紆余曲折の果て、たどり着いたプランA。ゲームモデルを用いてその全貌を明らかにする。

 春の3連戦を終了間際被弾での逆転負けで終えたモンテディオ山形との試合後、イングランド人指揮官はかつてないほどの逆境に立たされた。8試合を終えてわずか2勝。直近の3戦では、合わせてやっとシュート数が二桁に到達するほどの低調な内容。今季こそ、昨シーズン掴みかけたJ1昇格という悲願達成が至上命題とされるチーム目標とは程遠く、多くのサポーターが新監督の手腕に疑問を呈した。筆者もその一人であったことはレビューを見ていただければ分かるはずだ。

 そんな危機的状況で迎えた第9節FC琉球戦、GAFFAは大胆な采配を見せる。システムを4-1-4-1に変更し、アンカーに井上潮音を据えた攻撃的布陣を採用。それまでの試合ではどこか噛み合わなかったぎこちなさがすっかりなくなり、選手達は水を得た魚のように動き回り、卓越したテクニックを駆使したコンビネーションで前半は相手を圧倒した。結果として、林のPK失敗が響き、AT被弾で勝利することはできなかったが、今後のチームに活路を見出したターニングポイントであったことは確かであった。以降、この試合を含め6戦無敗、目下元号が令和になってからは3戦全勝である事実がチームの好調ぶりを示している。

・キーワードは“原点回帰”

 開幕戦の町田スペシャルや柏対策のサッカーなど時折相手との力関係を考え、リアクションサッカーを選択することもあるが、基本はボールポゼッションをベースにした攻撃サッカーを信条としている。この点は、昨シーズンと大きく変わったわけではない。では、何が大きく変わったのか。

 それは、この自由度である。

 前任者のロティーナは豊富な経験の中で育まれた自らの確固たるゲームモデルを基に、選択肢を予め与えておくことで判断スピードを高め、結果としてプレースピードを高めようとした。しかし、ポジショニングと距離感をベースにした厳格な指導は自由な南米サッカーを原点とするヴェルディにとって、革新的であったが、ヴェルディ“らしさ”を感じさせるプレーは明らかに減少していた。

 一方、ホワイトは前任者と比べ、指導経験は浅い。恐らく、彼自身もゲームモデルを持っているのだろうが、選手の要望も聞き入れゲームモデルを変更する柔軟性を持ち合わせているのだ。ヴェルディ“らしさ”を尊重し、今いる選手の強みである技術の高さをふんだんに活かすことができるゲームモデルを彼自身も日々の練習や公式戦を通じて追及していたのだろう。結果として、ヴェルディは“らしさ”に現代サッカーのエッセンスを加えたモダーンな攻撃サッカーへと変貌を遂げることに成功した。

・クラシック×モダーンサッカーの正体

 攻撃における主原則は「局地的に数的優位を作り出し、ボールの前進を試みる」となるだろう。つまり、同サイドに人数をかけサイドの狭いスペースで数的優位を作り出し、その中でテンポよくボールを動かすことでコンビネーションを駆使してゴールへ向かうと言い換えられるだろう。

 狭いスペースでボールを回すのは難しいのでは?と考える人もいるだろう。だが、ヴェルディは違う。狭い局面において数的優位である状況はフリーの選手は必ずどこかにいるということだ。故に、トラップの置き所や立ち位置、パスの強弱や角度で相手を「外す」ことができる「技術」があれば、必ずパスコースを作り出すことができる。余談にはなるが、こうした「止める」・「蹴る」を徹底的に突き詰めることが「和式」サッカーの究極形だと筆者は考える。

準原則は以下の4つになるのではと推測した。

① ボールホルダーに近い位置でサポート
② コンビネーションを駆使して前進
③ 中盤の選手の自由なポジショニング
④ ポケット(ペナ角)を取りに行く

 準原則①、②の導入で局面における数的優位を作り出し、近い距離でのコンビネーションを作り出しやすい環境を作り出している。そこからは、選手の自由なアイデアや判断に委ねられており、ユース出身者を中心に独特のリズムでのボール回しが見る者を魅了している。

 しかし、全員に自由なポジショニングが与えられているわけではない。準原則③にあるようにあくまで自由が与えられているのは中盤の選手。特にIHには相当な自由が与えられており、佐藤優平は縦横無尽に動き回る。また、中盤も縦関係でポジションチェンジをする傾向も強く、井上潮音と佐藤優平は頻繁にポジションを入れ替える。

