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【図解で分析】王者川崎に挑むリージョの旅。SBの質と家長の躍動 川崎フロンターレvsヴィッセル神戸(1/2)

目次
1.プロローグ:王者川崎とリージョが進む道
2.川崎対策4-3-1-2の泣き所とエウソンの質
3.早くも動き出したイニエスタとポドルスキ
4.鬼木監督が4-2-3-1に変えた理由。家長の躍動
5.リージョが4-4-2に変えた理由。エウソン対策だけじゃない
6.齋藤学のゴールはただの質的優位ではない
7.大島のゴールを生んだエウソンと家長の判断力
8.まとめ

1.プロローグ:王者川崎とリージョが進む道

川崎フロンターレのスタメンは、チョンソンリョン、登里享平、奈良竜樹、谷口彰悟、エウシーニョ(エウソン)、大島僚太、中村憲剛、齋藤学、家長昭博、小林悠、知念慶。
今シーズン長い間広島を追いかける展開だったが、ついにシーズン終盤に単独首位へ浮上。広島がお昼の試合で負けたことを知った状態で臨む。絶対に勝って突き放したい試合だ。そしてイニエスタとの初バトルだ。

ヴィッセル神戸のスタメンは、キムスンギュ、那須大亮、橋本和、大崎玲央、藤谷壮、三田啓貴、イニエスタ、藤田直之、ポドルスキ、古橋亨梧、ウェリントン。
ついにリージョまで呼んでみせた三木谷さん。しかしなかなか結果が出ていない。気長に頑張れ三木谷さん。
何気に興国高校出身の快速古橋君があっさりスタメンを勝ち取っている。

2.川崎対策4-3-1-2の泣き所とエウソンの質

開始から川崎がボールを保持した展開となる。川崎のビルドアップ時に神戸は4-3-1-2でプレッシングをかけていく。
ポドルスキは大島か憲剛のどちらかアンカーポジションの選手につくことが多かった。これにより大島か憲剛のどちらかがCBと同じラインに降りた3バック化を行っても、3枚プレスに行くことができる。

相手が2トップなら3バック化で簡単に剥がせるが、今日はそうはいかない。よって無理して中央から行かない川崎は、SBにボールを渡してビルドアップを行っていく。

ここでポイントはパスを受ける川崎のSBへのアプローチだ。神戸は4-3-1-2だが、2トップはCBを担当する。つまり川崎のSBにアプローチをかけるとすると、同サイドのインサイドハーフ(以下IH)かSBということになる。

IHなら中央からアプローチ、SBなら低い位置からのアプローチ、と距離があり時間がかかるため、エウソンや登里はパスを受けた直後に時間とスペースを得られる。

つまり彼らがその少しの余裕を使って何ができるか、が大きな違いを生み出すのだ。

ちなみに神戸の方針としては、川崎のSBに対して基本的にIHがアプローチ、サイドチェンジされてIHが間に合わない時は神戸のSBが代わりにアプローチすることが多かった。例えば登里に、三田ではなく藤谷が飛び出していく形だ。

そこでまず違いを見せつけたのはエウソン。ビルドアップでパスを受けると前を向き、同サイドのSH家長に縦パス。すると、アプローチに来ていたイニエスタは左回りに体の向きを変える。エウソンはすかさず、体の向きを変えたイニエスタの背後視野外へパス&ムーブし、リターンパスを受けてハーフスペースへ侵入。

すると藤田がすかさずスライドしてくる。しかし右IHの三田はあまり中央にスライドしない。従って、バイタルエリアがら空き現象が頻繁に見られた。

そんなバイタルエリアのスペースをあの男が逃すはずはない。中村憲剛はこれを予知するかのように事前にバイタルへの侵入を開始。
試合開始早々に繰り返し侵入し、エウソンから受けたり、小林悠を経由して受けたりして攻め込む。

先制点もその形から。
逆サイドに展開、深く侵入しマイナスクロスでPK獲得。小林悠が決めた。

ちなみに少し変則パターンとして、憲剛がサイドに流れてエウソンのような役目、つまりパス&ムーブでイニエスタの背後視野外に侵入し、リターンパスを受けてチャンスを生み出す場面も見られた。それだけ狙いを持っていたということだろう。

3.早くも動き出したイニエスタとポドルスキ

一方の神戸のビルドアップに対して、川崎は4-4-2で守る。
まず2トップで神戸のCBと藤田をケアする格好だ。
例えば大崎に小林悠がアプローチすれば、知念は藤田へのパスコースをケアしつつ、那須へ展開された時のプレッシング準備。
CB間のパスが出たら小林悠と知念が役割を入れ替える、といった感じだ。

対する神戸はGKを含めてCBと藤田でひし形を形成し、プレスを回避。藤田がフリーでGKからパスを受けてそのままビルドアップの出口に、とはあまりならなかった。藤田が組み立てを得意としていないこともあるのだろう。

