傍聴記録6 「親子」とは「子育て」とは? 考えさせられとても印象に残った大麻裁判

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東京地裁
2016年7月31日(月)
武石健一 平成28年(わ)第xxxx号
14:20-15:10 5F 512号法廷 大麻取締法違反 新件
裁判官:桑子紗江 書記官:北村陽子 検察官:秋山ちづる

裁判官「それでは開廷いたします。被告人は証言台の前に立ってください。始めに名前などの確認をします。お名前はなんといいますか?」
被告人「武石健一です。」
裁判官「生年月日はいつですか?」
被告人「平成7年8月3日です。」

裁判官「本籍はどこですか?」
被告人「東京都荒川区南尾久7-25」
裁判官「住所はどこですか?」
被告人「東京都荒川区南尾久7-25-25 スカイブレイド尾久1010号室」

裁判官「いま何か仕事をしていますか?」
被告人「いえ。していません。」

裁判官「それではあなたに対する大麻取締法違反被告事件について審理をはじめます。起訴状という書類は受け取っていますね?」
被告人「はい。」
裁判官「これから検察官がこの起訴状を読み上げます。後でその内容について事実と違うことがあるかどうかを尋ねますので、よく聞いていてください。」

検察官「公訴事実。被告人はみだりに平成28年5月3日。東京都荒川区南尾久5-2-15、ローソン南尾久店の駐車場に駐車中の自動車内において大麻である乾燥植物片4.304gを所持したものである。罪名及び罰条、大麻取締法違反、同法第24条の2第1項。」

裁判官「それでは今検察官が読みあげた事実について審議を行います。始めに説明しておきますが、あなたには黙秘権という権利があります。ですので言いたくないことを無理に話す必要はありません。答えたくない質問にだけ答えないこともできますし、始めから終わりまで話しをしたくなければ黙っていても構いません。話しをしないという、そのことだけで不利益に扱われることはありません。もちろん質問には答えてもらえれば結構ですが、あなたがこの法廷で話したことは、それがあなたにとって有利であっても不利であっても証拠となるので、注意しておいてください。ここまで説明したことの意味はわかりましたか?」
**
被告人**「はい。」

裁判官「ではそれを前提に尋ねますが、さきほど検察官が読み上げた事実について、何か間違っているところなどはありますか?」
被告人「いえ。間違いありません。」
裁判官「弁護人ご意見をお願いします。」
弁護人「被告人と同様です。」
裁判官「では一旦元の席に座ってください。」
裁判官「では検察官、冒頭陳述をお願いします。」
**
検察官**「検察官が証拠により立証しようとする事実は以下のとおりであります。まず第1に被告人の身上経歴等ですが、被告人は中学卒業後、建築作業員等の職を転々として、犯行時は無職でした。被告人には婚姻歴はなく、犯行当時は父親と住居地に居住していました。被告人には少年時に傷害等の前歴が5件あり、うち3件は少年院に入院。成人してからは、窃盗の前歴1件があります。続いて第2に犯行に至る経緯および犯行状況等ですが、被告人は平成23年頃に初めて大麻を使用し平成28年4月頃からは、継続的に大麻を購入し使用しており、同年4月にも氏名不詳者から大麻を購入しました。被告人は5月3日午前0時頃、友人が運転する車に乗車し、その後、後輩である「山木晴美」と合流しました。前記山木が乗車した後、被告人は自らが持っていたウエストポーチを前記山木に、「警察に声をかけられても、ヤバいものが入っているから見せるなよ。」などと言いながら手渡しました。犯行状況は公訴事実記載の通りであります。同日午前1時15分頃、前記車両に同乗していた女性山木を不審に思った警察官が被告人らに対して職務質問、所持品検査を実施したところ、前記ウエストポーチ内から大麻が発見された為、被告人および前記山木は現行犯人逮捕されました。第3にその他情状等です。以上の事実を立証する為、証拠等、関係カード記載の証拠の取り調べの請求いたします。」

