川井体制2年目で高まる完成度。攻守におけるアグレッシブなサッカー、その本質に迫る。

 愛媛のサッカーを「言語化」してみる

 東京クラシックでスコア以上の差を見せつけられ、完敗を喫したホワイトヴェルディは次節愛媛FCの本拠地ニンジニアスタジアムに乗り込む。このスタジアムは一昨年こそは勝利したものの2009年以降の通算成績1勝2分け7敗と大きく負け越しており、いわゆる“鬼門”の一つに挙げられるスタジアムである。筆者は次節戦う愛媛FCを分析すべく、開幕戦のvsジェフユナイテッド千葉をDAZNにて録画視聴した。がしかし、そのあまりの完成度の高さに驚き、プレビュー記事として、改めて分析結果を「言語化」してみることにした。なお本来、本格的に分析を行うのであれば、最低でも3試合は見なければならないが、時間の都合上、1試合の分析結果のみとなってしまったのはご容赦いただきたい。

 昨シーズン途中に就任した川井監督の手腕によって、愛媛FCのサッカーは攻守においてアグレッシブなサッカーに変貌を遂げた。以下、分析結果を攻撃、ネガティブトランジション(攻撃→守備への切り替え)、守備、ポジティブトランジション(守備→攻撃への切り替え)の4つの局面に分けて述べていきたい。なお、愛媛FCの開幕戦のスターティングメンバ―は以下の通りである。

 攻撃

 攻撃をより細かく見ていくために、ゾーン1とゾーン2・ゾーン3に分けて分析していきたいと思う。(ゾーンに関しては下の図を参照)

 ゾーン1

ビルドアップは3CBと2CHで組み立てを行う。GKもビルドアップに積極的に参加し、多少のプレスを受けても下から組み立てることを放棄することはない。全体的にビルドアップ能力が高く、序盤こそジェフのハイライン・ハイプレスに苦しむものの中盤辺りからは自信を持ってはがすことに成功している。特徴としては、両WB・2シャドーが高い位置を取り、できるだけ降りてこないようにすることである。そうすることで、攻撃における深さを確保することができ、GK、3CB、2CHの“ビルドアップ隊”にスペースを作ることができる。ジェフは守備時アランと船山が2トップのようになる4-4-2の守備陣形を組み、愛媛のビルドアップに対して、2トップとボールサイドのサイドハーフ、ボランチの片方がにらみを利かせていた(図1参照)。これに対して、愛媛FCの“ビルドアップ隊”は以下の2つの原則でビルドアップを行った。

① 後方に数的優位を作る
② スペースがあればボールを運ぶ

 ① 後方に数的優位を作る

 フォーメーションのミスマッチの上、最終ラインでは3対2の状況が出来上がっていたが、ジェフはボールサイドのサイドハーフを一つ高い位置まで押し出すことがあった。これに対して、愛媛はボランチが最終ラインに落ちることが見られた。立ち上がりこそジェフのハイライン・ハイプレスに苦しむものの柔軟な形を見出し、ボールを運ぶことができるようになってくる。

 ② スペースがあればボールを運ぶ

 徐々にビルドアップが円滑になってくると、下川、前野の両CBが空いているスペースにボールを運び、パスを送ることでボールを前進させることができるようになってくる。両者ともサイドバックをこなすことができる万能型DFである。ボールを持った際外を向き、対面するサイドハーフの身体を外向きにさせ、内側に切り込んでいく形がよく見られた。そして、ボールを運んだ際、そのスペースに近くのボランチの選手が入れ替わりで入る形が見られた。

 まとめると、愛媛はまず、最終ラインにスペースを作り出し、基本センターバック3枚と2枚のセンターハーフの“ビルドアップ隊”を形成する。その後、敵の様子を伺いながら各々が判断をし、流動的に動くことで、ボールを前進させる。どの選手も足元の技術は高いが、しいて弱点を言うならGKの岡本は若干足元が怪しいところも見られたくらいだろう。敵のビルドアップに対して、ヴェルディがどのようなプレスで挑むのかは個人的には最も注目している。

