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グレー

診察室

医者「どういった症状ですか?」
A「あの、その人のこと考えるだけで、胸がぎゅーって締め付けられるような、顔があつくなって、幸せで、その人のこと以外何も考えられなくなるというか、それ以外どうでもよくなるというか。これは一体なんですか?」
看護師「恋ですよ」
付き添った人「恋だね」
ぽち「恋だわん」
Siri「恋ですね」
天使「恋よ」
悪魔「恋だぜ」
守護霊「恋です」
地縛霊「成仏したい」
受付「薬局は隣の建物にあります」
空「そろそろ天気変えるか」
長老「嵐が来る、、、。」
空「小雨にしよう」
医者「では念の為胸の音聴かせてくださいね」


医者偉い。恋だとわかるのに。
こんなに簡単だったら。



まぁここんところ調子が悪い。すこぶる悪い。図らずとも勝手に5歳児みたいな顔になる。調子悪すぎて流れ悪すぎて、脳が処理しきれず顔面が事態について行けない。その結果、あえなく5歳児フェイスのわがままボディ。シャークボーイ&マグマガール。果たして勇者一行は宝の地図を手に入れることができるのか。嶺上開花(リンシャンカイホウ)マコーレカルキン会心の役満で大勝利です。越後製菓!

書ける範囲で一部調子悪いを書く。
普通自動車免許のテスト勉強が捗らなすぎる。助けてくれ。
なんかホラーな出来事があって夜寝れん日が続いた。勘弁してくれ。
自分の鼻の中に大きめの鼻クソがあることに気づかず、ずっと鼻クソつけたままオーディション用の動画を女優さん2人と撮影した。消えてしまいたい。
緊張で徹夜してしまった次の日の公演がとにかく上手くいかなかった。早く寝てくれ。
なんかやたら大人に怒られた。成長してくれ。

軽いやつしか書いてないけど、中にはヘビーなこともあった。そこへ追い討ちをかけるように花粉症が鼻と目と耳と喉を蝕む。こうなるともうくしゃみも大袈裟にやっちゃう。「ええっくしょいっ!」つって、N2地雷で使徒ごと焼き払うバイブスだ。伏せてください。

一つ一つの問題へ真剣に取り組んで、感情を整理する。でも量が多くて、整理がつかないまま朝を迎える日々。僕はNOW LOADINGで忙しかった。くるくるくるくる。浮いて来れなくなる手前で読み込みを止めようとは思っていた。渦の底を見に行く余力は無い。明日もアラームを鳴らして、起き上がらないといけないから。休むことはできない。そうやって、寒暖差の激しい10月をぽちぽちと生きていた。



陽はもう傾き始めていた。ばあちゃんが死んだ。先週のことだ。
もういい。どこへでも行く覚悟があった。あれからずっと[悲しい]以外の言葉を探していた。

心電図が一定の音を立て、黄色い線と青い線が波打つこともなくなった。ばあちゃんが死んだ。死後数分の間、人はまだ耳が聴こえているらしい。僕らは、ありがとうと大好きを伝えた。明るく見送りたかった。僕の頬に涙が伝っている。この涙に違和感を覚えた。悲しいのは当然だけど、それだけの涙じゃないように思えたからだ。悲しいけど、そこまで悲しくない。さみしいけど、そこまでさみしくない。なんで。

きっといつか会えるからとか、楽になって良かったとか、今頃じいちゃんと会えているとか、そんな安心感があるからなのか。又は、そもそも自分の愛はそんなもので、大小なんて差をつけたくないけれど、母親や親友が死んでしまうことより辛くない、その程度だからなのか。又は、死に対して、自分の向き合い方に変化があったのか。終わりとか別れといった感覚とは離れて、もっと体の一部みたいに捉え始めているのか。
ずっと一緒に育って、大好きなばあちゃんの死を前にして、ちゃんと悲しむこともできないのか。ちゃんと悲しみたい。愛してるから。

涙がわからなかった。これはどれ?どこからきた?宙に放り出されたようで怖くなって、たまらなく恥ずかしくなった。曖昧な感情に答えを見つけたかった。なぜなら、ばあちゃんに悪いと思った。自分の気持ちを真っ直ぐばあちゃんに向けたい。曖昧にせず、ばあちゃんの人生の大往生へ真っ直ぐな気持ちで向き合いたいと思った。だからずっと、涙の正体を探していた。[悲しい]以外の言葉。って、ないかな。あるのかな。

火葬の日。頭がぼーっとするくらい、天気が良かった。火葬場では、他人のご遺族もうちと同じく故人を送っていた。火葬が終わるまでの間、それぞれの遺族ごとに用意されただだっ広い待合室で待機する。どの待合室の扉も開いていて、廊下を歩くだけで待合室の中の人の様子が目に入ってきた。別の家族たち。

笑顔で会話する人。喪服を脱いで走る子ども。スマホをいじる人。静かに座っている人。スタッフと手続きをしている人。食事をとっている人。電話をしている人。同じく、今生きている人。

どの家族も、悲しいだけがあるわけじゃない。当たり前だ。待合室ごとに、今があった。一人一人、一人一人。家族という集団の中で、それぞれにある現実と生活の背景を感じて、なんかやっと腑に落ちて、我に帰った。大事なことを思い出せた気がした。答えのないもの。
僕のばあちゃんへの想いは、ちゃんと真っ直ぐで、グレーだった。

急に安心したと同時に、重力で身体が重い。でも、やっぱりこれがしっくり来るな、この感じ。この星の引力には不思議な美しさがある。答えのない断片の煌めき、重くて複雑で深い。地球は上から見れば色鮮やかだけど、命に目を凝らすとその色は、僕にはグレーに見える。曖昧で、混沌と混沌が混ざり合った、溜め息のような色。僕はずっと、このグレーに夢を見て、希望を見ている。

大切な人の死に、僕はビギナーだった。これからも慣れることは無いだろうけど、無粋にも涙の正体をすぐにでも突き止めようとした。あれは、何かわからない。考えたことはきっとどれも一つの事実だけど、それだけが正体ではないし、正体なんてないかもしれない。現実が映画や小説ではないように、大切な人の死に幸せな結末も不幸な結末もなければ、分析して図面に書き起こせる感情[悲しい]なんてどこにもない。ないないないないちょっとうるさいけど、わからなくて良かったのだ。わからないから、進んでるはずだ。この曖昧な道、[愛している]がたぶん全てだった。

他人とも比べられない、著書にも辞書にもネットにも載ってない、僕だけの感情。歳を重ねるごとに、自分がいかに感情を知らないかを突き付けられている気がする。全てを知った気になるのはきっと愚かで、あの涙が何なのかを僕はまだ知らない。
だから、せめて祈ってみる。大切な人へ届くように。くるくるしながら、ちゃんと進んで行けますように。




A「先生どうでしたか?」
医者「胸の音聴きましたけど、異常はありませんでした。是非その人に会いに行ってみてください。これが何なのかは、きっとあなたにしかわかりません」

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