月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第12回 日本の産業構造

産業間の取引を捉える

 サプライチェーンという言葉があります。原材料、部品から製品が完成するまでの流れを示す言葉です。最終財の完成に至る生産の各段階は鎖のようにつながっていると見ることができます。
 しかし、経済全体で見ると、単純な直線的な関係だけでなく、各産業がお互いに供給し合って分業をしていることがわかります。例えば、製鉄会社は鉄鋼を生産し、それを建設材料や機械 に加工する会社があります。作られた機械の一部は製鉄会社自体の設備としても使われるでしょう。多くの産業がお互いに依存しあって成り立っているわけです。このように産業が他産業から供給を受けて生産のために使うことを中間投入と呼んでいます。
 この産業間の取引関係をマトリクス(行列)にまとめた統計が産業連関表です。日本など多くの国では、ほぼ5年ごとに基準となる統計が作られており、これが国民経済計算の基礎になります。
 産業連関表があると、ある最終需要、つまり消費や投資が行われた時に各々の産業の生産にどのように波及していくかがわかります。例えば、自動車が1000台売れたら、自動車製造業だけでなく、部品製造をはじめ多くの産業の生産の増加に波及していくので、その度合いを測ることができるのです。

サービス化が進展

 日本の産業は1980年代以降、いわゆるサービス化が進行してきました。脱工業化とも言われますが、日本の産業における純生産(純付加価値)の割合で見ると、第3次産業はすでに74%(国民経済計算、2021年)に達しています。製造業の割合は、19%(同) にすぎませんし、農林水産業は1%を切っています。就業人口でみても、第三次産業の割合は61%(同)と過半を占めるようになっています。
 まだ貿易立国と言われていた1970年だと、第三次産業の純生産の割合は51%(国民経済計算)、製造業の割合が34%でした。農林水産業の割合もそれ以前に相当低下していたとはいえ6%ありました。
第三次産業のうちさらにサービスという範疇に入る業種についてみると、1970年は17%だったのが2021年には33%と比率で約倍となっており、経済全体の3分1を占めるようになりました。中でも大きな産業となったのは、「専門・科学技術、業務支援サービス業」と分類される主に企業向けのサービス業と「保健衛生・社会事業」と分類される医療や介護などのサービス業です。
 前者は産業間の取引関係として多くの産業が、企業の外のサービス提供業者を利用するようになったということになります。つまり多くの産業が中間投入としてサービスを多く使うようになったということです。これにはいわゆる「外部委託」のような企業のコストカット策の増加も影響しているでしょう。
 後者は人口の高齢化が進行して、そのために必要が増したサービスであると言えます。

経済のサービス化進展の理由

 工業の成長、生産性の上昇の結果、先進工業国においてはモノの需要が量としてはほぼ満たされ、質の向上やサービスへと向かうようになりました。また製造業においても単品の大量生産から多品種少量生産へのシフトが見られます。
 人間は物質的な消費を物理的な量として無限には行うことはできません。それよりは、量の面で満足してくれば、次は質や多様性を求めることになります。その多くは物質的なモノの増加によるではなく、サービス労働に多くを依存することになります。「脱工業化」というわけですが、必要な財の生産がなくなるわけではなく、サービスの生産が増加するという姿です。
ただし、企業が内側で行っていた生産に関連する業務を、企業外のサービスを提供する業者に委託するようになった場合、単に企業内の労働が、企業外の労働に置き換わっただけになります。これを経済のサービス化の一つと位置付けるのは間違いでしょう。一方で、これまで企業内では十分にできなかった新しい仕事に外部の業者を利用するというのはサービス化と言えるかもしれません。例えば、企業のWEBサイトを構築するのに外部の専門業者を利用する場合などです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?