 ウイングの選手のポジショニングには多少の縛りがある。ウイングは外に張ることを基本としながら状況に応じてハーフスペースに入ることが求められている。右ウイング(藤本寛也、河野広貴)は渡辺皓太の背後へのランニング(後述)を活かすべく比較的タッチライン際まで張り出す回数が多い。一方、左ウイングに入る小池ももちろん武器である突破力を活かした大外からのドリブル突破も試みるが、佐藤優平が組み立てで低い位置を取った際はハーフスペースで起点を作ったり、大外レーンで奈良輪がボールを持った際にはハーフスペースからサイドに抜け出す動き(パラレラ)でDFを外に釣りしたりするなど多岐に渡る役割を担っている。そのうえ、FW(端戸、コイッチ)がサイドに流れた際には自らがゴール前に入り、フィニッシャーの役割も担うのだ。これだけ多くのタスクを同時にこなすことができる小池の存在は今のチームにとって不可欠である。

 準原則①.②、③により、サイドに人数をかけた狭い距離のコンビネーションでボールを前進させることについて述べてきた。それでは、どこにボールを運ぶことが目的なのか。まさに、この内容が準原則④である。

 同サイドにおけるオーバーロード(密集)と逆サイドでのアイソレーション(孤立)を作り出し、目指すはポケット(ペナ角)である。ポケットへの侵入は何を意味するのか。

 ポケット侵入後のプレーの選択肢は3つである。

① DFラインとGKの間へのクロス
② マイナスの折り返し
③ シュート

 この3つだけである。つまり、ポケット侵入のメリットは状況に応じて選ぶプレーの選択肢が簡単かつゴールにつながりやすいことである。さらに、中央エリアの侵入に比べ、ポケット攻略は比較的容易である。

 現時点では右のポケット攻略を渡辺が、左の攻略を小池の質的優位、あるいは奈良輪、佐藤(・端戸)のコンビネーションでの攻略がメインとなっている。福岡戦、山口戦のコイッチのゴールはまさにその形から生まれたものである。

ボールを奪われると「即時奪回を試みる」ようになったのは昨年との大きな違いである。

準原則を推測すると以下のようになる。

① 狭いスペースから相手を逃さない
② 奪いに行く動きに連動する

 攻撃において、サイドの局面で数的優位になっている状況を作っているので、ボールを失った際の切り替えは重要である。それはつまり、逆サイドには広大なスペースが広がっていることを意味するからである。だからこそ、相手を局面から逃がさず、少しでも味方の帰陣の時間を作ることが大切である(準原則①)。ボールを奪いに行くには、相手から時間をとりあげるか、スペースを取り上げるかの2択だが、ボールを失った瞬間のヴェルディは人を捕まえることで敵から時間をとりあげることを目的とする。そして、アンカーに入る井上が絶妙なバランス感覚で敵の攻略したいスペースを埋めることで、局面でボールを奪いきり、マイボールにする工夫がされている。井上のバランス感覚のおかげで中盤より前が自信を持って素早い切り替えでボールを奪いに行くことができるといっても過言ではない。

 万が一、ボールを蹴らせてしまった場合は、苦し紛れのボールに対して、センターバックが連動して奪いに行くことでボールの回収を試みる(準原則②)。

 守備の原則は「陣形を整えてから奪いに行く」と定義した。

 準原則は以下の通りである

① 4-1-4-1のブロックをミドルゾーンまで撤退してセットする
② IHのプレスをスイッチに連動して奪いに行く

 トランジションの局面でボールを取り切ることができず、相手がポゼッションに移行した際、まずはミドルゾーンまで撤退して守備組織を整えることに注力する(準原則①)。

 その後、IH、特に佐藤のプレスをスイッチに全体が連動してボールにアタックし、奪いに行く(準原則②)。

 しかし、現時点での守備方法はIHの裏を使われたり、相手のボランチが最終ラインに落ちて3バック化した際も4-1-4-1から4-4-2の可変で守ったりしているので完成度は今一つである。今後の守備における準原則の導入を期待したい。

 ボールを奪った際、無理して前線に攻めるわけでもないが、高い位置で奪ったときには一気に敵陣を目指すところは昨年との大きな違いの一つである。福岡戦の62分の藤本の決定機はまさにその絶好の例である。敵の帰陣を確認するとボールポゼッションを試み、攻撃フェーズに移行する。

 以上のことをまとめると画像のようになる。4つの全ての局面が連動していることが分かるはずだ。局面によって原則が整理され、文字通りの攻守一体のサッカーが繰り広げられている。未だにビルドアップと守備の局面には課題を残す場面もあることは否めないが。

 苦しみながらもチームで見出したプランA。クラブ創立50年の今シーズン、原点回帰をキーワードにJ1の舞台へ舞い戻る。