関職員がその中から、本件緑色乾燥植物片を取り出して、「これは何か?」等と尋ねたところ、「良い物ではない。悪い物。」と答えました。被告人は同日、その場で現行犯人逮捕されました。第3その他情状等です。以上の事実を立証する為、証拠等、関係カード記載の各証拠の取り調べの請求をいたします。以上です。」

裁判官「はい。では弁護人、証拠についてのご意見をお伺いします。」
弁護人「甲号証については全て同意します。乙号証については、乙1と乙9、乙10のみ同意で、乙2から乙8は不同意です。」

裁判官「はい。同意のあった証拠については全て採用して取り調べます。まず書証について検察官から証拠の内容を説明していただきます。」


ここから先は

19,761字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?