傍聴記録13 経験豊富さをうかがわせる弁護人の鋭い掛け合い

※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

千葉地裁
被告人氏名:川鍋久志
平成28年(わ)第xxxx号等
覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反(拘留中)
裁判官:山口直子 書記官:大岩賢介 検察官:長嶋弘美 弁護士:木下耕助

裁判官「概ね時間になっていますので、開廷をいたします。被告人は証言台の前に立ってください。川鍋さんでよろしいですね?」
被告人「はい。」
裁判官「それでは前回に引き続き裁判をおこなっていきます。9月2日付けの起訴状は検察官に読んでもらいましたけども、これに対する認否はしてもらっていませんので、検察官は念のため改めて最初から起訴状を朗読していただいてよろしいですか? もう1回同じ起訴状を朗読してもらいます。そのあと続けて2つ目の起訴状も今日は朗読をしてもらいますので、2つ目の内容をよく聞いていてください。」

被告人「わかりました。」
裁判官「はい。それではどうぞ。」

検察官「まず9月2日付について朗読いたします。公訴事実、被告人は法廷の除外事由がないのに、平成28年7月中旬ころから同月25日までの間に、東京都内、千葉県内、埼玉県内、群馬県内または、その周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンまたはその塩類若干量を、自己の身体に摂取し、もって覚せい剤を使用したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法、同法41条の3第1項1号19条。続いて9月30日付けについて朗読いたします。公訴事実、被告人はみだりに平成28年7月25日、東京都荒川区南尾久10丁目48番25号、マッソーYAGU1107号室において、大麻である乾燥植物片97.10グラムを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法、同法24条の2第1項。以上の事実につき、ご審議願います。」

裁判官「はい。それでは今日はこれらの事件を2つあわせて裁判をおこなっていきますね。」
被告人「はい。」

裁判官「あなたには黙秘権があって、言いたくないことは何も言わなくていいということ。それによって、黙秘権を使ったからといって、不利益な扱いは受けないということ、それから逆に言いたいことがある場合には、法廷内で発言をしてもらうことになりますけども、この法廷内で話したことは、あなたにとって有利にも不利にも、証拠となる可能性となることがあります。これらについては前回の時に詳しく説明したとおりです。では以上の説明を前提に、検察官が読んだ起訴状の内容について、順に聞いていきますけども、まず9月2日付けの起訴状です。あなたが平成28年9月中旬ころから同月25日までの間に、覚せい剤を使用したという内容でしたけれども、先ほど読まれた内容が間違いがないか、それか、どこか間違っているところはありますか?」

被告人「私は、覚せい剤なんか使用していません。」

裁判官「うん。わかりました。では9月2日の起訴状について、私は覚せい剤を使用していません。と書いておきますね。他に何かこの事実について何か言っておきたいことはありますか? 今の段階ではこれでよろしいですか?」

被告人「はい。」

裁判官「それでは続けて次の事実についても聞きますね。9月30日付けの起訴状です。あなたがマッソーYAGU1107号で、7月25日に大麻である乾燥植物片を所持していたという事実ですけども、これについてはどうですか?間違いないか、それかどこか違うところはありますか?」

被告人「私の物ではありません。」
裁判官「私の物ではありません。持っていたということはどうですか? 人の物でも持っているということはありま…」
被告人「持ってなかったです。」

裁判官「私は大麻を所持していませんし、私の物でもありません。というふうに聞いていいですか?」
被告人「はい。」

裁判官「1107号室の中に大麻である乾燥植物片97.10グラムがあったかどうかということについては、存在は知っていましたか?」

被告人「いえ、知りませんでした。」

裁判官「あったにはあったけど、存在はしたんですか? 7月25日の時?」
被告人「部屋にあったみたいで、」
裁判官「部屋にあったようだけれども、私はそのことを知りませんでした。ということですかね?」

