指揮官も認めた「町田スペシャル」。その全貌と効果を検証する。

 いよいよ開幕を迎えたJ2リーグ

 J2クラブのファンからしたらJ2リーグは「世界一難しいリーグ」ではないだろうか。年間42試合とただでさえ過酷な日程にも関わらず、中断期間は存在しない。また、世界でも例を見ないほどに各クラブの戦力が拮抗している。さらに、個性的かつ独特な戦術を志向する監督が多く、その戦術レベルはJ1リーグを遥かに凌駕している。そんな、世界一面白く、熱く、予測不可能なリーグがいよいよ今年も始まった。
 我らがヴェルディは監督が交代し、継続路線ではなく、「破壊と進化」が求められるまさに変革の年と位置付けられることになった。新監督は昨シーズンよりもよりアグレッシブに攻めるスタイルを明言しており、その新スタイルがいかがなものなのか、筆者は開幕戦から読み解こうと思っていた。しかし、蓋を開けてみると明らかに指揮官の発言とは真逆なスタイルのサッカーが繰り広げられていた。対町田のサッカー、そう「町田スペシャル」である。

町田サッカーの正体

 「町田スペシャル」の全貌を検証する前に、町田のサッカーについて紹介したい。相馬体制6年目を迎えた町田の雄は明確なスタイルを確立しており、その完成度は年々高まっている。開幕戦でも自分たちの「哲学」を貫いたことで、東京クラシックを制している。
 キーワードは「コンパクトフィールド」と「ワンサイドアタック」である。町田は基本的にすべての選手がどちらかのサイドに寄っている。今後の図はすべてゼルビアから見て右サイドの攻撃と仮定する。ビルドアップでは自陣から丁寧につなぐことはせず、長いボールをシンプルに使う。長いボールを蹴る場所は大きく分けて2パターンある。ハーフェイライン付近でボールを持っている場合はコーナーフラッグ付近に滞空時間の長いボールをバウンドさせるようにして蹴る。

ここでの目的は後ろ向きの相手DFにFWがプレスをかけることでサイドに逃げるように誘導することである。サイドへのクリアを誘発することで高い位置でのスローインを獲得することができ、敵陣の深い位置から攻撃を再開することができるからである。そのためのポイントは滞空時間の長いボールをコーナーフラッグとDFラインの間にバウンドさせることである。滞空時間の長いボールを蹴ることでよりDFに難しい対応を強いることができる。バウンドさせることも同様の理由である。

もう1パターンはDFラインの背後までボールを飛ばすことはできないときである。この場合はFWをターゲットとして、ロングボールを蹴る。その際にターゲットとなるのは、昨シーズンまでは中島であったが、今季は富樫の加入により、両者がターゲットマンとなることができ、攻撃の幅が広がりそうだ。そして、セカンドボールを回収し、再びコーナーフラッグ目がけて蹴ることでとにかくサイドの深い位置を取りに来ようとする。たとえ、ボールを失ったとしても後ろ向きの相手に対して、前向きのベクトルを持つ町田の中盤がすぐに切り替えれば、簡単には前進されない。また、図のように非常にコンパクトでタイトな陣形を敷くため、マイボールにすることが比較的容易である。こうして、ロングボールとハードワークを武器にボールの前進を試みるのである。
 

 ボールを前進させたあとは、コーナーフラッグまでボールを運び、相手にボールを当ててコーナーキックを確保するパターンがある。町田の攻撃のおよそ半数はセットプレーであり、コーナーキックをとることは大きな得点チャンスなのだ。また、同サイドアタックを繰り返し、ハーフスペース奥を取りに行く、あるいはシンプルにクロスをあげる形がある。大きく分けるとこの3パターンである。非常にシンプルだが、明確な原則があり、相手にとっては脅威である。
 

 一方、守備でもどちらかのサイドにより、コンパクトでアグレッシブな守備を信条とする。図4のようにラインを高く設定し、相手のスペースを消していくような圧縮守備でボールを奪い取る。弱点としては逆サイドが完全にフリーになることだが、サイドチェンジの余裕を与えないようなプレスをすることで弱点をカバーしている。

