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押し込んだその先を。深化している永井ヴェルディ。圧倒して勝つために必要なもう一歩。

ボール支配率は68%と圧倒した。ところが、シュート数はヴェルディの7本に対して、山形は13本と倍近くのシュートを放たれ、山形は何度も決定機を迎えた。ボールを持てどもチャンスを作れないヴェルディに対し、その裏にある広大なスペースを突き効果的なカウンターを繰り出すという構図。この内容に対し、不満に思う方たちも多いかもしれない。しかし、筆者はそうは思わない。確かに、シュートはもう少し打てたかもしれない。だが、その内容は確実に前進している。「深化」している永井ヴェルディを紐解いていきたい。

前節のレビュー、今節のプレビューはこちら↓(こちらの内容を読んでいただいたという前提で分析しますので、読んでない方は是非読んでみてください!)

1. 両チームのスタメンとフォーメーション

両チームのスタメンとフォーメーションは以下の図の通りである。

ヴェルディは前節途中出場ながら1G1Aを記録した河野が先発復帰。

一方、山形は完封勝利を収めた前節からそのままのメンバーとなった。

2. プレスに対する効果的なビルドアップ

山形は敵陣内では5-2-3の形でヴェルディに対して、プレスをかけてくる。(詳しくは今節のプレビュー記事参照)これに対して、ヴェルディは前節と同様の立ち位置をとり、ボールの前進を試みる。(詳しくは前節のレビュー記事参照)

やはり、プレビューでの予想通り、山形は立ち上がりからヴェルディ陣内でプレスをかけてきた。これに対し、序盤に何度か奪われピンチになりかけたシーンもあったが、15分を過ぎると最早山形は敵陣でのプレスを諦め、自陣での5-4-1リトリートに切り替えた。

これはヴェルディが効果的なビルドアップができたからに他ならない。

図1を見てもらいたい。敵CB-SB間に立ち位置をとりSBへのパスを牽制する両シャドー、アンカー(リベロ)へのパスコースを切るJBに対して、ヴェルディは上福元をフィールドプレーヤー化した4vs3を形成。この際、リベロの佐藤が絶妙な立ち位置をとり、常に360°の視野を確保する圧巻のプレーを披露。仮に佐藤に対して山形のボランチが出てしまうとヴェルディのフロントボランチをフリーにしてしまい、攻撃のスピードアップを許してしまう。山形は本来中盤に対するパスコースを切りながら外に誘導し、ボールサイドのWBとHVで奪い取りたいのだが、佐藤に対して効果的なプレッシャーをかけることができなかったため、守備ラインを下げざるを得ない状態に。逆に、ヴェルディは山形を敵陣に押し込むことに成功。ヴェルディが圧倒的にボールを保持する状況を作り出した。

3. 得点を取るために陣形を「崩す」

2でヴェルディが圧倒的に押し込むことができた要因については触れた。しかし、その圧倒的なボール支配率に対して決定機を作る回数は著しく少なかった。その要因について考察することにする。

前節のレビュー記事で触れたサイドの関係性については今節修正することができていた。さらに、プレビュー記事で触れたワイドストライカーの背後の飛び出しもオフサイドにはなったものの明らかにその回数は増えていた。それでも敵を崩すことはできなかった。それはなぜか。

前節と今節の決定的な違い、それは鹿児島が4-4ブロックを敷いてきたことに対して山形が5-4ブロックを敷いてきたことだった。鹿児島に対してはサイドの関係性を修正し、サイドチェンジを繰り返すことで敵陣をスライドさせ、スペースを作り出し、終盤に3得点を生み出したが、今節は最終ラインが5枚いるため、前節のような単純なサイドチェンジを繰り返してもなかなかスペースを生み出すことはできない。では、どうすれば良いのか。

話は逸れるが、なぜボールを動かす必要があるのだろう。単純なクロスやロングボールの方がゴール前のシーンを簡単に作り出せるのでは。そんな疑念を持つサポーターは多くいるのではないか。

ボールを動かす意味は「敵の陣形を崩す」ことだ。ショートパスに対して敵が食いついてくるということはボールを奪われるリスクもあるが、それは敵が守るべきスペースを開けたという側面も持ち併せる。そうして相手をパスによって引き出し、スペースを創出することで最終ラインの陣形を崩す。最終ラインの陣形が崩れればあとは簡単だ。その空いているスペースにボールを出し、フィニッシュを行うだけだ。

「敵の陣形を崩す」ことが目的だからこそ、まずは敵のライン間にポジションをとり、敵を動かすことができる立ち位置が求められる。と、同時に自分たちの陣形を整えることができる。これはボールを失っても即時奪回を行うことができることを意味する。適切な立ち位置さえ取ることができればボールを前進させることができる。そして、そのボール回しに相手が食いついてくれればスペースを生み出すことができる。こうして、自分たちの陣形を崩さずして敵陣を崩すことができる。いわば、最強の「後出しジャンケン」である。