被告人「刑事さんが、テーブルの下から見つけていました。」

裁判官「なるほど。私は大麻を所持したことはありませんし、私の物でもありませんと。1107号室から見つかったんですよね?」

被告人「はい。」

裁判官「1107号室から刑事さんが大麻を見つけたようですが、ってことですかね?」

被告人「はい。」

裁判官「聞かされたってことですかね。私がそこにあったことを知りませんでしたということかな?」

被告人「はい。」
裁判官「はい。以上でよろしいですか?」
被告人「はい。」

裁判官「それでは2つの起訴状について、弁護人のご意見をうかがいます。」
弁護人「被告人と同意見です。」

裁判官「そうすると9月2日付の起訴状については、使用したという行為が存在するということ自体を争われるということですかね?」

弁護人「不確知です。そういうことがあったことは、記憶にございません」
裁判官「ああっ、ですから、甲自身あの」

弁護人「記憶がないということについては、その使用の実行行為がないのか」

裁判官「ああ。」

弁護人
「でなければ、知らないうちに摂取したとか、そういうわけであって、いずれかであります。不確知です。」

裁判官「被告人自身が摂取行為があったかどうかについての認否が知りたかったんですが、そうすると摂取行為があったかもしれないし、あったとしてもそこに認識がないということですよね?」

弁護人「ないと思います。不確知ですから! 覚せい剤を摂取しているという記憶がないということは、(つまり)無い!」

裁判官「知らないうちに摂取した可能性などを示唆すれば、それは摂取行為の存在自体はあるけれども、それを知らなかったということになると思うんですけれども、弁護人としては…」

弁護人「わかりました。2種類あります。摂取行為がなかったということと、摂取行為があったとしても不確知。」

裁判官「認識していないということですね。検察官いかがなされますか?」
検察官「証拠意見いただいてから、もう1回さらに」

裁判官「そのほうがいいですかね。あと9月30日付けの争いについて、証拠意見とあわせて、詳しくお聞きしますが、被告人と同じでよろしいですかね?  7月25日の事件、大麻である乾燥植物片97.10グラムが存在した自体は争わないということでよろしいですかね?」

弁護人「はい。今のところ証拠上は争いませんが、鑑定自体争うものなんです。」

裁判官「じゃあそこは…」

弁護人「何というか大麻葉(たいまよう)のものがあったのは事実なんだけれども、大麻であったかどうかは、ちょっと。」

裁判官「ああ、そうですか。ちょっとそこは証拠等に関わるところなので、証拠意見のところで詳しくお聞きしますね。」

弁護人「そうですね。はい。」

裁判官「では被告人、これから証拠を調べる手続きをおこないます。そこの長椅子に座ってもらって、よく話を聞いていてください。では冒頭陳述をどうぞ。」

検察官「はい。検察官が立証する事実は以下のとおりです。第1、被告人の身上経歴等です。被告人は浦安市で出生し、高等学校を中退しました。婚姻歴はありません。犯行時は住居地にて暮らしていました。平成25年9月17日、東京地方裁判所、立川支部において、覚せい剤取締法違反により、懲役2年、4年間の保護観察つき執行猶予に処せられ、犯行時は保護観察中です。第2に犯行に至る経緯および犯行状況等です。まず平成28年9月2日付公訴事実についてです。犯行状況等は公訴事実に記載のとおりです。被告人は平成28年7月25日に、尿を任意提出しましたが、その尿から覚せい剤成分が検出されたため、本件犯行が発覚しました。次に平成28年9月30日付の公訴事実についてです。被告人は平成27年11月から平成28年1月頃、勾留されている友人である熊倉和幸の自宅マンションの鍵を、前記熊倉の弁護人経由で受け取りました。その後被告人は、前記熊倉のマンションを使用していました。犯行状況は公訴事実に記載のとおりです。被告人は平成28年7月25日、前記マンションについて、刑事事件で捜索を受けましたが、その際に本件大麻を発見され、大麻所持の現行犯人として逮捕されました。大麻が入っていた箱から被告人の指紋が検出されました。第3にその他情状等です。以上の事実を証明するため、証拠等関係カード記載の関係各証拠の取り調べを請求いたします。」