 町田スペシャルの全貌と効果

 町田サッカーを分析したところで、これに対するホワイトの答え「町田スペシャル」の全貌を検証していきたい。まず、攻撃面だが、町田の守備の弱点は、DFラインの背後に広大なスペースがあり、逆サイドを完全に捨てるという2点である。ホワイトはこの弱点を徹底的に突こうとし、2パターンを用意した。まず、最終ラインでのビルドアップを放棄し、敵のDFラインとGKの間に徹底的にボールを放り込んだ。

こうすることで、敵の最終ラインを下げることが目的だったのではないか。また、両CBの後ろ向きでの対応は怪しかった。事実、深津のGKへのバックパスをコイッチがあわや押し込めるかというような場面を作り出すことができた。しかし、コイッチ、レアンドロ共にスピードのあるタイプではなく、あまり効果的なチャンスを作ることができなかった。また、セカンドボールもほとんど町田に奪われ、苦しい展開が続くこととなった。

もう一つはミドルゾーンでの早めのクロスである。ボランチやセンターバックから逆サイドバックにロングボールでサイドチェンジを図る。すると、町田の守備ブロックはスライドを強いられることになる。その瞬間、センターバック間に一瞬スペースができる。そこに早めにアーリークロスをあげていこうという狙いである。これはなかなか効果的だったように思える。横にスライドしている際には、マークを見失いやすい。なぜなら、スライドしている間はボールウォッチャーになりやすいからである。上空の風の影響もあり、精度が足らなかったが、奈良輪や田村から早めにFWにつける狙いは明確だった。ただ、町田に押し込まれたことでなかなか多くの回数を出すことができなかった。

 守備面では、ターゲットマンに対してスペースを離れてもチャレンジする姿勢が見られたが、これが原則なのか町田対策であるかどうかは定かではない。しかし、富樫、中島の両FWに見事なまでに起点をつくられてしまった。また、弾き返せたとしても十分なクリアではなく、町田の中盤の激しいプレッシャーを受け、ロングボールを蹴らざるを得ない展開となってしまった。そのロングボールに対しては、コイッチは深津に完封され、背後のボールもスピードに特徴のある酒井に抑え込まれてしまった。守備では町田のシンプルにフィジカルを活かしたロングボールサッカーに完全に後手に回ってしまった。

まとめと感想

 「アグレッシブで攻撃的なサッカー」を掲げるホワイト監督だが、開幕戦では意表を突いたリアクションサッカーを披露した。まさか、このサッカーが今後のベースになるのではないかと筆者は心配したのだが、試合後の記者会見で今日のゲームは町田対策のサッカーであったことを認めた。一安心である。自らの理想とチームの現実を見比べた結果、相手のサッカーの弱点を突くという判断を下したのだろう。しかし、精度の問題や風の影響でなかなか多くのチャンスを作ることができなかった。結果論だが、筆者はこの戦術の選択には疑問を感じている。町田の最大の武器は全員がハードワークできることであり、そのフィジカル能力によって町田のサッカーは支えられている。一方、ヴェルディの武器はテクニックとゴール前での創造性。フィジカル能力はむしろ弱点である。そんなヴェルディがなぜ、相手の土俵で戦ってしまったのか。それだけ、町田のスタイルの完成度が高いと判断したのかもしれないが、ホワイト監督にはできればボールを大事にし、幅を使い、敵を揺さぶりながら主導権を握る戦いを見せてほしかったと思う。また、失点シーンはボールを奪われたあとに簡単にボールを運ばれ、井上潮音が足先の守備で軽く抜かれ、李と田村の2枚いたにも関わらず、あっけなくシュートを打たれ、失点を喫した。防ぎようはあったし、何とももったいない失点である。さらに、李のCB起用には不安を隠せずにはいられない。李は相手に対してアグレッシブにいくことが多かったが、誰を捕まえればいいのか判断が曖昧なときがあり、結果として守るべきスペースを空けることがあった。守備組織の構築は必須である。
 ネガティブな意見も書いたが、まだ42分の1が終わっただけである。本日の試合は「町田スペシャル」であり、まだ本来のチームの形は分からない。愛媛ではどのような戦いを見せてくれるだろうか。一刻も早いスタイルの確立を切に願う。