求められるのはロティーナ体制の破壊と進化。新指揮官に託された具体的なチーム像とは

 ・失意に終わったプレーオフと一時代の”終焉”

 2018年12月8日。11年ぶりのJ1昇格へあと1勝と逆王手をかけて臨んだ大一番。ヴェルディはジュビロ磐田のホーム、ヤマハスタジアムに乗り込んでプレーオフ決勝に挑んだ。試合は立ち上がりから決勝の緊張感からかどこかヴェルディのほうはぎこちなさを感じる試合展開に。用意していたビルドアップが全くうまくいかず、ジュビロの激しいプレッシングの餌食となる。また、守備面でも奪いに行こうとする前線といつも通りのスペースを埋める守備をするDFラインで呼吸が合わず、ちぐはぐになってしまった。そんななか前半40分にPKを与え、与えてはいけない失点を喫すると、後半34分にも直接FKで追加点を許し、万事休す。J1昇格という悲願は達成目前でまたも持越しとなってしまった。激戦を終えてわずか2日後、ここ2年間の躍進を支えたロティーナ・イバンが揃って退任を表明し、涙ながらにサポーターへの挨拶を行った姿が印象的だった。

・新指揮官の発表と目指すべきサッカー 

 まもなくして、クラブから正式に新指揮官の発表がされる。名前はギャリー・ジョン・ホワイト。イングランド国籍でまだ44歳と若い指揮官の誕生である。新指揮官は経験こそ前任者に遠く及ばないものの、イングランドサッカー協会(FA)が立ち上げた特別な指導者養成コースの出身者であることからその資質は評価されている。なにせ、この指導者養成コースの対象者は将来のイングランド代表やプレミアリーグの監督を任せられる人材である40歳未満の若いイングランド人指導者であり、16人しか参加資格が得られていないのだ。OBとしては現イングランド代表監督のガレス・サウスゲート監督があげられる。また、親日家であることでも知られており、日本でのS級ライセンスのセミナーに参加した話は有名である。さらに、大のラーメン好きでも知られる。
 先の創立50周年記念セレモニーで竹本GMは昨シーズンのヴェルディを「ポゼッションはするけど、相手のゴールに迫る攻撃ではなかなか慎重なところがありました。守備においては抜かれないディフェンスでできるだけ相手のチャンスを増やさないことには成功していましたが、積極的な守備という部分は少なかった」と振り返り、今季求めるサッカーについて「今年はギャリーさんの積極的な指導、サッカーのアプローチといいますか、相手のゴールに対してよりアプローチを強く。そして、守備では相手のボールを奪いに行く積極的な守備も見られるのではないかと思います。それほど大きく変わったサッカーにはならないと思いますが、ベースは4-4-2、4-2-3-1となりますが、攻守に躍動するサッカーを見せてもらってJ1に行きたい」と語った。筆者もまさにこの意見に同調する。鍵は「積極性」である。

・2018シーズンのヴェルディの振り返り

 ~ビルドアップ編~


 この「積極性」こそ昨シーズンに最も欠けていた要素であった。昨シーズンのヴェルディは攻撃時のボールを保持することで相手の攻撃する時間を減らすようなポゼッションだった。要は、「守備的」なポゼッションである。自陣でのビルドアップの際、DFラインが3枚、中盤が2枚に変形し、奈良輪が高い位置を取り、3-4-3のような形に変形する。(図1→図2)。そして、

詰まった際には、渡辺皓太や佐藤優平がフォローに入りながらのボール回しを行う。敵のスライドが速い場合には、両ウイングバックが利き足とは反対のサイドに入っていることもありウイングバックが中を向きながら敵をブロックしながら遠い方の利き足で、または両CB(田村、平)が外に持ち出してシンプルにドウグラスを狙う形が多かった。しかし、両シャドーがビルドアップに参加することが多く、結果としてドウグラスが孤立する場面が多々見られた。また、4-4-2で構える相手に対しては最終ラインでの数的優位(3CBに対しての2トップの構図)を活かして、冷静なビルドアップを行うことができていたが、3CBに対して3トップでプレスをかけられると途端にビルドアップがぎこちなくなってしまうことがあった(第40節の松本山雅戦、プレーオフ準決勝横浜FC戦、決勝のジュビロ磐田戦が典型的な例である)。

・~敵陣での攻撃編~

ボールを前進させ、アタッキングサードに入るとロティーナが植え付けたポジショナルプレーの原則を選手が遵守した。見方によっては機械的にボールを動かしていたとも表現できるだろう。図3のように5レーン理論に基づいたポジショニングをしっかりととり、右に左に相手を揺さぶりながら相手の守備網の穴をついていこうという狙いを持っていた。

しかし、ポジションチェンジが乏しく、選手間の距離感が一定であったがゆえに、ヴェルディの伝統的に持つワンツーでのゴール前の崩しや三人目の飛び出しが鳴りを潜めた。さらにシーズンを通じて敵の2ライン間(MF-DF間)に斜めの縦パスを中央に打ち込むことができなかったがために深さをとれなかったうえ、サイドの高い位置をとっても敵を単独でかわすことができる(質的優位)ドリブラーの不在の影響で攻撃をやり直す回数も多かった。(泉澤の加入で状況が解決したようにも思えたが、怪我の影響でプレーオフへの出場が叶わなかった、、、。)ポジショナルプレーにおいて質的優位の伴わないポゼッションは致命的である。質的優位を担っていたWアンザイの流出はシーズンを通じてカバーすることができず、ターゲットマンとして2列目からのクロスの入り方に優れるアランの不調も攻撃の不安定さに拍車をかけた。また、ポジショナルプレーで本来狙いたいスペースであるペナルティーエリアの角(ペナ角)のスペースへの飛び出しの形も極めて少なかった。チームとしての明確な攻撃のパターンは藤本と渡辺のコンビネーションによる右のペナ角攻略であり、2列目からの飛び出しに優れる渡辺は持ち前のアジリティを活かした高パフォーマンスを披露し、チーム最多の9アシストを記録した。しかし、オリンピック代表帰り以降、パフォーマンスが急降下。ヴェルディの攻撃停滞の一因となってしまった。

