武川政宗という男

 自分の中で春田と牧の関係は揺るぎないので、どうしても武川さんは元恋人を見守る人、というポジションになります。ですから武川さんには武川さんを心から愛して救ってくれる存在が現れて欲しいとずっと思って来ました。自分の中の牧と武川さんに対する想いはSSに全て封じてあります(note内にもありますが、pixivでは完全版が読めます。※マイピク申請)。

 自分が少ない情報の中から武川政宗という男を読み解くと、神経質で潔癖なところがあり、自分のテリトリーを荒らされるのは嫌う人。一方で特定の人にはとことん心を許す脆さがあり、恋愛に関しては結構めんどくさいので、正の空気を纏った包容力がある大人(経験値からしても同じくらいの年齢の人)がいいのではないかと思っています。武川さんは仕事が出来て頭もいいので、地頭が良く察しもいい、価値観が近い人の方がいいと思うのです(春田のようなマジデリタイプは無理)。

 ですが牧のように自身の感情を抑えるタイプでは冷戦状態になってしまうので、情熱的でストレートな愛情表現をする、煮詰まるタイプの武川さんを飄々とかわせる強かさを持ち合わせた男性がお似合いだと思うのです。

 連ドラのラスト、吉田さんのアドリブで眞島さんの手を握ったのは、ただ単に眞島さんのリアクションを引き出したかっただけだと思っています。

 一瞬、固まる武川さんを見てプッっと吹き出した部長と、それを見て武川さんがつられて笑ってしまうシーンは、恋に破れた者同士に流れる感情を共有した仲間意識、互いにその存在を認め、その雄姿を讃え合う行為だと捉えていました。自分はあれは恋情ではなく、敬愛や親愛に近いものだと思っています。

 それが劇場版では武川さんが部長を思慕する態度が恋情なのではないか?と思わせる描写が見受けられます。確かに武川さんは部長を敬愛し、好きな人に違いはないと思います。

 ですが、あれは牧に対するそれとは全く質が違うと思います。牧に対する想いというものも描写が少ないので想像するしかないのですが、武川さんが牧に対して抱いていたのは少し負に近い感情です。自身がゲイであることに後ろめたさを覚えていて、地続きで牧と繋がっていたいというような、閉塞感、束縛感、支配欲、征服欲といったものを感じます。

 自分に牧の心を繋ぎとめるような魅力がないとどこかで感じていて、自分から牧の心が離れていかないようにするために、すぐに大きな声で怒鳴ったり、物に当たって威圧したりすることもあったのではないかと思います(連ドラの牧に対する一方的な態度から)。いわゆるBLのテンプレ的なヤンデレタイプです。男性としてのプライドを満たすための恋人。それは歪んだ愛の形であり、春田とは対極にある愛情表現であると思います。

 爆風の中から命からがら出て来た春田と牧を見て、真っ先に牧を抱きしめて彼の頭を自身の肩に抱き寄せた描写に、彼の抑え込んでいる激情が溢れていると思いました。いつも鎧を身に纏い仮面を着けている人なので、自身の感情のストッパーが外れてしまうと抑え込んでいた感情が暴走してしまうのだと思います。その激情を受け止めることが出来る人はそうそう居ないと思います。よほど武川さんを理解し、深く愛してくれる人ではないと。その相手は部長ではありません。

 武川さんの部長に対する想いというものは、主人に服従する事で満たされる充足感にしか過ぎません。自身が支配することを好む傾向にあるので、逆に自身が認める相手には支配されることに抵抗がないのだと思います。部長の武川さんに対する想いは、純粋に部下を愛する気持ちでしかないと思います。ですが、それは決して恋情ではありません。

 劇場版の武川さんを見て不満を募らせている武川ファンは多いように感じます。それは武川さんが心から想い想われる恋をしていないからです(あるいは牧に対する想いの消化不良だと思います)。どんなに傷つけ合っていても、深く愛する事で生まれる傷みや切なさは、まだ理解が出来ますし乗り越えられます。

 ですが、今の武川さんはそのスタートラインにすら立たせてもらって居ない。自分は劇場版に全く不満を抱いてはいませんが、武川さんに関してだけは納得していません。どうか彼の想いを昇華させて下さい。彼の心の傷を癒し、牧との恋は無駄ではなかったということ、さらに彼の精神的な支えになってくれる男性と運(めぐ)り合わせてあげて下さい。それを見届けない限りは、自分の中でおっさんずラブは終わらないと思っています。