裁判官「はい。甲号証が、25号証まで証拠物が出ております。乙号証は11号証までです。それぞれ、ご意見はいかがでしょうか?」

弁護人「甲1号証から7号証までは、本日証拠を提出します。」
裁判官「では証拠意見書…」
弁護人「甲1号証から甲7号証まで全部不同意。」
裁判官「あっ甲1号証から甲7号証まで全部不同意。わかりました。」
弁護人「乙1号証を同意、乙3号証から乙7号証までを同意。乙2号証が留保。その他は留保。」

裁判官「甲号証、追起訴分については、全て「にんとう」されているかと思うんですが、9月30日の起訴状についての請求は」

弁護人「証拠等関係が出ていないので、請求がございません。証拠自体が開示されたわけでしょ?」

裁判官「そうですけど。」

弁護人「だけど証拠を実際に請求するかどうかはわかりません。事前にわかっておりませんから」

検察官「いや開示」
弁護人「言い訳はいいです。これはね、中身がどうかじゃなくて、」

検察官「いいですか?  弁護人。こちらとしては請求はして」

弁護人「私の発言中です!  今まで何回もありましたが、検察官の請求が実際にまあ開示された物と違っていた場合があります。それから番号が違っていた場合があります。内容が差し代わっていた場合があります。このとおり混乱しますので、私は常に証拠等関係カードをいただいてからにしています。」

裁判官「あの公判廷…」
弁護人「よろしいですか?」
裁判官「公判廷をしていない事件ですので、第1回前に、証拠請求自体することが出来ませんので、請求する…」

弁護人「いやいや事前に出すことは出来ますよ。私、事前に下さいと申し上げましたよ。裁判長!  それで、そういうふうに今までやってきてね、食い違ってることが何度もあるわけ!  この前裁判員裁判で大変だったんだから。」

裁判官「裁判員裁判は公判前…ですので、当然第1回前に請求することができますが、第1回前にこの事件では請求することが…」

弁護人「裁判員裁判でなくても同じです。同じことが起こっている。あのね…」
検察官「刑訴法を理解されていない意見だと思いますので(笑)」

裁判官「公判前出ている事件、出ていない事件、証拠請求ができる段階が全く違いますので、本日請求されるのは最もなことだと思います。」

弁護人「もっともでございますが、私、弁護人の立場としてはできません。」
裁判官「うーん。」

弁護人「すでに、狂っていた場合があるんです。」
裁判官「狂っているかどうか今確認していただいて」
弁護人「出来ません。」
裁判官「狂ってなければ…」
弁護人「この次です!  出来ません。」

裁判官「被告人の身柄が…」

弁護人「できませんので! もうそれ以上やめていただけますか?」

裁判官「では、いつしていただけますか? いつまでにしていただけるか、お答えください。」

弁護人「月曜日まで。」

裁判官「わかりました。では検察庁に月曜日までに証拠意見を送ってください。」
検察官「月曜日っていうのは来週の月曜日ですよね?」
裁判官「そうと聞きましたけども。」
検察官「12月26日までっていうこと」
弁護人「あの検察官、皮肉は言わないように。」

裁判官「検察庁に証拠意見の見込みを、お送りください。証拠を採用したほうがよろしいですかね?  今あの人定関係だけ取らせていただきますが、」

弁護人「裁判長!  私は事前に検察官に、前回も証拠等関係カード、今回請求するための証拠等関係カード、送ってきたのは前回の1号証から8号証までだけなんです。」
裁判官「ああ…」
弁護人「弁護士をそういうふうに非難するのをやめてもらえませんか? 私は事前に送ってくれと言ったんですよ!」

裁判官「でも私裁判所が申し上げているのは、証拠請求自体は本日しかできませんということだけを申し上げているんですが…」

弁護士「ですから事前にって言ってるじゃないですか? 当事者間で。いいですか? 誠意がないのは検察官のほうですよ!」

裁判官「検察官は追起訴分は送らなかったんですか?」

検察官「カード自体は、通常弁護人に仮送付もしておりませんので、出来た段階で、あの、裁判起訴分については、前回の公判の前には出来ていたので、それで、お送りしたかぎりです。」

