月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第9回 日本政府の財政(2)

政府はいくら借金してもよいのか

 前回みたような留意点からみれば、直ちにいま、財政を黒字化して政府債務を縮減しなければならないわけではなさそうです。しかし、政府の負債をどんどん増やしても構わないということにもなりません。

少子化によって超高齢化が進むので、生産する人より消費する人の方がいまよりも多くなってきます。そうすると国内の需要を満たすために輸入を増大させることになります。貿易収支の赤字が拡大し、さらに経常収支も赤字化してくるかもしれません。すなわち、外国から経常収支の赤字を埋めるための資金を借りてこなければならなくなるかもしれないのです。そうなると、国内の金利は上昇せざるをえません。金利の上昇によって政府債務が雪だるま式に増加していく可能性が出てきます。そうならないためには、政府財政がコントロール可能であるように運営されていかなければなりません。こうした中での岸田政権による軍事費の拡大。軍需産業は潤うのかもしれませんが、そのつけは労働者の負担となって返ってきます。もってのほかだと言わざるをえません。

ただし、不況期には財政支出を増やして景気を安定させ、失業の増加を抑えることも必要になります。資本主義経済では、不況を放置すれば、大量の失業と倒産をもたらしてしまうからです。

国債整理基金

 さて、国(中央政府)の場合、負債をコントロールするための制度がないわけではありません。一般会計及び特別会計における国の債務の償還は、国債整理基金を通じて 行われており、国の債務は60年で償還しなければならないとされています。公共事業などで公的インフラを整備した場合、その耐久年数は相当長いものとなるはずです。そこで、60年という期間でその整備のために行った債務を償還するという考え方になっています。企業会計のように資産ごとに異なる耐久年数を想定するわけではなく、かなり大雑把な方法ですが、毎年、国の債務の1.61%を国債整理基金として積み立てることになっています。

 現在、国債整理基金は239兆円の規模となっています。ただし、これは特別会計として計算するために設定されているだけで、じっさいに銀行に基金として預けられているというようなものではありません。将来の債務の支払いに備えて会計上、歳入の一定割合を債務の償還と利子の支払いに使って徐々に当初の債務を減らしていくという考え方です。

 じっさいの国の債務の大半は国庫債券(一般に「国債」と略す)という債務証券発行によって調達されます。国債の満期は最も長いもので20年、最も多く発行されているのは10年ものです。これらは資金調達の手段として用いられているだけなので、国債の償還期間と国の債務の償還期間との間に関係はありません。

再分配機能

 財政の役割として忘れてならないのは再分配機能です。税や社会保険料などの収入がどのような構造になっているのか、支出がどのように行われるかによって、再分配のあり方が決まってきます。

 現在の日本政府の財政による再分配のあり方は、「富裕層から低中所得者への再分配」というには程遠くなりました。戦後から1980年代前半までは、所得税や相続性の累進性が強く再分配の性格がかなり大きかったのですが、中曽根政権以来、自民党主体で税制は大きく変えられ、累進性が大きくフラット化され、89年に消費税が導入されてからは、再分配の機能は大きく削がれてしまいました。

 たとえば所得税の最高税率は1986年までは70%(課税所得8000万円超)でしたが、現在は45%(課税所得4000万円超)に引き下げられています。個人所得の大きい層により大きい負担を求めるべきでしょう。資産の多くもつものへの課税も必要です。相続税のほか、資産自体への課税も強化するべきです。

ビルトイン・スタビライザーとマクロ経済へのリスク負担

 かつて、政府財政には景気を自動的に安定化させる機能があるとされてきました。好況期には自動的に緊縮し、不況期には緩和することで景気を安定させるのです。これをビルトイン・スタビライザーといいます。しかし、この機能が働くには不況期には税収が減り、支出が増えるような制度になっている必要があります。所得税の累進性が大きく、法人税率が高いと、税収は景気に敏感に増減します。また、不況期には失業保険などで支出が増えます。先ほど述べたように、1980年代から所得税の累進性が大きくフラット化し、法人税率が大きく下げられ、消費税が導入されたことによって税収の増減は景気との相関が小さくなってしまいました。

 1990年代のバブル崩壊以降、政府は不況期には公共投資を大きく増額することで不況の乗り切りを図りましたが、これはたいてい不況の発生に大きく遅れてしまうことになります。また、景気が回復しても政治的に緊縮はむずかしく、財政赤字が慢性化することになりました。

 もう一つの景気安定策は、政府財政が民間資本のリスクを負担することです。これは、とくに金融機関などがもつ不良債権で顕在化した問題で、システム不全の起きた金融部門に対して行われました。不良債権の処理を促すため、金融機関などに資本が注入されたのです。また、それまでの日本資本主義の特徴であった旧財閥系銀行と系列大企業の間の株式持ちあい関係を、政府出資の株式保有機構によって解消させていったのです。さらに株価の低迷に対して、日本銀行が株式をETF(上場投資信託)などを通して購入するなどのテコ入れを行いましたが、これも最終的には、政府財政による民間企業のリスクの肩代わりと言えるでしょう。この公的なリスク負担なしに持続できないのが今日の日本資本主義です。

第1回 経済ってどんな意味?
第2回 おカネの正体(1)
第3回 おカネの正体(2)
第4回 経済の測り方(1)
第5回  経済の測り方(2)
第6回 経済成長とはなんだろう(1)
第7回 経済成長とはなんだろう(2)
第8回 日本政府の財政(1)

 

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