夏の原稿どうですか?~新刊タイトルが決まらないあなたに贈る世界の素敵なことば~
皆さんこんにちは、創元社編集局の編集Oです。
私が日々馬車馬のように働いている大阪では、7月初めに記録的に遅い梅雨入りをしてからも、ひたすら蒸し暑いかと思えば時折スコールが襲い来る、おかしなお天気が続いています。
それでも蝉の鳴き声や、近所の神社からお祭り太鼓の音が聞こえてきたりすると、ああもうすぐ夏なんだな……と思います。
そう……夏……
突然ですが、みなさま……
夏の原稿、進んでますか???
暑い、気圧が低い、仕事が憎い……何だかんだ理由をつけて、やる気スイッチ切れていませんか?
コミックマーケットにコミティア、コミックシティ……そうこうしている間にも夏のイベントに合わせたの締め切りは着実に近づいているのです!!
(え? 私? 私は秋なのでまだ全然ヨユーです)
もうネームはできた、プロットはできたという人は大丈夫。あとは脳みそと手さえ動かしていれば何かしらはできあがるはずです。
書いているうちに袋小路に迷い込んだり、自尊心どろぼうに自信を奪われたりすることも多々ありますが、自分とマシュマロと印刷会社さんを信じれば道は開けます(多分)。
でも、
今の段階でまだネタも降ってきていない
とか
早割入稿したいのに、タイトルが決まらなくて表紙が作れない
という方は深刻ですね。
今日はそんな原稿に行き詰ってしまった皆さんをお手伝いできるかも! な本を紹介します。
その名も〈世界を旅するイラストブックシリーズ〉!!
弊社の偉大なる若手編集者Nさんが立ち上げた、インスピレーションを刺激される言葉や短編にオシャレなイラストを添えた、大人のための絵本シリーズです。
第1弾となる『翻訳出来ない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳)は、2016年の刊行直後から大反響を得てあっという間に10万部を突破。現在も人気のタイトルです。
一言ではうまく外国語に翻訳できないような情感あふれる世界各国の言葉を集めたこの本。「この言葉エモい!」「創作意欲を刺激される!」と、プロアマ、一次・二次を問わず創作をされている方に非常に人気なのです。
ウンウン、わかるよ。編集Oも子どものころから、分厚い辞書を読んでは、マンガや小説に使うためにカッコいい単語とか名言とかいっぱいメモってるからね。
そんなわけで今回は、この本の中から、編集Oの独断と偏見で選んだ「ネタのヒントになりそう」「作品のタイトルになりそう」ということばをいくつかご紹介したいと思います
(※筆者都合により紹介文はどちらかといえば二次創作を前提とした表現になっておりますが、そこにさえ目をつぶれば、一次創作でも全く問題なくお使いいただけます)。
〈幸せな愛のことば〉
まあ、何はともあれ推しには幸せになってもらいたい。あるいは推しと幸せな恋がしたい。そんな本であればタイトルもハッピーにいきたいもの。まずは幸せな恋のことばを集めてみました。
FORELSKET(フォレルスケット)
「フォレルスケット」はスウェーデン語で「語れないほど幸福な恋におちている」状態のこと。「それうちの推しのことやん」って思いましたね? わかります、私も思いました。
あなたの新刊がハピエン恋愛ストーリーであればどんな話にも使えるであろう万能ワードです。
KILIG(キリグ)
「キリグ」は「おなかの中に蝶が舞っている気分」を表すタガログ語(フィリピン言語のひとつ)。つまり、ロマンチックなことや、キューンとする出来事があったときに感じる、ソワソワした気持ちのこと。一目ぼれ、デート、告白なんかの甘酸っぱいシチュエーションにはばっちりではないでしょうか。
TIÁM(ティヤム)
一目ぼれといえば「ティヤム」。ペルシア語で「はじめてその人に出会ったときの、自分の目の輝き」をあらわすことばです。これも恋に落ちた瞬間から、かつてのときめきを思い出すシチュエーションまで、使い勝手のいいことばです。
MERAKI(メラキ)
「メラキ」は何かRPGゲームの魔法名みたいですが、ギリシャ語で「料理など、何かに自分の魂と愛情をめいっぱい注いでいる」ことを表します。夏はあんまり物を作ってプレゼントするシチュエーションはないかもしれませんが、冬のクリスマス、バレンタイン用にネタをストックしておくのもいいかも(もちろん、このことばの対象は恋愛に限りませんが)。
NAZ(ナーズ)
ウルドゥー語で「だれかに無条件に愛されてることによって生まれてくる、自信と心の安定」のこと。恋愛に限らず、からっぽの心に自信と安心を注ぎ込んでくれるのが愛情の原点ですよね。「恋のことば」のグループに入れましたが、あらゆる愛の物語に使えることばだと思います。
〈悲恋、ヤンデレ系のことば〉
恋って楽しいだけじゃない。自分の気持ちも行動もうまくコントロールできなくなる様は、まるで何かの病気のよう。推しには幸せになってもらいたい、だけどかわいそかわいい推しも好き。そんなあなたに贈る、ほろにがい恋のことばです。
RAZLIUBIT(ラズリュビッチ)
「ラズリュビッチ」、ロシア語で「恋が冷め、ほろにがい気持ちになること」。失恋って、思いを遂げられなかったこと自体のショックに加えて、かつて何よりも尊く美しく感じられた思いが色あせていく虚しさや自分自身への失望が、傷ついた心に追い打ちをかけてきますよね……(え、別に誰のこととは言いませんけど)。失われた恋の物語を書きたいあなたに。
KARELU(カレル)
「カレル」はインド南西部の地方原語トゥル語で「肌についた、締めつけるもののあと」。靴下のゴムだとか、腕時計とか、指輪とか。しかしきっと”そういう”感性に満ち溢れたあなたなら、たやすく束縛や依存のニュアンスを見出すでしょう……何で何を締めつけるかはあなた次第、おいしく料理してください!