裁判官「それでは請求証拠に対するご意見をお願いします。」
弁護人「甲7号証と甲8号証書証について異議ありません。乙号証についても全て同意いたします。」
裁判官「それでは全て採用して取り調べます。検察官、内容を告げてください。」
検察官「はい。甲1号証は現行犯人逮捕手続書でありまして、被告人と一緒に車に乗っていた女性の持っていたウエストポーチ内から大麻が発見され、被告人および、その人、山木を現行犯人逮捕した経緯について記載されています。また犯行日時もこちらで特定されています。甲2号証こちらは捜索差押調書でありまして、乾燥植物片を押収したこと、その経緯、その他に押収したものなどが明らかになっております。甲3号証は写真撮影報告書でありまして、内容としましては、乾燥植物片等の隠匿の状況が明らかになっております。甲4号証、こちらも写真撮影報告書でありますが、さきほど述べました捜索差押調書に、記載のある物品の形状等が写真によって明らかとされています。甲5号証こちらは乾燥植物片の鑑定嘱託。甲6号証は、鑑定書でありまして乾燥植物片が大麻であることが明らかとなっております。また甲7号証および甲8号証は、大麻1袋、こちらのブツでありまして、のちに提示いたします。甲9号証は捜査報告書でありまして、内容としましては被告人からの採尿状況が明らかになっており、甲10号証、こちらは尿の任意提出書、甲11号証は、その領置調書、甲12号証は、その尿の鑑定嘱託、甲13号証は、その鑑定書でありまして、内容としましては、被告人の尿から、大麻代謝物の反応が認められたことが明らかとなっております。甲14号証こちらは被告人の大麻をウエストポーチ内の大麻を持っていた、山木晴美の供述調書でありまして、内容としましては、被告人から大麻の入ったウエストポーチを、「ヤバい物が入っているから」と言われて渡され預かった状況、また被告人が大麻の様なものを使用しているのを見たことがあることなどが述べられております。甲15号証こちらは、被告人の乗っていた車を運転していた者の供述調書でありまして、被告人らを車に乗せた経緯等が明らかになっております。またポーチを渡したところについては見ていないというむねを述べています。甲16号証は被告人に職務質問した警察官の供述調書でありまして、職務質問および所持品検査が任意であったこと、またウエストポーチについて、「女に渡したのは俺だ」と述べていたことが明らかとされております。甲17号証は被告人の父親の供述調書でありまして、被告人の生活状況等が明らかになっております。続いて乙号証です。乙1号証は被告人の身上経歴に関する供述調書でありまして、冒頭陳述記載の通りの身上経歴が明らかになっています。乙2号証は、被告人の違法薬物等の使用歴、その大麻等の使用方法について明らかにしたものであります。初めて大麻を使ったのは高校1年生の時であることなどが明らかとなっております。乙3号証こちらは被告人が大麻を購入した経緯について明らかにしたものであります。乙4号証は被告人の検察官に対する供述調書でありまして、内容としましてはウエストポーチに入れた大麻2袋を山木に預けた経緯等、本件犯行状況が明らかになっております。乙5号証は被告人の戸籍。乙6号証は被告人の犯歴でありまして、冒頭陳述記載の通り、少年時の犯歴等が明らかにされております。あと大麻を提示します。」
**
裁判官「被告人、証言台の前立ってください。」
**検察官
「これ見えますかね?これ2つともウエストポーチの中に入っていたものですけども、これは両方あなたのものであることは間違いないですか?」
被告人「はい」
検察官「両方共もういらないですね?」
被告人「はい。」
裁判官「では戻ってください。」
検察官「甲号証は以上であります。」

裁判官「それでは弁護人側の立証について、おうかがいします。」
弁護人「証拠による請求書の通り、被告人の父親である武石 護氏の証人を申請いたします。」
裁判官「では証人について検察官のご意見をうかがいます。」
検察官「はい。しかるべく。」
裁判官「それでは、採用して審議を行います。武石 護さん、私の前の証言席までお越しください。」

