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【図解で分析】リージョの誤算とゴールキックから崩れ落ちた神戸 川崎フロンターレvsヴィッセル神戸(2/2)

川崎vs神戸のマッチレポ後編です。前編から読みたい方は下記リンクから。
【図解で分析】王者川崎に挑むリージョの旅。SBの質と家長の躍動 川崎フロンターレvsヴィッセル神戸(1/2)
後編の目次
5.リージョが4-4-2に変えた理由。エウソン対策だけじゃない
6.齋藤学のゴールはただの質的優位ではない
7.大島のゴールを生んだエウソンと家長の判断力
8.まとめ

5.リージョが4-4-2に変えた理由。エウソン対策だけじゃない

さて1-3となってしまったフロンターレ。
とはいえ、神戸のバイタルエリアをつくことができていたのもまた事実だ。

そして偶然なのか指示なのかわからないが、高い位置を取るエウソンに、ウェリントンやポドルスキがマークについた際、5バック現象が起きていた。
つまりハリルジャパンでの原口ロールだ。
高い位置のエウソンにどこまでもついていくぜ!を敢行したポドルスキ。
しかしタッチライン際のエウソンは、またもやポドルスキの背後視野外から、ダイアゴナルに中央に侵入し、決定機のシュートを放つ。

これを見てやっぱりまずい!4-4-2に変更だ!

というわけで、37:40に大きな声で指示を飛ばしているリージョが画面に映しだされる。
家長がトップ下近辺でうろうろし始めるようになってから、約15分後の出来事であった。これを早いととるか遅いととるか。

ちなみに余談だが、ピッチ内にはこの指示がすぐには伝わらず、4-4-2に変わらない。38:25にも、たぶんテクニカルエリアを飛び出して、大声で指示し続けるリージョが画面に映し出される。

それでもまだ伝わりきらない。最終的に39:12にポドルスキが古橋に説明している様子が画面に映っており、ようやく4-4-2へ移行完了。
指示を飛ばしてから1分半近くかかっていた。

さて話は戻り。リージョのシステム変更の意図は2つだろう。

1つ目。エウソンのチャンスメイクと果敢な飛び出しは非常に脅威だ。
4-3-1-2で守ると構造上、前述した通り川崎のSBが時間とスペースを得るが、エウソンはもちろん登里の質も高く、チャンスメイクされていたので、あいつらに自由与えちゃダメじゃねえか、と。なので距離の遠いIHやSBではなくすぐにアプローチできるSHを配置し、川崎SBへのプレッシング強度を高め、自由を削ること。

2つ目。これまでの説明の通り、中央から藤田がいなくなった時に、バイタルがら空きじゃねえか問題を少しでもマシにするため、イニエスタと藤田の2ボランチを配置する。三田がスライドする必要性を減らす、という意味もあるだろう。

つまりピンチを招いていた2つの要因について一気に解決を狙った格好だ。

ただし、リージョ本人に聞かないとわからないのだが、ここで誤算があったのではないかと思っている。(記者会見に乗り込んで聞いてみたかった)

その誤算とは何か。

古橋くんがエウソンについていきすぎてしまい、5バック化現象が起きたことだ。

確かに5バック化すれば、
1.エウソン(や登里)は高い位置でも窮屈になる。
2.サイドチェンジに対してDFラインのスライドの迅速さは不要に。
3.川崎の前線が降りる動きに対して、DFラインに5人いるので、1人くらいは躊躇なく前に飛び出して迎撃できる。

などのメリットがあるだろう。
でもこの2と3ってこの試合、このメンバーでそこまで効果的なのかどうか。

で、代わりにデメリットとして、

4.結局中盤は3枚になるし、SHになった三田はよりスライドの意識が薄くなってしまい、やっぱり中盤スカスカになるかも
5.快速カウンターで力を発揮できる古橋くんを、高い位置にいるエウソンまでついて行かせてしまったら、カウンターに遅れちゃうor間に合わない
6.エウソンの裏にスペースができるんだから尚更1列前に古橋くん残しておいた方がいいよね