YA’ ABURNEE(ヤーアブルニー)
『翻こと』ヤンデレ選手権堂々の第一位「ヤーアブルニー」はアラビア語で「あなたが私を葬る」、すなわち「その人なしでは生きられないから、その人の前で死んでしまいたい、という美しく暗い望み」のこと。いいですね。編集Oはこういうの大好物ですよ~! 生きるか死ぬか、すぐ極端な決断に走ってしまうこじらせカップル好きのあなたに。
〈エモいことば〉
起承転結もなく、とりたててドラマもない、しかし作家の美学だけはてんこもりに詰まっている独特の空気感をまとった作品ってありますよね。センス⁉ ない! でもとにかくエモい作品つくりたい! という方におすすめのことばです。
MÅNGATA(モーンガータ)
スウェーデン語で「水面にうつった道のように見える月明かり」のこと。いわゆる「月の道」ですね。穏やかな波の音、潮の香りを運ぶ風、足元でサクサクと鳴る砂浜、金貨のように輝く月、暗い夜の海に延びる光の道……。すでに五感に訴える場面設定が完璧にできています! あとはあなたの推しを立たせたら一ページ完成です。セリフ? なくていいです。
HIRAETH(ヒラエス)
「ヒラエス」はウェールズ語で「帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち」。それは実際に行ったことがなくても、存在しない場所に対しても感じうるそうです。
そういえば編集Oは思春期のころ、学校ではもちろん家にいてもどこにいてもずっと「帰りたい」と思っていました。どこに帰りたいのかは自分でもよくわからなかったけど、あの感覚がきっと「ヒラエス」。よるべないすべての人のためのことばです。
MAMIHLAPINATAPAI(マミラピンアタパイ)
チリの一地域の先住民のことばであるヤガン語で、「同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、何も言わずにお互い了解していること」。いわゆる以心伝心ですね。ただこりゃエモいなと思うのが「2人とも、言葉にしたいと思っていない」ところ。ヒュ~ッ! すべての両片思いカップル使ってね~~!!!
COMMUOVERE(コンムオーベレ)
イタリア語で、「涙ぐむような物語にふれたとき、感動して胸が熱くなる」感覚。あ~そういう本作りてえな~! でもその1億倍くらいそういう本読みてえな~!!!
以上です!
この記事が少しでも皆さんの創作のヒントになり、みなさんの「JUGAAD(ジュガール、ヒンディー語で「最低限の道具や材料で、とにかくどうにかして問題を解決すること」)をお手伝いできていたら幸いです。
そして秋の原稿で十中八九死亡するであろう未来の自分も救えたら幸いです。
最後に一つアドバイス。
どんなに原稿がヤバくても少しは寝ましょう。睡眠時間を削るとテキメンにKUMMERSPECK(クンマーシュペック、ドイツ語で「悲しいベーコン」すなわちストレス太りを意味する)になります。まあシュペックくらいで済んだらいいですが、寝ないと最悪死にますので……(いのちだいじに)!
皆さんが無事本を出し、夏のイベントを元気に、健康に楽しめることを祈っております!
編集O
『翻訳できない世界のことば』には、紹介しきれなかったも~っとたくだんのオシャレなことばがつまっています! 姉妹書『誰も知らない世界のことわざ』も、普通の比喩表現に飽きてしまった小説書きさんにおすすめ。