裁判官「それでは改めてお尋ねします。お名前は何とおっしゃいますか?」
証人「武石 護と申します。」
裁判官「生年月日、職業、住所ついては、こちらの紙に書かれた通りで間違いないですか?」
証人「間違いありません。」
裁判官「それでは、これからあなたに証人として話をしていただくにあたって、嘘偽りを述べないという宣誓をしてもらいます。お渡しする宣誓書を声を出してお読みください。」
証人「宣誓。良心に従って真実を述べ、何事も隠さず偽りを述べないことを誓います。(身体が小刻みに震えていた)」
裁判官「ではそちらにお座りください。それでは今誓ってもらった通り本当のことを話してください。宣誓のうえで、あえて嘘の話しをされますと、証人自身が罪に問われることもありますので、ご注意ください。では弁護人からどうぞ。」
弁護人「それでは弁護人からお尋ねします。あなたと被告人である武石健一さんとの関係を教えてください。」
証人「父親になります。」
弁護人「今回、健一さんは大麻を持っていたということで、捕まってしまったわけですが、そのことを知ったのはいつですか?」
証人「弁護士からご連絡をいただいた時、初めて知りました。」
弁護人「その連絡を受けた時、どのような気持ちでしたか?」
証人「無心になってしまいました。」
弁護人「健一さんが逮捕されたのは今回が初めてではありませんが、これまで健一さんは少年院に3回入っていますよね?」
証人「はい。」
弁護人「最初に入ったのは、どちらの少年院になりますか?」
証人「小田原少年院です。」
弁護人「そこには何故入ることになったんですか?」
証人「無免許運転です。」
弁護人「どの位の期間入っていましたか?」
証人「1年間です。」
弁護人「2回目に入ったのはどちらの少年院ですか?」
証人「八街少年院です。」
弁護人「八街少年院には何で入ることになってしまったんでしょうか?」
証人「傷害になります。」
弁護人「その傷害事件の被害者は、どなたになりますか?」
証人「私になります。」
弁護人「どれ位の期間入っていたのでしょうか?」
証人「約半年位で少年院を移動しております。」
弁護人「その間、健一さんに会いに行ったりしましたか?」
証人「行っておりません。」
弁護人「それはなぜですか?」
証人「私への傷害の審判の時に、会えない・・・ということを読まされ、審判を退出しました。その後会ってはいけないのかな、会えないのかなということが続きました。」
弁護人「八街少年院を出たあと、3回目次はどちらの少年院に入りましたか?」
証人「久里浜少年院になります。」
傍聴人「すげえ。こいつエリートや。(小声で)」
弁護人「久里浜に入ることになったのは何でなんでしょうか?」
証人「傷害及び公務執行妨害になります。」
弁護人「久里浜に入っていた期間はどれ位ですか?」
証人「2年間になります。」
弁護人「その間は健一さんに会いに行ったりしましたか?」
証人「行きました。」
弁護人「どれ位の頻度で行きましたか?」
証人「月に1回のペースで行っておりました。」
弁護人「久里浜の少年院を出た後は、健一さんはどのように生活をしていたんでしょうか?」
証人「就職支援の方からサポートいただきまして、住み込みの仕事に就くことができました。」
弁護人「その住み込みの仕事をしている会社の名前は何といいますか?」
証人「有限会社ゲンと申します。」
弁護人「有限会社ゲンでは、どれくらい働いていたんですか?」
証人「約2ヶ月ほどになります。」
弁護人「その後はどちらで働いていたんですか?」
証人「自宅の方で知人を頼りに仕事を続けていました。また自分で職を見つけ、電車に乗り通勤して仕事をしておりました。」
弁護人「電車に乗って通勤していたというのは、どこの何ていう職場なんでしょうか?」
証人「派遣会社に勤め、サポート支援で働いておりました。」
弁護人「その仕事では、どのような仕事をするのですか?」
証人「制服がございます。現地では制服を着ての仕事となります。」
弁護人「制服を着て職場に行っていたということでしょうか?」
証人「通勤はスーツにワイシャツ、スラックス、ネクタイ等を着用しまして、勤務先で清掃のユニフォームに着替えて仕事をしていました。」
弁護人「スーツを着て、きちんと仕事をしている健一さんを見てどう思いましたか?」
証人「当時は、続くといいなという思いで見ていました。」
弁護人「その後はどうなってしまったんでしょうか?」
証人「バイクの窃盗で事件を起こしまして、解雇扱いになっております。」
弁護人「今回の件についてお聞きします。今回の件で健一さんが捕まっている間、健一さんの為にどんなことをしてきましたか?」
証人「本人宛の郵便物関係を整理させていただきまして、金銭的な解決をしなければいけないなということが多数ありまして、ただ、その前週に事故に遭遇しておりまして、その対応などを続けております。」
弁護人「経済的に処理しなければならないものについては、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?」
証人「納税義務、私用携帯電話関係、クレジットカード関係、事故の処理費用等になります。」
弁護人「その他にもありませんか?」
証人「今思い当たるのはそれだけになります。」
弁護人「以前に健一さんは交通違反等を起こしていると思うんですけど。」
証人「駐車違反に関しては2件処理しております。違反金も支払っております。」
弁護人「違反金の支払いを行ったのは何か理由はありますか?」
証人「支払い命令等が届いておりましたので、すぐに解決しなければと思い、私の方で違反金を支払いました。」
弁護人「違反金を支払わないと健一さんはどうなってしまうと思ったんでしょうか?」
証人「私に出来ることがあれば、迷惑かけずに解決した方が早いのかなと思いました。」
弁護人「健一さんに会いに行ったりはしましたか?」
証人「はい。しました。」
弁護人「その際に何か差し入れなどはしましたか?」
証人「差し入れは、後日、身の回り品や日用品、雑貨の購入のお金です。」
弁護人「いま健一さんが着ているスラックス、ワイシャツ等は、護さんが差し入れたものですか?」
証人「昨日、差し入れにうかがいました。」
弁護人「健一さんが捕まった時、10万円という、かなりまとまった現金を持っていたんですけど、これは何故かわかりますか?」
証人「前日5月2日に10万円を渡しました。それにつきましては、翌3日に行動予定として、事故に遭遇した病院に行って、診断書をもらいに行くのと、車の保管料、レッカー代等その事故手続きにうかがうということで渡しました。」
弁護人「健一さんの為に色々な経済的な支援をしてきたかと思うんですが、今回の件に関していえば、総額としてどれくらいのお金を使いましたか?」
証人「10万円をきっかけに、昨日まで200万円になります。」
弁護人「健一さんが今回の件で捕まる前はどこで暮らしていたのでしょうか?」
証人「自宅で一緒に暮らしていました。」
弁護人「家にはきちんと帰って来ていましたか?」
証人「1日1晩と帰らない日もありますが、基本的には自宅に帰って来て生活しておりました。」
