Vtuberのカンブリア爆発が終わる

最近、youtubeのおすすめ欄に"一周年"という文字が度々現れるようになった。バーチャル・ユーチューバー(Vtuber)のカンブリア爆発が起こってからもう一年が経ったということなのか。

一年前に爆発的に増えたVtuberのうちどのくらいが淘汰されていったか、あるいはどれくらいの視聴者が淘汰されていったかはわからない。とりあえず、一年前に感じられた黎明期特有の祝祭感は一段落し、それぞれが気に入った配信者を消費していくという時期に入ったのではないか。「結局のところVtuberというものはニコニコ動画の生放送文化やyoutuberと同じものだ」というのはインターネットで無限回言及されていることだが、そういう意味では我々が慣れ親しんだ形態に落ち着いたし、一件落着なのでは。

思えば輝夜月でVtuberという存在を知ったのだが(当時からこういう呼び方があったかどうか定かではない)、当時は変なキャラがyoutubeで適当なことを喋る謎の文化があるらしいという程度の認識だった。その後、外見がケモミミの女の子で中身がおじさんというキャラクターが萌えとして受容されているという事実に価値観が転覆させられた。レディプレイヤー1ですら、可愛い女の子のアバターの中身はやはり可愛い女の子という旧態依然的な価値観に縛られていたときに、それの何歩も先をいっていたではないか。

さらに、電脳少女シロによってVtuberにはこれまでのコンテンツよりもリアルな人格を実装することが出来ることを学んだ。シロは普段はキンキン声で萌えキャラとしての定型を守ろうと努力しているが、ゲーム実況になると抑えきれない内面が表出してくる。これまでのコンテンツは、ツンデレや清楚など一面的な性質が強調されることが多かったが、本来人格はそれほど単純なものではない。なるほどVtuberたちは我々に新たな萌え表現を啓蒙してくれるのだと興奮していた。

伊藤計劃はかつて、定型文的な萌えを発揮するキャラクターを観て安心することを繰り返しているだけの現状のアニメ文化は知的怠惰であると問題提起していたことを思い出す。個人的には、ジャンル映画に定型としての美しさを感じるのと同じように、萌えにも定型の美学というものはあると思っているのだが、それでもVtuberは新しいキャラクターの概念を人々に膾炙してくれるのではないかとワクワクしたものだ。一年経って実際に少しずつそうなってきていると思うし、やはり我々の萌えの射程距離は思ったより長いことが分かって楽しくなっている。しかしながら、こういった新たな萌えがアニメなど他の文化に伝播していくのか、それともVtuberに限局したものになるのかは分からない。

このリアルな人格は、Vtuberが"物語から切り離された存在"だから発現してくるのだろうか、と考えたこともある。アニメキャラでは中の人に触れることがタブーではないのに、Vtuberの話者については中の人に触れることがタブーになっている。その理由として考えられるのは、アニメやゲームのキャラについては"作品"だどこかで割り切っているのに対し、VTuberはバーチャル空間に存在する"個人"として捉えることが正しい遊び方だと直感的に感じているからだろう。

Vtuberの発展を考えたときに、外見や動きの滑らかさ、リップシンクの精度など、本体のアップグレードは当然のように起こっていくだろうが、新規技術を非常に素早く取り入れることが出来るのも彼らの特徴だ。現在でもVRchatや新しい配信プラットフォームのような技術が、Vtuberの活動を活性化させている。今後は、例えばSTADIAのようなプラットフォームによって、視聴者と配信者をよりインタラクティブに繋ぐゲーム体験が可能になってくるだろう。またyoutubeなどの配信環境から手軽に自分のアバターで放送に参加出来たりすることも可能になるかもしれない。



配信初期ということもあり、声や発言の落差が凄まじいPUBG実況。動画終盤の「ウケんだけど」など名言も多数。


好きなものを語るという意味では個人的に最高峰の企画。男性からすると喋っている内容の全てを理解することは難しいが、熱く語ることそれ自体が視聴者に興味を持たせるきっかけになるという好例。Vtuberが"自分のメイク"について話すという倒錯感がもたらす心地よさと、普段はポンコツの本間ひまわりが専門用語満載で語り尽くす変貌ぶりに引き込まれる。宇垣総裁が「メイクをするのは"美しさ"で殴るため」というパンチラインを残したアフター6ジャンクション (TBSラジオ)の"私とメイク特集"も合わせて聴くとより効果的。


限りある技術の中で最大限インタラクティブにするということ。


終盤の創聖のアクエリオンのカヴァー、ヒメヒナはライブ感のあるパフォーマンスが非常に得意だと思うのだが、それが最も多幸感の溢れる形で表れている。これをもっとインタラクティブに、先ほども言及したが、例えばyoutubeからボタン一つでライブに参加できるような形になってくれればそれはとても楽しい体験になる。


ゆがみそ(@Medr)が紹介していたので、興味が沸いて視聴したらひっくり返った。新しいゲーム配信文化の形を提示したと思う。Vtuberの世界を拡張させていくのは、個人配信者なのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?