 ゾーン2・ゾーン3

ある程度ボールを運んだ際の、愛媛の狙いはDFラインと中盤での間でボールを受けることである。愛媛の攻撃のほとんどは「疑似カウンター」であり、ラインを一つ飛ばした縦パスが攻撃のスイッチを入れることが多い。近藤、神谷の両シャドーがキーパーソンとなる。主な縦パスの起点は前野であった。前野から神谷への縦パスが前半中盤に面白いように入り、神谷がボールを運び、右サイドの長沼にボールを運ぶ、あるいは藤本とのコンビネーションでゴールに迫る形が見られた。あるいは、近藤のダイアゴナルランで最終ラインを一発で攻略しようとする意図が見られた。こちらの攻撃はタイミングや精度の問題でなかなかチャンスに結びつけることはできなかったが、攻撃の形の一つとしては脅威である。


要注意人物としては、縦パスの起点となる前野に加え、神谷、長沼、下川をあげておきたい。神谷はターンが素早く、ボールを運びながら適切な判断を行うことができる愛媛の攻撃の中心選手である。また、右サイドの長沼はスピードがあり、突破力に優れるので、最後の崩しの一手には絡んでくるヴェルディにとっては厄介な質的優位に優れる選手である。さらに、右サイドの攻撃では右CBの下川がタイミングの良いオーバーラップやインナーラップを見せることで、攻撃にさらに厚みを持たせることができる。


愛媛は前半、何度もチャンスを作り出したが、ゴール前の精度が足りず、惜しくもゴールにつながることはなかった。この状況を受け、後半からジェフは神谷への縦パスを防ぐために、途中からゲリアがマンマーク気味に神谷を捕まえることで対応した。こうすることで、愛媛の攻撃の威力は半減し、「疑似カウンター」の頻度を著しく減らすことに成功した。愛媛は終盤にFWの有田を投入して、3-5-2に布陣を変更するなどオプションも持っている。ヴェルディもこれに対して何かしらの策を練っておきたいところである。

ネガティブトランジション

愛媛はボールを奪われた際、即時奪回を試みる。そのため、ボール周辺の選手が一気にプレスをかけ、DFラインもFWへのクサビのパスをカットしようと積極的に試みる。そのため、FWのポストプレーで前線にタメを作り、中盤にボールを落とすと最終ラインの裏に広大なスペースを突くことができる。この試合では、昨シーズンまでヴェルディに在籍したアランピニェイロが後ろ向きのプレーよりは前向きのプレーで力を発揮するタイプのFWだったため、あまり多くのチャンスを作ることができなかった。しかし、ヴェルディのコイッチなら万能型のFWのため、この形でカウンターからチャンスを作ることができるのではないか、と筆者は考える。そのため、奪ってからどのような攻撃を行うのか、一つの注目ポイントである。

守備

ネガトラで相手の攻撃を遅らせると、ミドルゾーンまで撤退し、5-4-1の迎撃守備を行う。守備の仕方としては、各々が守るゾーンを設定し、そのゾーンの中に入ってきた相手についていく守備を行う。つまり、中盤の「4」、特にボランチをどこまでくいつかせることができるのかが大きなポイントである。くいつかせることでスペースを作り出すことができる。ヴェルディはこうした点を踏まえて、攻撃をどのようにデザインするのだろうか。

 ポジティブトランジション

 スペースがあれば、カウンターを行うが、基本的には選手に適切なポジションを取らせることを重視し、あまり縦へ急ぐことはない。攻め急ぐのではなく、ある程度陣形を整えてから、攻めることが特徴である。

 まとめ

 愛媛FCは前節とは打って変わって、地上戦で勝負を展開してくるチームである。つまり、ヴェルディも「町田スぺシャル」のような奇策を打つのではなく、今シーズンの自分たちのサッカーで勝負すると考えられる。
 注目すべき点は3つ。まず、ボールの奪いどころをどこに設定するのか。前からプレスをかけるのか、かわされたらどのような対応をとるのかなどである。2つ目は奪った後の攻撃である。筆者はここが一番のチャンスであると考える。ここの部分はある程度デザインした攻撃を展開してもらいたい。3つ目はボールを持った際の攻撃である。ビルドアップや基点、スイッチのパスなどチームとしての約束事はいかなるものか、見守りたい。
 「破壊と進化」を掲げ、前体制からの生まれ変わりを目指す「ホワイトヴェルディ」。しかし、川井体制2年目を迎えた愛媛は戦術が浸透しており、開幕戦の戦いを見る限り、自信を持ってプレーをすることができており、完成度は雲泥の差である。それでも、自分たちが志向する速さと流動性を兼ね備えたパスサッカーを愛媛の地で見せてもらいたい。正直、厳しい戦いにはなるかもしれない。しかし、トライしないチームに「成長」が訪れないことも確かである。私は1サポーターとして、そんなチームを懸命に応援したいと思う。