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インドネシア最大手の旅行代理店「Panorama」のDXとエコシステムがすごかった

世界各地にある魅力的な企業や仕事を、現地での取材に基づいて紹介する「明日の仕事|ソーシャル&ビジネス」の第3回は、1998年にインドネシアのジャカルタで創業し、現在はさまざまなグループ会社を抱えるインドネシア最大手の旅行代理店 Panorama JTB です。

2017年に日本のJTBが Panorama Tours Indonesia の株式の40%を取得し、社名が Panorama JTB Tours に、ブランド名が Panorama JTB になりました(右から二人目が筆者)。


2023年8月にジャカルタにある本社を訪問し、アジア太平洋地域を管轄する担当者やグループ会社の方々と面会するとともに、同社が積極的に推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)とエコシステムの形成について学んできました。



1. 旅行代理店なのにパンフレットがない!?


ジャカルタ中心部の旅行代理店が集まる一角に Panorama JTB の本社ビルはあります。

ビルの1階は一般消費者向け(BtoC)の旅行商品の相談と販売の窓口です。ガラス張りの開放的な空間に一歩足を踏み入れると、日本の旅行代理店との違いに気がつきます。

何だと思いますか?
ヒントは下の写真に隠れています。

案内してくれた Panorama JTB で Head of Special Project を務める Bobbie Wibowo さん(写真中央)|2023年8月に筆者撮影


そうです。紙のパンフレットが、店内のどこにも、ひとつも置いていません。カウンター窓口に行っても、パソコンと電話機、カレンダーと観葉植物しかない徹底ぶりです。

コロナ禍前までは日本の旅行代理店と同じように、紙のパンフレットを印刷して並べていたそうですが、営業活動がストップしたコロナ禍を契機にDXを推進。すべての広報物をデジタル化することで、これまでパンフレットの制作にかかっていた労力と費用を大幅に削減し、また販売期間が終了したパンフレットの大量廃棄もなくしました。

また日本ではH.I.S.が実施しているように、消費者がオンラインで旅行商品をチェックして、そのままオンラインで購入までが完了するシステムを導入。消費者からの問い合わせにはメッセージアプリの WhatsApp を使用し、チャットと音声通話でリアルタイムにコミュニケーションを取れる体制を整えました。

さらにツアーの実施中にも、ツアーの参加者と添乗員のコミュニケーションに WhatsApp を使用。旅行前の手続きや準備物に関する連絡から、旅行中の諸連絡、そして旅行後のコミュニケーションに至るまで、CRM(Customer Relationship Management)のツールとしても上手く活用しています。

多分に漏れずコロナ禍により従業員が約半分になった同社ですが、ペーパーレスやキャッシュレスなどのテクノロジーを活用して生産性を向上させ売上を維持。その結果、以前よりも柔軟な働き方が実現し、社員に占める女性の割合が向上しました。


2. エージェントのためのコワーキングオフィス


旅行代理店が販売するツアー商品においては添乗員が固定のファンを掴んでいることがあり、人気がある添乗員のなかには独立する人も少なくありません。旅行代理店にとっては、せっかく育てた添乗員が独立して他社の仕事をすることは、あまり嬉しい状態とは言えません。

そこで Panorama JTB が考えたのが、元社員を含むフリーランスの添乗員が自由に利用できるコワーキングオフィスを、本社ビルの2階につくることでした。

販売窓口の後ろに見えるガラス張りの空間は、フリーランスのためのコワーキングオフィス|2023年8月に筆者撮影


多くの個人や法人の顧客を抱えている人気の営業人材や添乗員をエージェントと名付け、彼ら / 彼女らが快適に働けて情報交換もしやすいオフィスを提供することで、優秀な人材の確保と本社ビルに入居するグループ各社との相乗効果を生み出しています。

筆者が代表を務めるフーズフーズは「コレクティブ」という概念を組織に採用していますが、すべての人が集団的に働く従来の組織ではなく、個人の強みを活かして相互に補いあいながら集合的に働くコレクティブな組織の、ひとつの実践形ではないかと感じました。


3. グループ会社がフロアごとに入居


Panorama JTB 本社ビルの3階以上は、フロアごとにグループ会社が入居しています。

例えば、MICEや修学旅行などの法人向けの商品を販売する会社や、ツアー商品(シリーズ)とカスタムメイドの個人向け商品を販売する会社、また自社のシステムを提供した企業の出張手配(ビジネストラベル)など、顧客ごとに最適化した商品サービスを提供する各社のほか、バスなどの二次交通を提供する会社も入居しています。

1階のBtoCフロアは制服がありますが2階以上は私服で、会社ごとに趣向を凝らしたオフィスでは、若い人を中心に自由な雰囲気で働いていました。

営業・広報・経理などのチームごとにレイアウトされたオフィス|2023年8月に筆者撮影


またマネージャー以上になるとガラス張りの執務室が提供され、各営業チームとの打合せをはじめ、オープンでフェアな競争が日々繰り広げられていました。

グループ会社のひとつのマネージャーの執務室|2023年8月に筆者撮影


世界第4位(2.7億人)の人口を誇り、生産年齢人口が多いインドネシア。

消費者も従業員も若い人が多いこともあり、日本よりも素早くDXを推進して生産性と多様な働き方を実現していました。
また社内外の人材ともコレクティブに働く仕組みを導入し、自社にも顧客にもメリットがあるエコシステムを形成していました。




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