ただ、何者かになりたくて。その2

 僕は何者かになりたかった。勉強ができるやつ、スポーツができるやつ、物知り博士、植物好きのやつ…etc。でも、何者にもなれなかった。僕を僕たらしめているのはアザだけだ。皮肉なものだ。あれだけアザを疎ましく思っていたのに、アザはいつの間にか僕をすっぽりと覆い隠し、僕に成り代わっていたのだ。人とは違う、その心が肥大化し、僕という存在を失わせた。
 よく中学のクラスメイトに陰口を言われたものだ。あいつ何もないんだよね、と。僕はそれが心底悲しかった。何かなくちゃいけない、何もないやつは無価値だ。そう突き付けられているように思えた。僕という存在を全否定されたと思った。僕にできたことと言えば、少し髪型や服装に気を遣うとか、その程度のことだった。思春期の男の子にありがちなことだった。そんなことみんなやってたと思う。でも、当時の僕はそれくらいしか思いつかなかった。
 そうした中で、僕は自分に一層自信が持てなくなっていった。歩き方が人とおかしいんじゃないか。食べ方が汚いんじゃないか。体臭が臭いんじゃないか。給食のときは皆に背を向いて口元が見えないように食べるか、あるいは食べ物を全く口にしなかった。体臭が臭いと思ってなるべく人と距離を取るようにもした。制汗剤もこれでもか、というくらい使った。それでも僕の自尊心はズタズタだった。全てはアザに起因していた。
 僕は何者にもなれない、そう痛感した。生まれ変わったらアザのない顔で生まれたい。そうアザさえなければ…。そうやって自分で自分を嘲笑った。

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