弁護人「健一さんの生活費はどうされていたんでしょうか?」
証人「一部、仕事の収入がある時は、請求はされませんでしたが、収入が先の話しになる、まあ給料日が遠く、それまでの生活費もしくは移動費等を含めて私の方で支援いたしました。」
弁護人「護さんご本人は今どのようなお仕事をされていますか?」
証人「会社員。製造販売業の工場で勤務をしております。」
弁護人「定年は何歳になるんでしょか?」
証人「60歳定年、嘱託5年という65歳までの区切りになります。」
弁護人「老後の蓄えなどはありますか?」
証人「…ありません(急に涙が出そうになりそうなのをこらえながら)」
弁護人「それはなぜでしょうか?」
証人「事故を起こす前にも、久里浜を出てから、もしくはそれ以前、中学時代からの支払い、久里浜を出てからの生活支援金、トラブルなどの解決資金で使ってしまいました。」
弁護人「今後の自分の将来については、どのように感じていますか?」
証人「残された勤務期間を働ければ、何かの足しになるのかなと思いがあります。」
弁護人「そういった中で、健一さんのために法廷に立つと決めていただけたのは何でなんでしょうか?」
証人「今の息子には最終的な頼りは、私しかいないと思っております。」
弁護人「健一さんが今回大麻に手を出してしまったのは、何故だと思いますか?」
証人「親と息子本人、双方の責任があると思っています。」
弁護人「責任とは具体的にどのようなものでしょうか?」
証人「あやまった行動を起こしているのではないか、不安な時に助言するだけの認知を基に正してあげる力がありませんでした。(涙を流しながら)」
弁護人「今後は健一さんの為に父親としてどんなことが出来ますか?」
証人「私を見てもらいたい。今までの私を見て、これから話しを続けていかないといけないと思っております」
弁護人「今後、健一さんに望むことはありますか?」
証人「日常の日々を1日1日を行動、生活、その歪み、その延長に犯罪があるものと思っています。知らなくて良いことを知ろうとしたり、関わらなくて良いことに関わったり、その中で意志の強さを持っていただきたいなと思います。」
弁護人「終わります。」
裁判官「検察官どうぞ。」
検察官「はい。それでは検察官の方から質問しますが、お話をうかがって、こんなこと言うのもあれなんですが、息子さん相当ダメッダメですよね。どうしてこうなっちゃったかって、お父さんが考えることはありますか?」
証人「本人の意志に任せすぎた。」
検察官「どの辺から道を間違っちゃったんですかね?小学生の時から嘘つきとかだったんですか?そういうわけじゃないんですか?」
証人「中学2年生頃から行動が不安定になりました。」
検察官「理由は思い当たることはあるんですか?」
証人「本人が何か心に残る嫌な経験が基になっていたんだと思います。」
検察官「聞いたことはないんですか?」
証人「母親から聞きました。」
検察官「何だったんですか?」
証人「クラブ活動のなかで、顧問の方から、嫌な思いをしたというふうにうかがっております。」
検察官「それをきっかけに、色々生活が乱れ始め、付き合っちゃいけない人達と付合うようになり、さきほど述べましたけど、高校1年生の時に大麻って、相当薬物へ手を出したのが早いですね。お父さんの方では大麻使っているっていうことは知っていたんですかね?」
証人「全く知りません。」
検察官「大麻も依存性があるので、社会復帰した時にはきっと、また一緒に、お父さんは住まわれるんですかね? 健一さんと。」
証人「はい。」
検察官「そうすると大麻には依存性があるので、まあ定期的に部屋を探したりしなきゃいけない。そういうふうにやっていかないと防げないと思うんですけど、そういうことなど考えていることはあります?」
証人「今はよく変化を見続けることしかできることはありません。」
検察官「被告人の部屋に勝手に入って、大麻探したりってできたりしますか? お父さんのほうが、傷害の被害者になったことがあるっていうふうにさきほどありましたけど、どうですかね?」
証人「依頼があれば協力はさせていただきます。」
検察官「本人が部屋に入るんじゃねえ? って言っている時に、部屋に入って大麻を探したりすることは現実的に難しい感じですかね? できなかったら正直にお答えください。こんだけ色々あった中でこうなっているんで。」
証人「どういうふうな行動に出るのかっていうのが見えてきません。」
検察官「日常的に暴力を振るわれているっていうのはないんですか?」
証人「ありません。」
検察官「以上です。」
裁判官「それでは裁判所の方からも、少しお尋ねします。」
裁判官「今回、薬物で捕まっていますけど、捕まっている前の状況なんですけれども、息子さんとお父さんの間で話しをしたりコミュニケーションは取れている状態だったんでしょうかね?」
証人「はい。以前から2人で暮らしていますので、趣味の話しとか雑談とか、そういった話しはしております。」
裁判官「生活状況とか、例えばですよ、職についていないとか、生活状況に突っ込んで指導的なことを、お父さんが言うと、息子さんはそれを聞ける体制にあったんですか?」
証人「私はそこから逃げていたんだと思います。」
裁判官「言ったとした場合、聞いてくれる土壌があったか、そこの辺りは認識はどういう感じですか?」
証人「聞かないといけないなという場面の時は、本人は、そのことでの情緒不安定状態に近づいている時ですので、また私から何か強く言った時に、家庭内で問題、揉めごとに繋がる恐れがある。そういった思いが強かったんだと思います。」
裁判官「中々踏み込んだ話しというのは、しずらい状況だということなんですかね?」
証人「はい。」
裁判官「情状証人として、垣間見るご苦労もある中で、共倒れにならないかっていうところで懸念するところはあるんですけど、お父さんもう1度正直な気持ちを教えてください。」
証人「私が頑張るしかない。ものだと思っています。」
裁判官「お子さん自身のことの悩みや相談など、周りでできる人はいますか?」
証人「おりません。」
裁判官「もちろん、被告人が立ち直る為には、お父さんがいてくださることがよいのは間違いないんですけど、他方でそれを抱えすぎて証人自身が潰れてしまうこともあってほしくないと思いますので、おそらく色んな問題を抱えていると思うんですよね、暴力的な面もありますし、薬物の面もありますし、それを全てお父さん自身が頑張って踏み込んでいけば、元に戻せるのか?っていうそういう問題でもないような気がするので、今後の支援の中で、何か他に頼れる力はないのか?他の力を借りるという視点も持っていただけたらなと思うんですけど、そうでないと、2人とも潰れてしまいますし、あるいは良い方に行きにくくなってしまうという懸念もありますので、ちょっと外の力を借りるという方向も考えてもらうというかたちでよろしいでしょうか?」
証人「はい。」
裁判官「それでは証人尋問終わりますので、元の席に戻ってください。では被告人、証言台の前のところに来てください。それではあなたから話しを聞きますので弁護人からどうぞ。」

