言葉を回収させてくれ
初々しき男女が隣のボックス席に座ると、娘がふたりをジーっと見始めた。
ふたりは満面の笑みで娘に反応している。
なんだかいい雰囲気ですなあとムフムフ思いながら、彼らと娘のあたたかな視線のやり取りをしばらく横目で眺めていた。
……が、あまりにも娘が無言で介入するもんだから、「ほら、デートの邪魔しちゃダメ」と口走ってしまったのである。「邪魔し」を発している頃にはもう頭のなかで「あーーー!」と叫んでいた。
おいおい、男女だからって、デートじゃないかもしれないじゃん! もしデートだったとしても、ほんの些細なことで心電図のふり幅が大きく上下する、超がつくほどの敏感期かもしれないじゃん! ああ、なんと余計で軽率なことを。私のひとことで、ふたりのその日を台無しにしてしまっていたらどうしよう……ああ、自分に平手打ち案件だ。カセットテープをキュルキュル巻き戻すように、言葉を回収させてくれ~泣 と思った。
ふたりの間にものすごく微細なセンシティブな空気が一瞬流れたような気がしたり、しなかったり。どうか、気のせいでありますように……。
どちらにしても、隣のボックス席の若者よ、誠にすみませんでした。
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