弁護人「ですからね、法律家として、私は誠意を尽くしてくださいと言っているのに! 送らなかったのは検察官のほうでしょ? それで、先ほど延々と私を責めましたよ。裁判長!」


裁判官「請求は出来ませんと申し上げたまでですので、法律上、本日しか請求が出来ませんので…」
弁護人「弁護人側の誠意は認めていただけるんですか? 慈善事業のために私やりましたよ。」

裁判官「ですから検察官、それぞれ弁護人の立場があるかと思いますので」
弁護人「検察官の言うことだけ聞くのはやめてください。」

裁判官「聞いているわけではありませんけれども。あの証拠等関係カードについて、事前に開示が出来るようであれば、あわせて、証拠と一緒に、この事件については開示してください。ちょっと速やかに証拠意見をいただきたいと思いますので。で、乙号証ですけど、乙1号証、それから乙3号証、これについては完全に人定に関することなので採用いたします。事実を争うことがありますので、前科関係については採用を留保します。乙1号証、乙3号証のみ採用いたしますので、この段階で内容をご説明ください。」

検察官「乙1号証は被告人の身上調書です。被告人の身上関係が書かれたものです。乙3号証は、被告人の戸籍謄本です。被告人の身上などが書かれたものになります。以上です。」

裁判官「それでは提出してください。それでは26日の月曜日までに、証拠意見の意見をおっしゃっていただいて、検察官のほうで、そこから場合によっては抄本等を準備していただいて…」

検察官「はい。」

裁判官「ですけれども、翌週くらいで可能ですかね?」
検察官「証拠意見が必ず26日に来れば。大丈夫だと思います。」
裁判官「1月11日(水)13:30あたりは、いかがでしょうか?」
弁護人「お受けできます。」

裁判官「では13:30から。追起訴分については意見留保となっている部分のご意見、同意があったものについて採用し、今後の進行についてお話をさせていただきたいと思います。あとで正式指定いたしますけども、本起訴分については証拠意見をいただいていますので、今後の進行に確認できたらと思うんですが、いま鑑定嘱託書、鑑定書も不同意となっています。これはどういう主旨になりますかね? 例えば違法収集証拠とか、そういったこと。もしくは鑑定の正確性、そういったものを争われる、まあ何を争われる主旨かを、今後の検察官立証…」

弁護人「鑑定にphが付いていません。」
裁判官「鑑定書…」
弁護人「尿のphがついていません。」
裁判官「尿のph。」

弁護人「だから人間の尿か確認ができません。人間の尿のphは約6.5から7。弱酸性でございますので。過去の例ではph8という例がありまして、水道水であった例が確認されています。最近のASKAの例もそうです。」

裁判官「弁護人の主張は、となると…」

弁護人「phがないからです。人間の尿か確認できません。」

裁判官「被告人の尿が鑑定されたかもわからないということですか?」

弁護人「そうです。水道水はph8程度です。そして古い尿はphが上がっていきます。したがって他人の尿を使った場合もわかります。」

裁判官「弁護人のほうの疑問を解消して、特に証拠調べがいらないで、同意いただけることならば。それか最初から存在しないものならば、鑑定人を呼んで、もしくは警察官、人体領置の警察官から、鑑定人まで呼んで、全部証人として…」

弁護人「基礎知識として裁判長。科捜研これは千葉県の科捜研ですから何ともわかりませんけども、東京のほうの科捜研はphは書くことになっています。」

弁護人「それはもちろん尿であるという証拠ですから。」
裁判官「そういう証拠を開示できますかね?」
検察官「ちょっと今お答えすることはできないです。」

裁判官「ちょっと調べてください。無駄な検証を調べても時間がかかるだけですので、いま弁護人の疑問点として、尿のphがついていないのが問題であるとの指摘がありましたので、場合によって新たな証拠として作成されるのか、それとも今の証拠で請求されるのか、まあ疑問がある場合は請求されたほうがよいかもしれませんね。ちょっとご検討ください。で、あわせて弁護人に、は証拠が出来次第、ご開示するということでよろしいですかね?」

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