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【制作裏話】なぜペルソナを他者に作ってもらったのか

2019年10月10日に、私、及川卓也の著書『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』が発売となりました。このnoteでは、出版の経緯や書籍づくりの裏話、発刊時に削った原稿の公開など、制作にまつわるさまざまな情報を発信していきます。

こんにちは、及川です。無事に発売開始となった『ソフトウェア・ファースト』、大手書店を中心にいくつか視察に行ったところ、おかげさまでとても良い展示をしていただいております。もし書店関係者さんや営業ご担当者さんがこのnoteを読んでくださっていたなら、心からお礼申し上げます

視察してみたところ、本書は

 ・新刊紹介コーナー(これは発売したばかりだからでしょうが...)

 ・ビジネス書コーナー(主に「デジタル」「経営」「組織」関連の棚)

 ・コンピュータ書コーナー

のいずれかに置いてあるケースが多いようです。これから購入をご検討される方がいらしたら、この辺りの棚をチェックしていただければ幸いです(もちろん、AmazonなどECでのご購入もぜひ!)。

さて、今回のnoteでは、本書の制作時に作った「購入者のペルソナ(サービス・商品の典型的なユーザー像)」(想定読者像)について紹介していきます。

チームでペルソナを共有する際に気をつけたこと

1回目のnoteで、本書はフリーランスの者を含め数名の「編集チーム」を組んで企画~執筆にあたったと説明しました。その過程では一般的なプロダクト開発と同じ手法を用いており、初期段階で決めたのが「読者ペルソナ」でした。

ペルソナは書籍の企画のみならず、あらゆるプロダクトを企画・開発する時に当然のように決めるものだと思います。しかし、チームで動いていると「各々が考えている想定ユーザーが違う」ということが起きがちです。言葉でペルソナを定義し、皆が同じ言葉を使って話していても、頭に思い描いている人物像はそれぞれ異なっているのです。それでは、本当の意味でペルソナを「共有」したことにはなりません。

本書の企画時も、最初は編集担当の伊藤健吾さんが作った企画シートにあった「想定読者」を何となく共有していただけでした(以下参照)。しかし、実際に目次案の制作や執筆を進める時になると、案の定「これは誰向けの内容か?」を議論することになります。

■ コア読者:製造業、金融、小売り、飲食業など既存産業の情シスエンジニ

■ 周辺読者1:現在「非IT産業」とされる大企業の偉い人たち

■ 周辺読者2:学習意欲の高い若手~中堅のWebエンジニアやITビジネス従事者

■ 企画意図:デジタル・トランスフォーメーションなり●●テックの「未来」や「戦略」を紹介する本ではなく、それらを「実践」するための参考書という打ち出しにしたい

コア読者・周辺読者ともに何となく分かったつもりになりそうな文言ですが、実際に「どんなキャラクターで」「それゆえ思考や行動にどんな特徴があって」「どんな悩みを解消する(どんな学びを得る)ために本書を手に取るか」が分かりません。

また、私が普段かかわっている方々の多くは「周辺読者2」の方々であり、「コア読者」や「周辺読者1」という、より本書のターゲットとなる方々のことは分からないことも多くあります。技術的なことをどこまで詳しく書いていいのかも不明です。

このような状態で執筆を進めてしまうと、ビジネス書なのか技術書なのかがあやふやなまま、本が出版されてしまうということにも成りかねません。

そこで、次のようなプロセスでペルソナを作り直すことにしました。

■ 登場人物

・及川(著者)
・伊藤健吾さん(担当編集者)
・武田敏則さん(編集協力をしていただいたライター)
・酒井真弓さん(及川のマネジャー。フリーランスとしてITにまつわるメディア・イベント関連の仕事もしている)

■ ペルソナ決めのプロセス

【1】及川と伊藤さんで決めた企画概要を、目次案(バージョン1.0)に落とす。

【2】目次案と伊藤さん作成の「想定読者」を武田さんと酒井さんにも見てもらう。

【3】目次案の内容は、それぞれ誰向けなのか? を全員で議論。

【4】あえて酒井さんにペルソナを作り直してもらう。

【5】及川が細かな部分を修正し、ペルソナ完成。

ポイントは、4の「あえて酒井さんにペルソナを作り直して」もらった点です。理由の一つには、私や伊藤さんが目次詳細や執筆の準備に取り掛かるからという時間的な制約がありました。効率を考えて分業したということです。ただそれ以上に、企画者ではない酒井さんに作ってもらうことで、

