〜セルフビルドによる、お店の作り方〜 エピソード 0

プロローグ

2019年5月8日。耳慣れない年号に変わった大型連休も終わり、ようやく春の暖かさを感じ始めた新潟市。

関屋駅前に「nabaita(ナバイタ)」というイタリア料理店がひっそりとオープンした。

引き戸を開けて店内へ入ると、向かって右側が厨房、左側が客席。上を見上げると古い梁がむき出しの、開放感のある吹抜けが出迎えてくれる。客席の更に奥には、入り口側よりも80センチほど高くなったスペースがあり、奥の方まで伺う事ができる。ちょうど段差の所で内装の雰囲気がガラッと変わっているので、高低差とも相まって同じ店内なのに全く違う空間を楽しむ事が出来る。

席は14席、80センチ角とやや大きめのテーブルでゆったりと食事を楽しめるように設えてある。次々と料理が運ばれてきて、やばい、これはテーブルに乗りきらないぞ、急いでスペースを確保せねばムシャムシャ!という飲食店あるあるがないように、テーブルサイズには計画当初からの店主の希望が叶えられている。

特筆すべきは、何と言ってもほぼ全てがセルフビルドによるリノベーション、つまり店主である依頼主の2人が作り上げた空間だと言う事。もちろん電気工事や設備工事、厨房機器などは専門業者にお願いをしたが、それ以外の解体、基礎工事(配筋、コンクリート練り、型枠組み)、大工工事(木下地作り、断熱、気密、ボード貼り、床組み、フローリング貼り、その他化粧材)、内装工事(パテ埋め、クロス貼り)、左官工事(モルタル塗り)全てを自分たちで行った。

全くの建築素人であった2人に作り方、工具の使い方、木造建築の知識を教えながら共に作業をしたのは筆者である私、五十嵐である。建築士として主に木造住宅の設計から施工までを請け負い、管理業務を行っている傍ら、許される範囲で少しづつ塗装作業や大工作業などを自ら現場に出て、職人の仕事の仕方を見様見真似で覚えてきた。元々物を作る事が好きな性分が災いして、月日が経つごとに工具の数も増え、いつのまにかある程度の工事は自分で出来るようになり、義姉さんのお店「ミチココ」の移転に伴うリノベーション工事の大工工事を自ら行ってみたりして腕を磨いてきた。そんな私に2人から「新潟に我々のお店を作りたい」と相談があったのは、2017年の事である。

長年関東に住み、それぞれが別の飲食店で料理を学んでいた夫婦、中山くんと志乃さんがこのお店の店主である。2人が店主、という言葉はその通りで、ホールとキッチンといった役割分担をする事なく、提供する料理によってそのレシピ担当が調理をする、という珍しいスタイルをとっている。例えば、炭焼き系は志乃さんで、パスタ系は中山くん、といったように。細かく言うと、パスタの中でもメニューによっては作り手が変わる。そんな2人のシェフが同じ厨房を使うと言うことは、当然それぞれの作り方や考え方の違いがぶつかる事もある訳で、しばらくはお互いの着地点を見つけていくという作業を続けて行く事になりそうだと、オープン後も2人は試行錯誤を繰り返している。

新潟市出身の中山くんとは、そもそも私の妻と中山くんが高校の同級生だったのが縁の始まり。妻に連れられてその高校の飲み会に同席し、知り合いもいないのにひょっこりと顔を出した私と2人の出会いはそんな偶然から生まれ、そして今ここにお店というカタチになっているから、縁というのは本当に不思議なものである。

このようなケースのプロジェクトは稀であり、出来上がった空間は正にオーナーお二人の人柄や、言葉にできないよく分からないけど、何かを感じることができる仕上がりになったのではと思っている。そして未だお店は未完成であり、今後も変わり続けていくであろう。

そんなゼロからのお店作りのプロセスをしっかりと記してみたいと考え、筆をとった次第であります。正確には、iPhoneを手に取りましたが。

なるべく事細かい、分かりやすく解説する事を心掛けます。そして、なぜ私がこの作り方を勧めているのか。その辺りも整理して伝えられたらと思います。

これから自分たちのお店、住まい、空間作りをしてみたいと考えている方々へ贈ります。少しでも参考にして頂けたらとても嬉しいです。そして、実際にお店に来て頂けたらこんなに嬉しい事はありません。あ、でも私はお店におりません。普段は建築の仕事をしているので、当たり前ですが。

不定期ですが、コツコツと連載をしていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?