見出し画像

海獣の子供 ー宇宙を孕む 宇宙を産むー

観てきた。
原作はもちろん読んでいる。
私は「好きな漫画家は?」と聞かれたとき五十嵐大介と答える事が多い。人によって回答を変えるので必ずこう答える訳ではなく、時には弐瓶勉と答えたり、木城ゆきとと答えたり、大越孝太郎と答えたりするのだが、概ね男女問わず無難な回答として五十嵐大介を回答することが多い。
それだけ五十嵐大介作品はキャッチーで品の良い作風という一面を持っていると思っている。
五十嵐大介の作品の中では「魔女(全2巻)」が特に好きだ。そしてこの海獣の子供も大好きな作品の一つである。

映画は非常に良い作品で、観終わったあとに優しい笑みがこぼれる映画だった。

内容はおそらく難解な部類に入る。
この作品は多分にしてSF的だし、それと同時にスピリチュアルな側面も併せ持ち、相反する要素が混然として一体となり、言語では表現不能な領域に突入している稀有なものだ。
これを更に海洋生物学の視点から描いているのだから、真の面白さを見抜くにはかなりの慧眼が必要であることは間違いないだろう。
しかしながら、渡辺歩監督(五十嵐大介ファンであることをパンフレットで公言している)や原作者である五十嵐大介本人が言うように、この作品は意識して理解する映画というよりはむしろ、心で体験する映画だと思う。なぜなら言語で表現不能なことを表現しようとした作品なのだから。

まず一番強いショックを受けたのは「五十嵐大介の画が動いてる!!!!」ということ。
まずそこに強い感動を覚えた。
表現も非常に良かった。
物語は原作に比較的忠実に進み、その映像表現は例えるなら吹き抜ける夏の涼しげな湿った海風の如く、身体を打つ雨の大きな雨粒の如く、強い流れに身を任せる海の流れの如く、そして、『昇華されゆく何か』の如し。
製作側の目論見は極めて正しく観客に伝わっていることを確信した。
多くの人にきっと経験があるであろう、子供の頃のあの夏の日。スクリーンにはそれが描かれていた。

この感想を書く前に、私の敬愛する永田希氏の感想にも目を通した。
永田さんは
https://twitter.com/nnnnnnnnnnn/status/1140260323695292416?s=19

と書いていて、これにも大きくうなずく。
本来なら漫画では描けないことを映像で描いて欲しかったというのも、原作を読み込んでいる書評家ならではの感想だと思う。
これは裏を返せば原作を丁寧になぞっている(なぞろうとしている)とも受け止められると思うし、鯨のソングについても「本来鯨たちに向けられた鯨たちの言語」を映像作品に上手に落としこめていた、との解釈であろうとも思う。

近年、粗製乱造される漫画原作のアニメ作品が多い中、この作品は実に上手く、丁寧に原作を映像化してくれたと感じた。

大きなスクリーンで「体験する」ことに意義がある作品であると思うので、まだ観ていない人はぜひ映画館に足を運んでほしいし、原作に興味を持った人はこちらも是非とも読んでもらいたい。

大変充実した映像体験であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?