及川と伊藤さんが思い描く想定読者がどんな人かを客観的な視点で見直す

ことができました。言い換えると、ペルソナの人物像を企画者以外に考えてもらうことで、全員で理解を深める機会が生まれたのです。

先述のように、酒井さんはITにまつわるメディア・イベント関連の仕事もしているので、私や伊藤さんの考える「想定読者」がどんなタイプかをよく理解していました。だからこそ、酒井さんにペルソナを考えてもらう(改めて整理してもらう)意義がありました。また、酒井さんは私以上に「コア読者」や「周辺読者1」に知り合いが多くいました。

そうやってできたのが、以下のようなペライチの図になります。

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『ソフトウェア・ファースト』のペルソナ詳細

図にある内容を、優先順位の高い想定読者の順に説明すると、以下のようになります。

1. いのき
※名前の由来:社内で「情シスの闘魂」と呼ばれている

仕事:社内システムの運用管理保守
立場:
1. 情シス部門のリーダー
2. リーダー候補
経歴:
1. ベンダー出身→情シスに来て5~10年くらいの40代部長
2. 元SE、または社内異動してきて数年経つ30歳前後のエンジニア

・事業部門の情シス飛ばしに危機感を持つ
・社内における情シスのプレゼンスを上げたい
・武闘派CIOやAWS界隈の情シスの活躍に憧れる
・内製力はないが、これからの情シスは内製化かなと薄々思っている
2. ふぅ川
※名前の由来:いつもため息をついている

仕事:新規事業/イノベーション推進(企画寄り)
立場:新規事業/イノベーション推進のリーダー
経歴:既存事業の現場で優秀だった層(情シスまたは営業・マーケ)→事業企画を任されて、今、30代後半~40歳前半くらい

・企画力があり、AI使ってなんかやれとアサインされた
・上層部は「資料作れ稟議出せ」ばかりで期待できない
・結局イノベーションより調整ごとに時間をとられる
・勉強会やコミュニティには顔を出す
3. 東国原(ひがしこくばる)
※名前の由来:「どげんかせんといかん」という危機感を持つ

仕事:IT戦略立案
立場:非IT企業の役員
経歴:
1. 既存事業の情報システム部でトップだった50代CIO(※大手企業を考えるとCTOではない)
2. 元コンサルまたはITベンダーから転じて、デジタル化を前提に中途採用された40代後半の新規事業担当役員

・最新のIT技術に可能性を感じている
・自社でも何かしら変革を起こしたい
・他の役員はITへの理解に乏しく、孤独
・フローズンミドルにはなりたくない
4. キュレ太
※名前の由来:トレンドに敏感でキュレーションメディアを愛用

仕事:新規事業/イノベーション推進
立場:新規事業/イノベーション推進の若手
経歴:既存の事業部から異動で来た20代後半~35歳くらいの実働メンバー。「若い人の感覚を反映して」と言われつつ、IT知識はいちユーザーレベル

・希望していないが人事異動で新規事業推進部に
・花形部署にいる同期を一方的にライバル視している
・「俺は何者かになれる」と思って仕事に邁進
・「今日はバリュー出せなかった」が口癖

こうやって「どういった人物像で」「どんな悩みを抱いている人か?」まで言語化することで、チーム内でどんな方々に向けて書籍を作っていくかを握り合えたと思います。

また、ペルソナの優先順位を決めることで、本書をどんな性質の本にするか? も定まりました。これから作る本は技術書ではなく「ビジネス書」だという方針が決まったのです。これによって、執筆時はできるだけ難しい技術の話をしないようにする、するとしても注釈を加えて非エンジニアでも読めるように心がける、といったディテールを共有できました。

上の図にある各ペルソナのイメージ写真も、途中でわざわざフリー素材サイトを検索して、内容に合いそうなカットを入れ込みました。言葉だけでなく、ビジュアルでもイメージを共有するためです。些細なことと思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、ここまでこだわってペルソナを示すことで、チームメンバー全員のイメージを固めようとしたわけです。

※ 各ペルソナのネーミングや特徴は、チーム全員が理解しやすい/呼びやすいよう誇張気味に記しています。もし、これを見て不快に思われた方がいらしたらお詫び申し上げます。

※ 10代〜20代の読者には、「いのき」や「東国原」の意味が分からないという方もいらっしゃるかもしれません。これも、チームのうち3人が40代〜50代だったため、チーム内で理解しやすいネーミングにしています。それぞれの意味は、周りの先輩やGoogle検索に「燃える闘魂と呼ばれたアントニオ猪木」や「宮崎県知事時代の東国原英夫」について聞いてみてください。

こうしてペルソナを意識した書籍制作がスタートした(つもりだった)わけですが、実際の制作過程では「事前にペルソナ設定をした意味がないじゃん!」と大反省するような出来事もありました。一般的なプロダクト開発でも起こりがちな、典型的なアンチパターンです。

他にもいろいろやらかしてますが、やっと笑って話せるようになりましたので、徐々に公開していこうと思います。お楽しみに!

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