弁護人「それでは弁護人からお聞きします。まずあなた今回大麻を持っていたということで起訴されていますが、起訴状に書かれた事実は間違いないんでしょうか?。」
被告人「はい。間違いありません。」
弁護人「あなたは大麻をどのようにして持っていたんですか?」
被告人「ウエストポーチの中に入れて持っていました。」
弁護人「あなたが警察から職務質問を受けた時に、そのウエストポーチを持っていたのは誰ですか?」
被告人「車に乗車していた後輩の女の子です。」
弁護人「その子の名前は何ていいますか?」
被告人「山木晴美さんです。」
弁護人「なぜ山木さんがポーチを持っていたんですか?」
被告人「車に乗った時点で、自分が助手席に乗っていたんで、邪魔だったんで、後ろに渡しました。」
弁護人「そのウエストポーチは大麻という警察に見つかったら困る物が入っていたわけですけど、なんでそれを他の人に渡したんですか?」
被告人「まさか実際に自分が職務質問を受けて、こうして逮捕されるなんて思わなかった。」
弁護人「ウエストポーチを渡したのは警察に職務質問される前だったんですか?」
被告人「はい。そうです。」
弁護人「今回持っていた大麻は、どうするために持っていたんですか?」
被告人「自分で使用するためです。」
弁護人「これまでにも大麻を使ったことはあるんですか?」
被告人「はい。」
弁護人「大麻を吸うようになったのは、いつ頃ですか?」
被告人「4月頃からです。」
弁護人「今年の2月頃から今回逮捕されるまでの間に、どれくらいの頻度で大麻を吸っていたんでしょうか?」
被告人「週に1回くらいです。。」
弁護人「大麻を吸うようになったのは何故ですか?」
被告人「彼女と喧嘩をした時、イライラして大麻を吸ってしまいました。」
弁護人「これまで大麻を吸っていた時は1人で吸っていたんですか?」
被告人「友達と吸うこともありますか?」
弁護人「警察にはそのように話しましたか?」
被告人「いえ。」
弁護人「それは何故ですか?」
被告人「その場で友達に迷惑をかけるのが怖くなって、実際とは違う話しをしてしまいました。」
弁護人「その後、検察官の取り調べがあった時には、きちんと正しいことを話したんですか?」
被告人「はい。」
弁護人「大麻を所持することが何故禁止されているか理解はしていますか?」
被告人「薬物。依存性があるということと。実際に自分の身体もそうですし、周りの人に危害を加える可能性があると教わりました。」
弁護人「どうすれば大麻を止めることが出来ると思いますか?」
被告人「まず1番最初はやっぱり、薬物を使っている友達と縁を切ること、関わらないこともそうですし、今回自分が手を出すきっかけになったストレスの発散の仕方というのを自分で上手く見つけて、ストレスを溜め込まないようにしていかなければしていかないと思います。」
弁護人「何かストレス発散方法はありますか?」
被告人「昔から犯罪ばかりしてきて、人に迷惑ばかりかけてきて、もっと家にいる時間というのを、家族といる時間というのを、自分にとってよい環境にしていたら、もっと違ったのかなと思います。」
弁護人「お父さんは今回の件で健一さんの為にどんなことをしてくれましたか?」
被告人「今回の件では留置場にいる間には私服、着替えを差し入れてくれて、あと留置場で石けんやシャンプーを購入に必要なお金を差し入れてくれて、こうして公判にもワイシャツ、スラックスで来れたのも、父が面会で差し入れしてくれたおかげです。」
弁護人「これまで色んな事件を起こしていますけど、その度にお父さんが健一さんの為にしてくれたことっていうのはどんなことがありますか?」
被告人「先日の窃盗の逮捕の時には示談金を払ってくれて、自分が久里浜少年院を出院することができたのも、父が身元引き受け人になってくれた。事故をおこして車が全損した時、電車もない時間なのに父が迎えに来てくれました。」
弁護人「そういうことをしてくれたお父さんに対してどう思いますか?」
被告人「たくさんのことをしてくれているのにもかかわらず、恩をあだで返すように迷惑ばかりかけて情けないです。」
弁護人「お父さんはもう老後はないようなことを言っていますけど。そういうことについてはどう思いますか?」
被告人「父の老後をなくしてしまったのは自分のせいなので、自分が今から少しでも返すというか支えるというか、今までしてもらった分、父に返さなきゃいけない、返したいと思っています。」
弁護人「それでは健一さんの仕事のことについてお尋ねしますね。最後にいた少年院の久里浜を出所したあとはどんな仕事をしましたか?」
被告人「最初は南千住で、とびの仕事をしていました。」
弁護人「それはどれ位続けていましたか?」
被告人「2ヶ月程です。」
弁護人「何故辞めてしまったんでしょうか?」
被告人「会社の親方にあたる人と上手くいかなくて。人間関係で。それで辞めてしまいました。」
