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大切な人の写真を撮ろう

#カメラのたのしみ方

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お付き合いが始まってしばらくして、彼女が変だと気付いた。寝込んだまま1ヶ月も引きこもる。20時間も眠り続ける。感情の起伏が激しい。自分の容姿に異常に敏感だ。 

若い女性だし不安定なところもあるだろ、と考えていたが、それにしても異常だ。

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同居をスタートすると、さらにおかしい。米を炊き、おかずを作って、冷蔵庫に保管しておく。二人で食べて三日分の量だ。それが一晩できれいさっぱりなくなる。

さらに、大量の食品のパッケージが、ごみ箱に捨ててある。

なにが起こっているんだろう。

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彼女は病んでいて、過食症だった。後日、メンタルクリニックに引きずっていくと、「非定型うつ病」と診断された。

心の病。それまで私は「うつ病なんて弱いやつの甘えだ」ぐらいに考えていたが、初めて身近に心を病んだ者が現れて、それを改めた。

心を病むにはそれなりの理由がある。彼女は母と生き別れ、継母にいじめられ、食事を与えてもらえず、小学生のころは学校の給食で命をつないでいたという。

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今では彼女は、ゲラゲラ笑いながら、余ったパンをどうやってくすねていたかを話してくれる。それを聞きながら私は、自分がなんて家族に恵まれていたのかを天に感謝する。父母はいつも、私に腹いっぱい食べさせてくれた。

彼女が中学生のころ、父が亡くなって、それ以来独り暮らし。病んでもしかたない。

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長時間睡眠や、引きこもりや、過食のほかにもおかしなところが彼女にはあった。写真が趣味の人にヌードを撮ってもらい、それをツイッターでシェアする。報酬などはない。フリー。

彼女と私の出会いもツイッターで、最近の若い人はハダカをSNSに載っけてしまうのか、とびっくりしたものだ。

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お付き合いがスタートして、もうヌードはやめなよ、と説得したら、

「じゃああなたが撮ってよ」

というので、仕事で使っていたオリンパスのE-M1で、彼女を撮り始めた。その写真が、週刊ポストの表紙に載ったこともあった。

撮っていると、写真というものが面白くなってきた。彼女は他の写真家に撮られることはなくなり、心の病は治癒していき、元気になった。

しかし、私のほうが不治の病にかかってしまった。カメラという病。流行りのフルサイズミラーレスを入手した。彼女がよりきれいに撮れるようになり、さらにいいレンズが欲しくなる。

今では、外出して家電店に立ち寄り、カメラコーナーで長時間足を止める私に、彼女は呆れ顔なんだけど、こうしてしまったのは貴女なのです。


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