などだ。5と6については、忘れてはならない「攻撃と守備は一体だ!」という言葉を思い出そう。

と、ぐだぐだと書いたが、それとは関係なく、スローインによる一瞬の油断を突いた大島が駆け上がり、家長のゴールで、前半終了となる切ないリージョ。

6.齋藤学のゴールはただの質的優位ではない

さて後半開始。2-3となり、リージョはどうしてくるかと思いきや、神戸はそのまま4-4-2で守る格好だ。そしてエウソンとデートする古橋くんという構図も変わらない。

何故なのか。古橋くんに1列前に出たままの頭脳的な守備はまだ難しいと判断したのかな、と推測している。(ただし古橋くんのプレーを見たのは初めてなので、詳しい人がいらっしゃれば教えてください)

この推測にも理由があって。1-3なら意図的に古橋くんを下げるのはまだなんとかわかる。しかしまだ残り45分もあり、2-3と1点差にされてしまっている。古橋くんのカウンターでの脅威はまだ残しておく、と判断しそうなものだからだ。

さてさて。とはいえエウソンが窮屈であることは事実。
ってなわけで、俺がやるしかないっしょ!と躍動するのは左SBの登里だ。

狙いは4-4-2のSHとボランチ間に斜めのパスを差し込むことだ。
ちなみにここでも家長が暗躍しているところが嫌らしさ満点。

みたいに、家長が左ハーフスペースに降りてボランチを引きつけ、神戸の右SHと右ボランチに差し込めるようにしたり、

みたいに、同じような形かつ、イニエスタのところに大島と憲剛を配置して、どっちにいけばいいのかという2択を迫ったり。

こうして登里のパスがズバズバ入り、押し込んでいく川崎フロンターレ。
その形の流れから実際、齋藤学のクロスで小林悠が決定機。さらにこぼれたボールを川崎が拾い、その流れのままクロスに憲剛の決定機が生まれる。

シュートを外して悔しがる憲剛。
しかしすぐに気を取り直してサポーターを煽る。

また見たいだろ!大逆転を等々力劇場を!
お前らがその雰囲気を作ってくれよ!

と言わんばかりに。

っで、このままじゃ振り回され続けるじゃねえか!と思ったのかどうかは定かではないが、イニエスタが前からボールを奪うべくなのか、コースを限定すべくなのか、1列前に押し上げる形が増え始める。
ただし古橋くんはエウソンとデートして5バック化現象は継続している。
つまり5-2-3のような形に。

しかもこの試合スライド意識が薄い三田を中盤の2に入れての、2だ。

そんなわけで、止める、蹴る、外すを風間さんに鍛えられたフロンターレは、前に来るイニエスタを難なく掻い潜る。
そして前半同様、家長が藤田を引きつければ、やっぱりがら空きのバイタルに侵入する憲剛という流れでエウソンの決定機が生まれる、藤田が食いつきすぎなければそのまま家長が藤田の脇のスペースで前を向くなどして押し込んでいくフロンターレ。

従ってシュートが多発。当然多くなる神戸のゴールキック。

そんな中、神戸GKスンギュがゴールキック、そのターゲットはウェリントンだが、競り勝つ奈良。その流れそのままにカウンターを発動し、スピードで苦しめられた藤谷をものともせずゴールを決めた齋藤学。歓喜のスタジアム。

齋藤学のゴールは本当に素晴らしい。
しかしここで僕が気になった点は、スンギュのゴールキックだ。

どういうことか。

この試合の初めから、スンギュのゴールキックを振り返ってみよう。

まず初めの方のゴールキック。
フィジカルの弱い憲剛のところに、ターゲットのウェリントンをぶつける形だ。さらに周囲にポドルスキとイニエスタを配置し、セカンドボールを拾う狙いを感じさせた。(偶然川崎がボールを拾うが)

しかし再度ウェリントンをターゲットにゴールキックした時、憲剛は競り合わなかった。奈良が飛び出して、ウェリントンに競り勝つ。そのカバーリングを大島と憲剛が行う格好だ。

っで、他のシーンも含め、「あっ今日のウェリントンは奈良に勝てない」と踏んだのか。ターゲットを変えるスンギュ。これは好判断だろう。

っで、今度は右サイド寄りにいた三田をターゲットにゴールキック。
しかし齋藤学の戻りプレスで川崎ボールに。そんな三田は
「俺じゃ無理だよ!右SBを狙ってくれ、セカンドボールを俺が拾うから!」
と読み取れそうなジェスチャーをスンギュに遠くから送る。