弁護人「そのあとは、どんな仕事に就きましたか?」
被告人「そのつぎは、埼玉で友達と一緒にとびをやっていました。」
弁護人「それはどれくらい続けたんですか?」
被告人「それはすぐ実家の方に戻りました。」
弁護人「実家の方に戻ってしまったのは何故ですか?」
被告人「父が心配して、戻ってきた方が良いんじゃないかと。連絡くれていて戻ることにしました。」
弁護人「埼玉でとびを辞めた後は、どんな仕事をしていましたか?」
被告人「上野の家電量販店で働いていました。」
弁護人「その仕事はどれ位続きましたか?」
被告人「2ヶ月位です。」
弁護人「何故辞めてしまったですか?」
被告人「それが前回窃盗で逮捕された時に、解雇扱いされてしまいました。」
弁護人「もし逮捕されていなければ続けていたと思いますか?」
被告人「はい。」
弁護人「そのあとはどんな仕事をされましたか?」
被告人「そのあとは地元でドライバーの仕事をしていました。」
弁護人「どれ位やっていましたか?」
被告人「2ヶ月位で辞めて、そのあとはキャバクラのホールで働いていました。」
弁護人「その仕事のあとは、どんな仕事をしていましたか?」
被告人「また地元でとび職をやっていました。」
弁護人「それはどれ位続きましたか?」
被告人「1ヶ月と少し。」
弁護人「辞めてしまった理由はなんですか?」
被告人「下請けの会社で問題があったみたいで、営業停止をかけられてしまったと社長が言っていました。」
弁護人「その営業停止がなければ、今でもとびの仕事は続けていたと思いますか?」
被告人「はい。」
弁護人「その時の仕事を辞めてしまったのは、いつ頃の話しになりますか?」
被告人「今年の6月の頭くらい。」
弁護人「そのあとは何か仕事はしましたか?」
被告人「してないです。」
弁護人「今後の仕事はどうしていきたいと思っていますか?」
被告人「いくつか考えがあって、まずは自分が免許取って以来お世話になっているバイク屋さんで、そのバイク屋さんは個人でやっている方で、プライベートでもよくしてくださっていて、客としてもプライベートとしてもお世話になっていて、そのバイク屋さんで働かせてもらえたらと思っています。」
弁護人「そのバイク屋さんは健一さんが働きたいと言えば雇ってくれるんですか?」
被告人「はい。」
弁護もし雇ってくれなかったら、どうしようと考えていますか?」
被告人「家の近くによく通っているコンビニがあって、店長と店長の奥さんが勤務していて、一緒に働こうって以前から誘いを受けていたので。」
弁護人「健一さんが定職について、自立していくことが、お父さんの希望でもあると思うんですけど、今後、仕事を続けていくことを約束できますか?」
被告人「はい。」
弁護人「最後に大麻はもちろんとして、違法薬物等に手を出さないことを誓いますか?」
被告人「はい。誓います。」
弁護人「終わります。」
裁判官「では検察官お願いします。」
検察官「では検察官から質問しますが、少年院に3回入って、窃盗でもお父さんに示談してもらって、その度毎に、少しはあなたの心に響くんですか?お父さんのしてくれていることとかは。」
被告人「素直に接していけなかった面があったと思います。昔と比べたら少しは改善できたと思います。」
検察官「あなた自身ね、さきほどもお父さんに聞きましたけど、何でここまでボロボロというか、生活の乱れとか、悪い道に入っちゃったのかの原因というのは自分でわかっているんですか?」
被告人「こうして何回も犯罪を繰り返してきて、それを繰り返す度に家族と上手く話せなくなっていく自分がいました。」
検察官「あなた今何歳ですか?」
被告人「21歳です。」
検察官「15、16の子供じゃないんだから、夜中に悪い仲間と、どっか行って薬やって、そんなことが楽しいなんていう時代は過ぎましたよね? それ自体も問題だけれども、21にもなってそんなことしていること自体が全然かっこよくないし、恥ずかしいことしているってわかります?」
被告人「はい。」
検察官「大人になるってどういうことですか?」
被告人「周りの人に迷惑かけずに、自分で自立して生活したりしていくことです。」
検察官「督促状も来ていたってお父さんからありましたけど、公共料金の支払い、税金の支払い。保険の手続き、そういうのも自分でやらなきゃいけない。そういうところから自分で始めなきゃいけないってわかっています?」
被告人「はい。」
検察官「きちんと働いて、家に帰って、普通の暮らしを毎日繰り返すだけで、お父さん喜んでくれるわけじゃないですか? 別に何も最初からハードル上げて、お父さんの老後の資金まで貯めようなんて考えてくれなくたって、あなたが犯罪しないで、毎日普通に生活してくれるだけで、喜んでくれるわけでしょ? そんなに難しいこと?」
被告人「違います。」
検察官「以上です。」