前述したように山形の5-4の守備ブロックは陣形を大きく崩さなくてもある程度守ることができる。つまり、ヴェルディは前節のように自分たちの陣形を崩さず、「敵陣を崩す」ことができなかったわけだ。これが、試合が膠着状態に陥った原因だ。適切な立ち位置をとりボールを前進させることはできたのだが、山形が割り切って自陣での撤退守備に切り替えたことで両チームの陣形がほとんど崩れることなく、ヴェルディが圧倒的にボールを保持しながらもその睨みあいは続いた。

では、この状態で「敵の陣形を崩す」にはどうすれば良いのか。答えは簡単だ。自分たちの陣形を「崩す」ことだ。だが、一つの疑問も生まれる。これにはリスクが伴うのでは?

答えはNoである(完全に言い切ることは無論できないが)。確かにこの状況が自陣であれば、自分たちの陣形を崩してまでスペースを作ることは大きなリスクを伴う。なぜなら、仮にもしボールを奪われた場合、そこにスペースを与えることになり、敵にカウンターの糸口を与えることになるからだ。だからこそ、こうしたカウンター予防の観点からも自陣では陣形を崩さずにボールを前進させることが求められる。しかし、今回のケースでは状況が違う。敵をゴール前に5-4ブロックで釘付けにしているのだ。つまり、仮に奪われてもゴールまでの距離は80mあり、前線の起点もわずかに1つである。故にリスクは最小限である。つまり、こうした状況では、自分たちの陣形を「崩す」ことで「敵の陣形を崩す」ことが求められる。それには、具体的にはどういったことが必要だったのか。

実は、試合中にヴェルディはその入り口にはたどり着いていた。実際に試合にあったシーンを交えながらその方法を解説したいと思う。

図のように守備陣形を組む際には選手同士の距離感を保ち、コンパクトなブロックを形成することが基本である。故に、攻撃を行うチームとしては、敵の守備ブロックの陣形を崩すためには鎖のように繋がれている選手間のスペースに楔を打ち込む必要がある。鎖にボールを打ち込む、もしくはボールを運び突破することで敵の守備陣形は崩壊を始める。なぜなら、壊された鎖のスペースを埋めるために、守備陣形がスライドし、そのスペースを埋めなければならないからである。これを繰り返すことで、敵の守備陣形は完全に混乱に陥り、スペースを作り出すことができるというわけだ。

実際の試合の例を用いてみよう。

図は前半35分を表したシーンである。

左サイドにて、小池がハーフスペースへ移動し、奈良輪が高い位置を取る見事な関係性から左ハーフスペースで小池がポストプレーを行う。そして、梶川にボールを落とし、そこからさらに佐藤までボールを戻す。その際、本田-南間の鎖にボールを通したことで。佐藤が前向きかつフリーな状態でボールを受けることができたことがわかる。このプレーで敵の守備陣形をスライドさせ、逆サイドのハーフスペースにスペースを作り出すことに成功。そこにボールを入れ、河野が反応するものの惜しくもゴールラインを割ってしまったプレーであった。

ヴェルディとしては、ボール回しから敵最終ラインを十分に押し下げ、さらに鎖を通すことでFW-MF間に佐藤がフリーかつ前向きな状態でボールをもらうことができた。が、しかし、逆サイドに走り込んだのはウイングストライカーの河野であった。この場面ではさらに河野がハーフスペースへのダイアゴナルランを行い、対面するWBをハーフスペースにピン留めすることでその広大なスペースをサイドアタッカーに使わせることができていたらおそらくヴェルディにとっては決定機が作れたはずだ。

4. まとめ

この試合ではボールを前進させ、相手を押し下げることはできていた。だからこそ、求められるのはその先の段階であるフィニッシュの局面だ。敵の陣形を崩すためには自分たちの陣形を崩すことも辞さない局面があることをチームとして共有し、「守備陣形にスペースを作り出し、そのスペースから攻める」という大原則の理解度を高めることができれば、より相手にとって脅威となる攻撃を繰り出すことができる、そんな予感を感じさせたゲームであった。

不用意なボールロストをできるだけ避け、適切な立ち位置から相手の守備陣形を押し下げることができれば、そう簡単に敵もカウンターを仕掛けられないはずだ。だからこそ、度々JBにピンチを作られてしまったディフェンスコントローラーにはより一層的確な判断と予測が求められる。

自分たちのサッカーを信じ、さらに深化させること。「立ち位置を取る」→「相手を動かす」→作り出したスペースに「走り込む」。これこそが、相手を圧倒して勝つために必要な“もう一歩”の正体である。