佐知子が
「おひとり様シルクロードツアー」に参加したのは特別な理由があったわけではない

離婚して8年
50歳という大台に乗り
子育てもひと段落

それまでの価値観を少し変えてみたい気持ちもあって
憧れのシルクロードへやってきた

旅の行程は
順調に進んでいるかに思えた二日目の昼下がり

ここタクラマカン砂漠で
ちょっとしたトラブルが発生し

現地ガイドの30代後半の男性と二人きりで
廃墟に取り残されてしまったのだ

大学で日本文化を専攻していたというアラビアのロレンス似のガイドの男は
身丈はさほど高くないものの
しっかりとした筋肉がついているのが服の上からでもわかる

「スナアラシ ガ キマス ボクノウデニ ツカマッテ」
形の良い唇から発せられる日本語は不思議な呪文のように耳に響く
深い鳶色の瞳に吸い込まれそうになりながら
ガイドの逞しい二の腕に両手ですがるようにつかまった

佐知子はこの後の展開に思いを巡らせる

（もしかして 今夜はここで野宿？
気温が下がってきたから当然抱き合うようにして温め合いながら過ごすわよね、うんうん

もし、もし迫られたらどうしよう！そんなことないか？
でも、…覚悟だけはしておかないとね

しばらくしてないし…あ、ゴム持ってないわ！どうしよう
…どうしようもないか
えっ～とそうなると

…ナマかぁ
妊娠の可能性はないとしても
ビョーキがなぁ
今さら、この歳で性病罹患ってのもちょっとなぁ

あ、一応中出しはやめてもらおう うん、そこは礼儀としてわきまえてもらわないとね

そうそう、下が砂地だから
できればバックからの方が局部に砂が入りにくいわよね

でも、いきなりバックでお願い、なんてハシタなくて言えないっ！
どうしよう…しかも
初めて会ったような人と
そんな関係になるなんて
やっぱり日本人はイエローキャブだ、とか言われないかしら

でも…こんな展開、一生に一度しかないだろうし…後悔しない旅にするって決意してきたんだし…

よし、決めた！やっぱりやる！ナマでもやる！）

「ロレンス、私、やります！」

思い余って大きめの声でロレンスに言うと（←いつの間にかロレンス）
ロレンスは鳶色の瞳をパチクリとさせながら

「サチコサン、ワタシノオバアチャンニ ニテマス
アンシンシテ クダサイ ワタシ、マモリマス」

オバあチャン？
オバチャンじゃなくて？

嗚呼！やっぱり50過ぎたら
オバチャンじゃなくて
オバアチャンなの？

ショック！ ショック！ ショック！

あまりのショックで
頭の中で砂嵐が発生

そのまま倒れる佐知子…

ザーッザーッザーッザーッ
～～～～～～

んん？

ふと気がつくと

白熱灯に煌々と照らされたリビング…
付けっ放しのテレビ画面は砂嵐

…お後がよろしいようで
テヘ(≧∀≦)

ていうか
今、テレビって砂嵐画面になるの？
見かけないけど