その数分後に、バックパスを受けたスンギュは右SBの藤谷をターゲットにフィードする。競り合う相手は上背のない齋藤学か登里なのだから勝率もある程度見込めるだろう。
実際そのこぼれ球を狙い通り三田が拾い、ハーフスペースを駆け上がり、チャンスを演出していく。

っで、今度は左SBの橋本をターゲットに変更する。しかし相手はエウソン。橋本は競り負ける。セカンドボールは拾ったものの、勝率を考えると続けるのは望ましくないだろう。

そして神戸のフォーメーションが4-4-2に変化してからはどうか。

この変化によりエウソンが古橋くんをマークする必要がある。
そのため、左SBの橋本をターゲットにすれば、4-2-3-1の右SH小林悠が左CBの大崎を見ていた位置から下がって対応せざるを得ず遅れる。
スンギュのキックが大きくなり、タッチラインを割ってしまうが、意図は十分に理解できた。

ただし後半になると、作戦変更したのかウェリントンをターゲットに戻す。とはいえ競り合う場所を変え、奈良ではなく谷口と競り合わせる。
これが上手くいった。ウェリントンの勝率が高く、マイボールの回数を増やしていくヴィッセル神戸。

さてさて。

ゴールキックの狙いは基本的に試合前の段階でターゲットの選手を含めて決めておくもの。
ただしその日の調子次第、勝率次第では変えていくのは非常に良いことだ。
しかし、スンギュの方針がイマイチ明確でなかった。
上手くいかない時に変えるだけでなく、上手くいってるのにそれも頻繁に変えてしまう。

で、実は。齋藤学のゴール数分前から、奈良と競り合わせる形でのウェリントンをターゲットにしたゴールキックに戻し始めるスンギュ。そしてやっぱり競り負けるウェリントン。

思わずなんでやねん!!と画面を見ながら1人で突っ込みを入れたくなる展開だ。
そして繰り返し奈良に競り負けるゴールキックを起点に、齋藤学のゴールが生まれるのだから、切ないことこの上なかった。

ゴールキック、大事。

7.大島のゴールを生んだエウソンと家長の判断力

そんなこんなで、神戸は厳しい展開を強いられた。
1-3から同点に追いつかれたのだからメンタルもかなり難しい状況だろう。

そしてビューティフルな大島のゴールが生まれる。

前半から繰り返し行われるエウソンの縦パス、マーカーの体の向きを左回りに操作、自分はその背後視野外からハーフスペース侵入のパターン。

と思いきや、相手がしっかり付いてきた。それを見た瞬間、エウソンは判断を変えてストップし、相手から離れて、フリーで受けることに成功する。
その光景を認知した家長は、すかさずバイタルにスルスルっとポジショニングし、エウソンからの斜めパスを家長が受ける。
同じビジョンを事前に思い描き、藤田の脇へ侵入していた大島にヒールパスを届け、大島のゴール。

卓越した認知・判断力に加えて巧みなパスワークとスペーシングが連動したゴール。等々力劇場えげつない。

っで、余談だが三田が交代した後にイエローをもらう。
実は、大島にゴールを決められる前に、審判にボールが当たって失った時に、審判にブチ切れていた。
そのちょっと後に逆転を許し、さらに交代まで命じられたという展開。
我慢ができずにボトルを蹴ってしまったのだろう。

そして最後は大逆転で辛いメンタルの神戸を地獄に送り込むかのように、エウソンがウイングのごとき動きでゴール。

そのまま5-3で、殴り合いの試合は終了した。

8.まとめ

川崎フロンターレはやはり強かった。状況を認知し、即座に的確な判断のできる選手が多くいる、非常に嫌らしいチームだ。何度も言うけど、このチームはレベルたけーよ(笑)
長年の夢だった優勝だけでなく、2連覇に向けて突き進む。
そして個人的には長谷川竜也の移籍動向はウォッチしたいところだ。

一方のヴィッセル神戸。
まだこれからなのかなっていうのと、これからも選手補強しそうだなって。
昔イニエスタとシャビの脳に迫る!みたいな番組があって。そこで、脳の使い方からして、イニエスタは組み立てよりライン間や前線で躍動する方が向いてるんだな、と知った記憶がある。
なので、シャビや、アンカーにバルサのブスケッツかマンチェスターシティのフェルナンジーニョあたりを補強し、イニエスタを前に送り込みたいところだ(暴論)

※写真はヴィッセル神戸様公式HPより。

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