というわけで神戸のビルドアップのパターンは主に2つだった。

1つは、藤田に憲剛か大島が出てきた時に、CBからSBかIHへの2択のパスを川崎のSHに迫る、というパターンだ。

これはいかん!と三田に大島がついていき、今度は空いたスペースのポドルスキを使われることもあった。

そしてもう1つ。藤田へのコースをうまく2トップにケアされた場合には、大崎が持ち運び、前線に左FW(ウェリントンか古橋)に直接届けよう、という形が多く見られた。

ちなみにウェリントンよりも古橋くんのボールの受け方が巧みで、ビルドアップの出口として役目を果たしていた。
ただし小林悠が持ち運ぶ大崎にプレスを強めにかけていくので、正直きつそうな印象もあった。

そんな中、神戸はオウンゴールで同点に追いつく。川崎が跳ね返して、大島や憲剛も一気にラインを押し上げる一方で、スルスルっと上がっていくポドルスキと、その動きを見逃さなかったイニエスタのプレーが生んだオウンゴールだったと言えるだろう。

とはいえこのままでいいの?
ボール保持でしっかり組み立てるバルサメソッドを目指してるんだぜ?

ということで、早速イニエスタとポドルスキが動き始める。
ビルドアップに物足りなさを感じた彼らは2トップ脇などに位置し始める。これにより、2トップだけじゃ彼らをケアしきれないぜ、という状態に。

そしてポドルスキが受けると、大島がアプローチに出てくることもあるが、一気に低く早い弾道のサイドチェンジを橋本に届ける。これにより川崎がスライドに間に合わず、橋本は落ち着いてボールを受けられていた。

そしてボールを保持しサイドを変えることを繰り返しながら川崎のブロックを押し下げた後に、2トップ脇のポドルスキが、中央のイニエスタへパス。

さらにイニエスタが巧みなテクニックでマークを気にせず、オーバーラップする橋本に届ける。そうして押し込むことに成功していた。

ちなみに快速の古橋くんが裏抜けを逐一狙うことで、川崎のDFラインを押し下げる貢献をしていたことも忘れてはならない。

そんなこんなで、2点目の古橋くんによるファインゴールが生まれる。
左SBの手前に流れたポドルスキ。
高い位置の橋本に、「もうちょい前行って小林悠を引きつけろ」と指示。
ポドルスキ自身は家長を引きつける。
そしてハーフスペースのイニエスタに戻すと、大島が食いつく。
ポドルスキとイニエスタが家長と大島2人を引きつけて空いたスペースに、家長の背後視野外から侵入するポドルスキが受けて、ダイレクトでえぐいライン間横パス。古橋くんのファインゴール。

最初の段階で、ポドルスキが小林悠からアプローチを受けていたら、フリーの橋本を使えばいいよね、というビジョンも持っていた凄腕ポドルスキを垣間見た瞬間だった。

4.鬼木監督が4-2-3-1に変えた理由。家長の躍動

そんなこんなで逆転されてしまった鬼木監督は陣形を変化させる。
知念CF、家長トップ下、小林悠が右SHの4-2-3-1に。

理由は2つだろう。1つは守備。1つは攻撃だ。
まず守備について。どうせ神戸CBと藤田からビルドアップするんじゃなくて降りるイニエスタとポドルスキからのビルドアップなんでしょ?
じゃあその3人は知念が1人でケアして、三田、ポドルスキ、イニエスタを見れる人を配置しようぜ、という采配だ。

もちろん場合によっては、家長が前に出て2トップ気味にプレスをかけることもある。

次に攻撃面での理由だ。藤田を動かせば、バイタルが空くんでしょ。じゃあ空くところにあらかじめ家長置いておけばポジションバランス崩れないじゃん?もし藤田が家長に食いつくなら、家長が動けば空くじゃん?という状態に持っていく。

まず前者のパターンだ。エウソンと小林悠のワンツーでイニエスタをかわし、藤田がくるが知念へ出し、空いたバイタルのトップ下家長に落とす。憲剛がリスクを犯して前に出る必要がない。

次に後者のパターンだ。エウソンがサイドでボールを持った時に、トップ下にいた家長に気を取られる藤田。小林悠が中央にいたので橋本の裏に侵入。藤田もついていく。

よって神戸のバイタルエリアがら空き現象。家長が動き出すとほぼ同時に侵入を始める憲剛は「ここだ!」と完全に狙いを持っていた。

しかし現実は厳しい。そうすると後ろの人数は足りなくなるよね、ということでこの後者の形からカウンターの逆襲をくらい、三田のファインゴールが決まって1-3になるのだから少しやるせない川崎フロンターレだった。

でもでも攻撃面で悪いわけじゃない、チャンスを演出できている川崎フロンターレ。

5.リージョが4-4-2に変えた理由。エウソン対策だけじゃない
6.齋藤学のゴールはただの質的優位ではない
7.大島のゴールを生んだエウソンと家長の判断力
8.まとめ

後編は下記からどうぞ。

【図解で分析】リージョの誤算とゴールキックから崩れ落ち神戸 川崎フロンターレvsヴィッセル神戸(2/2)

※写真は川崎フロンターレ様公式HPより。

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