・~守備編~

 一方、守備では4-1-4-1のフォーメーションをベースにしたボールの位置を基準としたゾーンディフェンスが中心だった。敵陣での守備の場合は、相手のセンターバックに対してインサイドハーフが一人でて行き、空いたスペースを隣の人が斜めにスライドする(この動きをディアゴナーレと呼ぶ)ことでカバーする。(図4参照)

しかし、この守備ではスペースは必ず埋めることができるが、自分たちからアクションを起こす守備を行うことができない。また、図4のようにフリーになった敵SBに遅れてプレッシャーをかけ、ウイングに対してSBがプレッシャーをかけると(図では奈良輪)CB-SB間(このスペースをチャネルと呼ぶ)が空いてしまい、そこに走りこまれることで起点を作られる。起点をつくられないように厳しいプレスをかければよいのだが、指揮官はファールを与えることに対して強い難色を示すため、十分なプレッシャーをかけることができず、起点をつくられてしまう。さらに、図5,6のようにどこかのスペースを埋めればどこかのスペースが空く。

このようにスペースを埋めることで敵に大きなチャンスを与えることは少ないのだが、構造的に自分たちからアクションを起こす守備は難しいことが分かる。こうした点に加え、ボールを基準に最終ラインを設定するため、敵に前進を許すと、必然的にラインが下がっていく。この点が「積極性」の対極に位置する守備、いわゆる「ミス待ち守備」のような守備組織が構築されてしまったのである。誤解を恐れてしまうようだが、私はこの守備組織が問題であると論じているわけではない。図7のようにボールの前進を許しても「スペースをカバーする」という明確な原則を基にシーズンを通して各々の立ち位置に迷いは見られなかった。

後出しのような守備でも使われたくないスペースはきちんとカバーしているのだ。しかし、この守備は9人が自陣深くまで下がることを余儀なくされるため、ポジティブトランジション(守備から攻撃への切り替え)の際に、前線のドウグラスヴィエイラが孤立してしまう欠点を持っている。時にはドウグラスの個の力でキープすることもあるのだが、この影響でカウンターを成立させることが難しく、特にフィジカル的に厳しくなる後半の終盤では押し込まれることが多くなってしまった。

・新シーズン考察

 ロティーナと歩んできた「美しい」時間を振り返ったが、こうした点を踏まえ、来る新シーズンはどのようなチームを構築していくべきか。ビルドアップに関しては、筆者は大きく帰る必要はないと考える。しかし、敵から攻撃的プレッシングを食らってしまうと、ロングボールに頼らなければならないという欠点は改善しなければならない。これに関してはDFラインを3枚だけではなく、4枚でのビルドアップを取り入れることが解決策として挙げられる。DFラインのビルドアップの戦術的柔軟性は広げるべきであったが、今季は思い切って導入すべきである。敵が攻撃的プレスに来るということは、DFラインは数的同数の可能性が高い。ここを起点にした攻撃を構築していくべきである。(図8参照)

無論、3枚に比べ、4枚では選手の距離感が遠くなるため、より高い技術が要求される。だが、ここを乗り越えた場合、より円滑なビルドアップができることは間違いない。攻撃では、自由度が高い流動的なサッカーが展開されると予想している。あくまで、筆者もverdy TVでの映像しか見ていないのだが、流動的にポジションチェンジを試み、昨シーズンはほとんど見られなかったワンタッチでのコンビネーションや3人目の動きが良く見られた。おそらく、狙いはペナ角を攻略することだと思われる。よって、新シーズンは昨年以上に人を追い越していく「積極的」な姿勢がみられるのではないかと思われる。今季のヴェルディも大外レーンで持ち味を活かすことができる選手というよりは、ハーフスペース、中央レーンで力を発揮する選手が多い。また、もともとヴェルディはコンビネーションで崩すサッカーを志向しており、アイデンティティの復活ともいえる。よりリスクの高いサッカーを志すのならば、ネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)には細心の注意を払わなければならない。ボールの即時奪回が求められ、選手の切り替えの速さが要求される。そのために、攻撃ではある程度近い距離間を取っておき、コンビネーションを使う必要がある。守備でも「積極的」な守備が見せられることを期待する。どのような形で嵌めていくのかは蓋を開けてみなければわからないが、プレスのスイッチのかけどころ、とりどころの設定を共有し、連動する必要がある。昨シーズンの守備は「ミス待ち守備」ではあったが、意識の共有はできていた。今季はより高い位置でのボール奪取が見られるのではないか、と筆者は考えている。

・まとめ

 低迷していたヴェルディに「ポジショナルプレー」という新たな概念を植え付け、明確な原則とコンセプトを掲示することで、2年連続でプレーオフに進出し、悲願達成まであと1歩まで迫ったロティーナの功績は大きい。しかし、そのサッカーの実態は自分たち主体ではなく、「相手ありき」のサッカーであった。もちろん、サッカーは敵がいて成立するスポーツなので、「相手ありき」の考え方も重要である。しかし、それだけでは昇格することはできなかった。足りなかった。今季、指揮官交代により、求められるのは「積極性」。すなわち、ロティーナ体制の考え方の部分的破壊とヴェルディが伝統的に持つコンビネーションの融合。その先に新たなアイデンティティの誕生と悲願達成が見えてくる。