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マカオのオッサンに問いかけられた「旅とコスパ」の是非

6月の下旬にマカオと香港に行った。おそらく人生初の、"人を接待する側" としての海外訪問だった。

マカオを訪れるのはこれで3度目になる。北部の本島は年季の入った高層マンションが所狭しと立ち並び、ホテルリスボアを中心とした南側のエリアには古くからある大型カジノホテルが照明をギラつかせながら立ち並ぶ。深夜になっても、「角刈り・セカンドバック・金のネックレス・黒Tを着て何故かへそ出し(そして太鼓腹)」という、如何にも大陸方面からお越しになったであろう大金を抱え歩いてるオッサン連中を中心に、喧騒が耐えない。深夜のカジノ、特に中心部のグランドリスボアなどは1000HKD札の分厚い束を握りしめた「角刈り・セカンドバック・金のネックレス・以下ry」なオッサン達とディーラーとの戦場である。

自分はこのマカオ本島が好きだ。2年に1度ぐらいのペースで訪問しないと体が疼いてくる程度には好きだ。ギラついた非日常の流れに身を任せ、自分の事を億万長者と錯覚した日々を過ごし、帰国当日あたりでスッカラカンになった財布を見ながら現実に戻ってくる、、この過程がとにかく楽しくてしょうがない。


中国人(推定)のオッサンの金遣い

ある日の昼食で、セナド広場近くにあるという名物の鴨肉御飯を食う事になった。滞在していたホテルからでは徒歩20分程掛かってしまう為、ホテル最寄りの公共バス停で店近辺に停まる(はずの)公共バスを待つ事にした。

マカオは公共交通機関が現在のところはバスしか無い。なので移動は基本的に公共バス or タクシー or カジノホテルの無料シャトルバス、の3択になる。公共バスの運賃は現金だと6MOPだが、「マカオパス」と呼ばれるICカードを使えばほぼ半額の運賃で乗れる特典がある(数回に1回ペースで無料にもなる)。以前の訪問でこれを知っていた私は、到着してすぐにマカオパスを購入していた。公共バス以外にコンビニでの支払いでも使う事が出来るので、マカオの旅では何かと役に立つ場面が多い便利アイテムだ。

バスを待っていた私の元に、「角刈り・セカンドバック・金のネックレス・以下ry」なオッサン2人組が中国語で話かけてきた。中華圏風のオッサンに何の疑いも無く中国語で話し掛けられるのは、ここ数年の私の海外旅行における恒例行事である。がしかし私は中国語を全く話せない。中国語が分からないという旨を2人に伝えたところ、路線図を眺めながら何やら大声で議論を始めた。現地民では無いからどのバスに乗れば良いのか分からなかったのであろう、と想像できた。結局その2人組は、私が乗る事になるバスの1台前を走っていたタクシーを捕まえて去っていった。マカオのタクシーは初乗り運賃が19MOP、現金だと最低でも公共バスの3倍は掛かる。正直オッサンがタクシーに乗り込むのを見た時は「何だ結局タクシー乗るのか。"もったいない" な 」と思った。

目的地の鴨肉御飯店に着くと3組程の待ちが発生していた。ふと店内を覗くと、先程のオッサン2人組が着席していた。どうやら同じ店に向かおうとしていたらしかった。1台タクシーをやり過ごして後ろから来たバスに乗っていれば3分の1の運賃で店に辿り着けたのだが、彼らはタクシーでとっとと移動する事を選んだ。その選択が、既に着席しているオッサンと行列に並ぶ自分という差を生んだ。

本当に些細な出来事ではあるが、着席しているオッサン2人を見た時にふと思った。運賃が高かろうと乗りたい時に乗って向かいたい時間に目的地に向かう中華のオッサンと、少額の交通費にコスパを求めた自分。しかもここは散財を楽しんでナンボの国・マカオ。「自分の事を億万長者と錯覚した日々を過ごし」に来たはずなのに、この期に及んでコスパなんか意識して何をやってんだ。。。?と。


そうだコスパを捨てよう

昔は旅行といえば「とにかく安く、そして楽しく」を追求するものだというバックパッカーのマインドが強かった。少しずつ出費は厭わないという考え方に変わっていったのは30代中盤あたりだったが、自分は「宿だけはケチらず奮発する」というスタイルに変わっていった。その結果手に入ったのが、広くてプライバシーがある個室・質の良いベッド・綺麗な洗面所とシャワールーム・セキュリティ等々、、、今となっては旅を安全かつ満足度が高いものにする為に不可欠な要素ばかりだ。もう複数人共同部屋のドミトリー宿には戻れない体になってしまっている。

一方で、「節約しても良いものは出来る限り節約したい」という考えは今も残っていて、その筆頭が「現地での移動」であった(他には「ローカルフード」「マッサージ」など)。タクシー以外の交通手段が少ない・難易度が高い国などでは、運転手との価格交渉を好きで楽しみながらやっていたフシがあり、時には運ちゃんとちょっとした口論を起こしたりもしていた。そんな口論の末に、たかだか日本円で数百円程度を節約し、時間を失っていた。それもこれも、コスパは正義という自分の考え方が引き起こした結果だったように思う。

長年のバックパッカー業で染み付いたコスパ追求癖は簡単には取れないかも知れない。今回マカオで出会った中華のオッサン2人組は、コスパ追求で失うもの・コスパを捨てて得られるもの を再考するキッカケを与えてくれた。旅行記事やツアー情報サイト等では「コスパ」の文字が多く踊っている。金の使い方なんて人それぞれに正論があって良いので他の旅人に対してとやかく言うつもりは無いが、自分は今後の旅ではマカオで出会った中華のオッサンのコスパを捨てた金遣いを見習っていきたいと思っている。旅に限らず、生活や人生に於いて何気なく求めている「コスパ」が何処まで有意義なものなのか、一度棚卸ししてみるのもアリかもなと思っている。

3日滞在してのカジノでの戦績は -30,000JPYであった。よくこの負けで済んだ、俺まぁまぁ頑張った、、というのが正直な感想だが、中華のオッサン2人は勝ってようが負けてようがゼロがもう1,2個多いレベルの金は動かしたんだろうなぁと想像している

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