月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第14回 日本における個人所得の分布

月刊「まなぶ」2024年2月号所収

拡大する格差

1980年代以来、世界的にも所得や資産の格差の拡大が続いています。資本主義であれば、必然的な現象とも言えますが、1970年代以前には所得や相続への累進税制や比較的高い法人税によって、格差拡大に歯止めがされている時期がありました。
しかし、70年代末ごろからの新自由主義的な経済政策を主張する政治勢力の台頭で、英国のサッチャー政権、米国のレーガン政権、日本の中曽根政権、西ドイツのコール政権などにより、累進課税のフラット化や法人税減税が進められ、税制による再分配は小さくなりました。また企業活動優先の経済政策、労働組合運動の弱体化も所得格差の拡大を招いてきたと言えるでしょう。
所得格差の大きさを測る方法としてはジニ係数があります。ジニ係数は、所得の不平等度を表す係数で、全員の所得が全く同じときには0、1人だけ所得があってあとの人はゼロというときには1となります。
日本のジニ係数は厚生労働省が発表しており、2021年で0.5700と推計されています。これは過去最高だった2014年の0.5704にほぼ並ぶ高さで日本の所得格差が非常に大きいものになっていることが伺えます。1981年には0.3515だったので、1980年代以来、大きく所得格差の拡大が起きてきました。
ただし、税制や社会保障による再分配後のジニ係数は0.3813と低くなりますが、低くしている効果のほとんどは社会保障制度です。

国税庁統計で見ると

民間労働者の賃金状況を国税庁の民間給与実態統計調査でみると、1年を通じて働いた給与所得者数は、5,078万人で、その平均給与は458万円(2.7%増)となっています。男女別では、給与所得者数は男性2,927万人、女性2,151万人で、平均給与は男性563万円、女性314万円となっている。正社員523万円、正社員以外201万円となっている。男女で見ても正規・非正規で見ても大きな格差が開いたままの実態です。
国税庁統計年報で、所得税の統計から、日本における所得格差がどのようになっているのかを、もう少し具体的にみてみましょう。
 所得階級別人員の統計が出ている2021年度分についてみると、大多数を占める年間所得1000万円以下の労働者、自営業者層5935万人(94.8%)と、数千万円の所得をえている中間層322万人(5.1%)、そして1億円超の高額所得者27,396人(0.04%)とに大きく分けてみることができるのではないでしょうか。大まかな推定になりますが、この最も上層の0.04%が得ている所得は全体の所得の3%程度を占めているのではないかと推計できます。100億円超が30人いるというのも日本には特別な大金持ちはいないと思われている常識とは異なるのかもしれません。中間層5.1%が全体所得の19%程度を占め、残りの8割弱を94.8%の労働者、自営業者層が得ているという構成になっているわけです。

国税庁統計年報の所得者別内訳から推測すると高額所得者の所得は事業所得、不動産所得、給与所得、雑所得には分類されない所得が大きな部分を占めています。つまり、利子や配当所得、あるいは信託からの収入の部分が非常に大きいのだろうと推測できます。これは富裕層の貨幣資本保有から生じる不労所得であり、回り回って労働者の搾取の分前というわけです。
また、株式などの特定口座で受け取る配当、譲渡益や、預金の利子から得る収入は源泉分離の所得税(20%)のみでこの統計には入ってきません。そうした金融所得を多額に得ることができる富裕層は高額所得者層と重なるわけですから、実際の収入になるとさらに格差があると推測できます。金融税制を適正にしていくことは、これ以上の所得格差の拡大を止めるために重要な課題だと言えるでしょう。
さらに付け加えれば、企業の内部留保は株主に帰属しているわけであり、富裕層は所有する企業の内部に隠れた形で貨幣資本を蓄積しているといってもよいのです。この内部留保の個人への帰属がどうなっているかをみることも、より本質的に搾取の果実がどう個人に分配されているか、格差を広げているかをみる上で大事な要素です。


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