月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第1回 経済ってどんな意味?

「まなぶ」(労働大学出版センター)2023年1月号所収

                              北村 巌

経済という言葉

 経済という言葉を聞くと、真っ先にどんなことを思い浮かべるでしょうか。お金のこと? 経済政策のこと? 景気のこと? 株価のこと? 人によってイメージは異なるかもしれませんね。
 日本語の経済は「経世済民」という言葉を縮めてつくったそうです。経世済民とは「世をおさめ、民をすくう」という意味ですので、支配者による上から目線での考え方かもしれません。英語やフランス語ではエコノミーですが、語源は節約ということなので、人間社会が効率的に運営されていくというようなニュアンスがありそうです。ドイツ語ではヴィルトシャフトですが、語源は人をもてなすというような意味だそうです。
 現代では、どこの国でも経済ということには共通の認識があるわけですが、人間社会において、モノやサービスが生産され、消費されて人々の生活が支えられていくことを意味しています。

資本主義経済への発達

 人類がまだ狩猟採集生活をしているころ、経済はまことに単純で、集団で狩猟採集したものを、その集団で消費していましたが、社会が大きくなっていくに従い複雑になってきました。道具が発達し分業や生産物の交換によって人間の生活は物質的に豊かになってきたと言えます。交換を仲立ちするものとして貨幣(おカネ)も生まれ、商業や金融も発達してきました。
 18世紀に英国で始まった産業革命は、こうした発展を画期的に加速させる契機となりました。蒸気機関が発明され、これまでの人間や動物の力を超えた大きな動力を得たことで、それを利用したさまざまな機械が発明されました。機械によって大量生産が可能になり、これまでにない生産物やサービスが生まれるようになりました。当時の主力工業製品である糸や布が安価で大量に生産されるようになり、蒸気機関車ができて鉄道輸送が大きく広がり、大型蒸気船によって海上交通も飛躍的に発達しました。こうした生産手段を購入し蓄積することのできる資本が最も力をもつこととなり、資本主義経済が発達していきます。
 資本主義の発達は英国をはじめとする植民地経営=帝国主義によって世界中に広がっていくことになり、現代のグローバルな資本主義経済が生まれてきました。経済のあり方は歴史的に変化していくものです。

資本主義経済の担い手

 資本主義というからには資本が中心となっている経済です。では、資本とはなんでしょうか。生産手段となる機械や工場の建物、運転資金、そして労働力は、そのものが資本ではありません。それらが、事業として利潤をあげ自己増殖していく資本として生産活動に投入されてはじめて資本となります。つまり、資本とは物理的なモノではなく、経済の中での関係をさす言葉なのです。
 じっさいの人間でいえば、経済の担い手は、まずは労働者であるということになるでしょう。労働者が働かないことにはモノもサービスも生産できず経済は成り立ちません。ただし、資本主義のもとで労働者を雇い、すなわち労働力を購入してその労働を組織して使用しているのは利潤をあげることを目的にした資本です。現代では株式会社が大企業の主流となり、大企業の所有と経営の分離が進んだために、目に見える個人の資本家は少なくなってしまいましたが、経営者は企業の所有者のために資本家の代行をしているといえるでしょう。資産家は株式を所有することで配当として利潤を受け取っています。部分的には年金の積立金などもこの意味での資本家になっています。
 資本は原材料や機械などさまざまな生産手段を購入し、労働者を使用することで付加価値を生み、利潤(付加価値と賃金の差額)を得て自己増殖します。その仕組みで動いているのが資本主義経済であるということになります。そこに労働の搾取が存在します。
 一方で、労働者は賃金を得て消費生活をおくります。労働しない富裕層の消費もありますが、全体的には労働者の消費が個人消費の大部分を占めています。生産物が消費や投資の対象になることで資本は初めて生産物を売ることができ、利潤を獲得できます。労働者は労働だけでなく、消費者としても経済の担い手であるということになります。

天然資源と環境

 ところで、生産活動には原材料やエネルギー源として天然資源が必要です。蒸気機関は石炭がなければ動かすことができませんでした。鉄鉱石を掘り出さなければ鉄も生産できません。
さらに主なエネルギー源は石油に移行し、天然ガスも多く利用されるようになりました。これらの化石燃料資源は非常な長期にわたって、植物や動物によって地球上に蓄積されてきたモノです。現代資本主義はこれらの資源を短期間に多く消費していて、有限な天然資源を使い尽くしてしまう勢いです。また、二酸化炭素などのガスを大量に排出することによって気候変動を引き起こしています。これも資本主義の問題点として考えていくことが必要です。

第2回 おカネの正体(1)


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