裁判官「それでは裁判所から少し尋ねますね。これまでね、この法廷のような形ではなかったと思うんですけど、審判は受けてきましたよね? その時に今日みたいに涙流したことはありましたか?」
被告人「いえ。初めてです。」
裁判官「さっきお父さんの話しを聞いていて、私からは、あなたが見えなかったから、それがあなたにどのように響いているのか、気になっていたんですけども、あなたの泣いている反応を見て少し安心したところもあるんですね。お父さんの気持ちが全くあなたに届いていなかったら、本当にどうしようと思っていたんですけど、あなたは気づいているわけですよね? お父さんの気持ちとか。」
被告人「はい。」
裁判官「今までちゃんと、お父さんに対してね、ごめんなさいって言ったことあります?」
被告人「今回逮捕されて、父が面会に来てくれた時に、初めて自分から、ごめんなさいと言いました。」
裁判官「それが言えたのだったら、けっこう踏み出せたと思うんですよ。強がっていて話せなくなったって言ってましたけど。きっとこの先ね、お父さんの目を見て、しっかり話すことができるんじゃないかなと思うんですけど、あなた自身できそうな気がしますか?」
被告人「素直に話していきたいと思います。」
裁判官「お父さんの話しを聞いているとね、色んなことしてくれたと思うんですけども。恩着せがましく言うのではなく、たんたんと自分を責めながら、これまでのことを話してくれている、お父さんの姿を見てね、あとはあなたが勇気を持って、お父さんと向き合えば、きっとこれからのことについて、もっと前向きな話しがたくさんできると思うんですよ。まだ若いし、少年院に行っていた期間もけっこうあるから、これから知識とか経験とか学ばなきゃいけないことが、歳以上にまだまだたくさんあると思うけども、十分時間もあるから、きちんと実直に生きていく、お父さんみたいにすぐそばにいるじゃないですか。お父さんとキチンと向き合って、もうね、恥ずかしいなどという気持ちを捨てて、自分がどういうふうに生きていきたいのか、5年後10年後、15年後、年老いていくごとに、あなたがどういう状態で生きたいか、どんな自分でいたいか考えて、そうなるためには、何をしたらよいか、考えていってほしいと思います。できそうですか?」
被告人「はい。」
裁判官「薬なんてやっている場合じゃないから。若いうちは、時間はずっとあるように、ずっと続くように思いますけど、こういうことやっていると、いつ死ぬかわからないし、そういうことは本当にわからないですよね。自分の持ち時間がどれ位あるのか。そういうことを考えると、1日でも無駄にしてほしくない。あなた若いから時間はあると言ったけれども、保証はないですしね。そしたらね、より良い人生を送っていくためにすぐに始めてください。お父さん助けてくれますから。迷惑をかけちゃいけないから何とか1人でしなきゃいけないなんて思わないでください。あなたが前向きに頑張るためだったら、お父さん何でもやってくれると思いますよ。助けてくれると思いますよ。」
被告人「はい。」
裁判官「それでは被告人質問を終わりにしますので、元の席に戻ってください。」
裁判官「それでは双方からご意見をうかがいます。まず検察官から論告からお願いします。」
検察官「それでは検察官の意見を述べます。まず第1に事実関係についてですが、本件公訴事実は当公判廷で取り調べられた関係各証拠により、その証明は十分であります。続いて第2に情状関係についてです。動機に酌むべき事情はありません。被告人は結局、大麻の薬理作用に依存し、大麻を使用する為に大麻を所持しており、その安易な所持の動機に酌量の余地はありません。また再犯の恐れが大きいといえます。被告人は大麻を15歳頃から使用し始めており、犯行当時は直近3ヶ月の間に、5、6回ほど大麻を購入し、使用しており、被告人の大麻に対する依存性、親和性、常習性が顕著であり、生活の乱れも酷く、不良行為も認められますから、大麻を再び使用する危険性は高く、再犯の恐れがあります。そこで求刑ですが、以上の諸情状を考慮し、相当法条を適用のうえ、被告人を懲役6ヶ月に処し、押収してある大麻2袋、平成28年、東地検領第xxxx号、符号1を没収するのを相当と思料します。なお、仮に実刑にならない場合には、父親の監督状況、過去に3度の少年院に入所があること、次こそ必ず立ち直らなければいけないことから、保護観察をつけることを求めます。」
裁判官「では弁論をうかがいします。」
弁護人「弁護人の意見を述べます。まずは健一さんは本件犯行を争いません。そのうえで、被告人である武石健一さんにふさわしい判決は、執行猶予付き判決です。これからその理由を述べます。まず健一さんは今回の犯行を行ってしまったことを、深く反省しています。友人らと乗っていた車が呼び止められ、職務質問や所持品検査を受けた際、健一さんは素直にこれに応じています。そして大麻が発見された当初も、逮捕されてから今回の裁判が至るまで、一貫して今回の犯行を認めて争っておりません。また再尿検査にも素直に応じており、今回持っていた大麻の入手先も明らかにしております。健一さんは特に大麻を隠したり、捨てたりするなどの証拠隠滅行為等も行っておりません。後部座席にいた山木さんに大麻が入ったウエストポーチを渡していますが、これは軽自動車の助手席が狭く、ウエストポーチが邪魔だったからという単純な理由によるものです。ウエストポーチを渡したタイミングも、警察に止められる前からと考えられ、大麻を隠したものではありません。そもそも自動車の中で大麻が入ったウエストポーチを渡したところで、大麻を警察から隠すことが出来ないことは明らかです。健一さんは大麻に手を出してしまった理由について、交際相手との間の中でケンカが絶えずストレスが溜まっており、大麻でストレスを発散しようと思ったと振り返っております。そして今後大麻に手を出さないために、別のストレス発散方法を見つけること、大麻を使うような友人とは関係を絶つことなど、具体的な方法も考えています。このように健一さんが罪を認め、深く反省していることからすれば、再び犯罪が起きることは乏しいと言えます。つぎに健一さんは犯行当時20歳で、成人したばかりでした。成人したばかりという年齢であれば、まだまだ精神的に未熟な部分も多く、周りからの悪影響も多く受けてしまいます。健一さんが大麻を吸うようになったきっかけも都内のクラブに行った際に、大麻を吸っている男4人組に出会ったことでした。このように精神的にまだ未熟な部分があると考えれば、健一さんの責任非難の程度も減少させられるべきです。また健一さんが精神的に未熟なことは、これから良い方向にも悪い方向にも、成熟する余地があることを意味します。健一さんは今回の逮捕から裁判通じて、父親のありがたみを再確認し、自分の犯した罪を反省しました。今回の件を通じて健一さんは良い方向に成長しております。健一さんが再び大麻に手を出す確率は低いといえます。むしろ刑務所に入ることによって悪い影響を受けてしまう可能性も否定できません。つぎに健一さんの仕事についてです。健一さんはこれまで仕事を始めても短期間で辞めてしまうということを繰り返してきました。しかし仕事を辞めてもずっと無職でいるということはせず、新たに仕事を見つけていました。これは健一さんの働く意欲が旺盛だからです。そして健一さんは今後の仕事の予定についても、具体的な予定を述べています。健一さんは今後は定職に就いて自立していくことが見込まれ、定職に就いていれば、悪い犯罪を行う可能性が低くなります。そして父親の存在です。健一さんはこれまで、父親である護さんから様々な支援を受けてきました。健一さんは少年院に3回も入っており、護さんの苦労も相当なものでした。しかし、それでも健一さんが頼れるのは自分しかいないと、今後も変わらぬ支援を、護さんは約束してくれています。帰る場所がなかったり、生活できる場所がなかったりすると、再犯の可能性が高まってしまいますが、健一さんにはそのような事情はありません。また健一さんは、これまで支援してくれた父親のためにも、更生することを誓ってくれています。そして健一さんには前科はなく、薬物事犯に関しては前科前歴ともにありません。そうすると、健一さんの薬物に対する依存は高いとは言えず、再び大麻に手を出す可能性は低いと言えます。これまで述べてきた事情からすれば、健一さんに必要なのは刑務所に入ることではなく、きちんと仕事に就いて、父親と共に生活していく中で、生活していくことが更生していくことだといえます。つまり健一さんには執行猶予付き判決であると考えます。弁護人の意見を終わります。」

裁判官「それでは被告人は、証言台の前に立ってください。以上で審理を終えて次回あなたに対する判決の宣告としますが、最後に何か言っておきたいことはありますか?」
被告人「1日でも早く父が、安心出来るように生活を送れるような、自分になりたいです。」
裁判官「よろしいですか?それでは以上で結審いたします。」

2016年7月13日(木) 13:25 8F 812号法廷 判決

裁判官「それでは開廷いたします。被告人は証言台の前に立ってください。それではあなたに対する、大麻取締法違反被告事件についての判決を言渡します。主文、被告人を懲役6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。被告人を、その猶予の期間中、保護観察に付する。東京地方検察庁で保管中の大麻2袋、平成28年東京領第xxxx号、符号1及び2を没収する。主文は以上です。懲役6ヶ月の刑ですが、3年間の執行猶予と保護観察に付するということです。その意味については後で詳しく説明します。また持っていることの許されない大麻については全て没収するということになります。以下、理由を述べます。まず裁判所が認定した罪となるべき事実ですが、被告人はみだりに平成28年5月3日。東京都荒川区南尾久5-2-15、ローソン南尾久店の駐車場に駐車中の自動車内において大麻である乾燥植物片4.304gを所持したものである。以上の事実をこの法廷で取調べた証拠により認定し、関係する法令を適用して、主文の結論を導きました。なお弁護人の費用が生じていますが、あなたには負担させないということにしています。つぎに量刑の理由について述べます。本件は被告人による大麻所持の事案である。被告人はストレスを紛らわすために使用する中で本件犯行に至ったものであるが、そのような動機に酌むべき点は乏しい。またその供述するところによれば、15歳頃に初めて大麻に手を出し、平成28年2月頃から、本件犯行時までに、5、6回大麻を購入するなどしており、被告人の大麻に対する親和性は明らかである。また他方で被告人にあっては、事実を素直に認めたうえで、反省の言葉を述べており、その言葉に偽りはないものと認められる。また情状証人として出廷した、被告人の父親は少年時から非行を重ねてきた少年を見捨てることなく、被告人の生活面に対する支援を続けており、今後も被告人に対して踏み込んだ話しをして、助言や指導をしていくむねを法廷で述べており、その父親の心情は、被告人も理解しているものと思われる。以上述べた点を考慮すれば、本件においては被告人には主文の刑を課したうえで、執行を猶予するのが相当であるが、被告人に前科がないとはいえ、少年時から非行傾向があり、芳しくない交友関係と影響を受けやすい傾向が見受けられることや、本件犯行に至るまでの生活状況等の事情に鑑みれば、被告人の再犯を防ぎ、生活を立て直して、その更正を確かなものにするためには、父親に加え、第三者による適切な指導監督が必要と思われるので、被告人をその猶予の期間中、保護観察にすることとした。判決は以上になります。執行猶予付きの判決ですから、今すぐに刑務所に行く必要はありません。あなたが今後3年間、社会の中で罪を犯すことなく過ごすことができれば、いま言い渡した懲役刑の効力は失って、その先は刑務所に行かなくてよいということになります。」
「3年間のうちに、再び何か罪を犯し、刑を受けることがありますと、その時には執行猶予が取り消されます。その場合には、いま言い渡した6ヶ月の懲役刑と、その時に犯した罪の刑を合わせて受けることになりますから、それなりの期間、実際に刑務所に入ることとなります。またこの猶予期間の3年を過ぎた後も、何か罪を犯して裁判を受けることになりますと、その時には今回の判決の存在が考慮されます。わかりやすく言うと実刑判決を受ける確率が高いということです。ですので3年のうちは勿論ですが、3年を過ぎたあとも犯罪行為に及ぶことがないように注意してください。よろしいですか?」
被告人「はい。」
裁判官「それでは、この判決に不服がある場合は、控訴の申し立てをすることができます。その場合には明日から14日以内に東京高等裁判所宛に控訴申立書をこの裁判所に提出してください。」

※個人的感想
50分の予定の裁判が約1時間10分(70分)と、20分もオーバーしたのは、この傍聴がはじめてでした(のちにオーバーする裁判を数件見ました)。東京地裁の裁判で丸山千里、湯浅広美(お二人の公判記録は、いつかnoteでアップします)の裁判を担当した女性検事が法廷に立っていましたが、ダメッダメという言葉を使うなど、相当説教に近いような感じでしたが、どこか心がこもっていて愛のあるような説教に見えました。ただ、これは本心でアツくなって出てしまった本気の言葉なのか、それとも検察官の仕事術として感情なくマニュアルでそういうことを普通に言えるのか、一体どちらなのか個人的にとても気になりました。
今回の検察官は言葉遣いや発音も今の若者のようでしたが、きっと良心を持った検察官なのだなと感じました。また桑子裁判官が被告人質問でこんなにも長く話したのを聞いたのもはじめてでした。こんなにも心がこもったお話をする方だったのだと知ることができました。被告人の来ていたスラックスとシャツは、被告人の父親が用意したもの。被告人は保釈されていなかったので、父親が拘置所か留置場に出向いて差入れたものですが、サイズがとてもぴったり合っていました。父親の愛情というか観察力というか何というか、とにかく感動してしまいました。いい親子とは、いい子育てとは、正しい答えはないと思いますが、私も子供がいる立場としてとても考えさせられた裁判でした。

判決についての感想。
少年時の犯行は取り上げられ保護観察が付せられましたが、やはり懲役は初犯の大麻事案に多い6ヶ月でした。もし成人時に犯した窃盗事案が、父親のおかげで示談で済んでいなければ彼は執行猶予の身であったため、今回は刑務所に行くことになっていたかもしれません。

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