渋谷系は日本のスウィンギング・ロンドン

ディスクガイドZINE「SOMETHING ON MY MIND Vol.2 渋谷系特集」では、92-94年あたりの邦楽作品をメインに、その前後数年間の関連すると思われる邦楽アーティストのディスクを紹介しています。

当初の企画(妄想&選盤)段階では、邦楽作品と併せて、そのルーツ的な洋楽(60-70年代のロックやポップス、ソフトロック、ソウル、同時代のアシッドジャズなど)のディスクガイドも載せたいと思っていました。

しかし、ページ数があまりにも増え過ぎて分かりにくくなりそうだと思ったのと、音楽的知識が浅く邦楽作品を書くだけで余裕がなくなりそう、という理由で、90年代前半の日本人アーティストのディスクだけに絞りました。

その後、2018年2月からフミヤマウチさんがnote上で「渋谷系洋盤ディスクガイド100」と題して、1987-1995年に「新譜として」リリースされた洋楽作品の紹介を始めました。しかも、「その頃の名盤」のディスクガイドではなく、あくまで「音楽ではなく時代のガイダンス」として様々なジャンルの87年-95年当時の新譜作品を紹介しています。あの当時の邦楽名盤ではなくて、「洋楽だけで渋谷系を語れるよ」ということです。

フミヤマウチさんが伝えたいのは、その当時の音楽好きリスナー(アーティスト自身も含む)の音楽行動として「海外の最新のレコードを買って聴く」ことが当たり前にあって、その姿勢が渋谷系(アーティスト、リスナーともに)の重要な要素だったはず、ということだと思われます。それなのにみんなそこに触れず(忘れて?)、表層的な渋谷系(=日本人のアーティストだけ)の解釈に留まっていることに違和感を覚えているのだと思います。

僕の場合は高校に入った92年くらいから本格的に洋楽を聴き始めて、何を聴いても刺激的に感じていました。自分で買ったり、お金がないから友達に買わせて借りたり、レンタル屋で一回で借りられる枚数に制限があったので、友達の会員証も使って沢山借りたりして。最初は良さが分からなくてもなけなしの小遣いで手に入れた音楽だったので勿体なくて何度も聴いているうちに好きになったり。(若い頃のあるあるですね)

その頃聴いたCDをがんばって思い出してみると、、、

ストーン・ローゼス(最初はTURNS INTO STONEから)、プライマル・スクリーム(1st~4th)、ビョーク1st、レモンヘッズ(it’s a shame~)、ベティ・ブー、スペースメン3(回帰)、スペクトラム、ペイヴメント1st、ライド1st、シャーラタンズ1st、ポップ・ウィル・イート・イットセルフ、ベック(MELLOW GOLD)、グリーン・デイ(Dookie)、アレステッド・ディベロップメント、ビーツ・インターナショナル、ジャミロクワイ1st、ヴァネッサ・パラディ、セイント・エティエンヌ、タルボット&ホワイト、コーデュロイ、ハッピー・マンデーズ(Pills'n~)、ラーズ、ジーザス・ジョーンズ(doubt)、アトミック・スウィング、ビースティ・ボーイズ、ティーンエイジ・ファンクラブ(Catholic Education)、クリエイション・スープ(93-4年頃のやつ)、パステルズ、ソニック・ユース(Goo)、オアシス1st、ブラー(Park Life)、ブー・ラドリーズ(Giant step)、スローダイヴ、ポール・ウェラー(ソロ1st)、イーダ、トラッシュ・キャン・シナトラズ(2nd)など。

→ 渋谷系というよりはただのギターポップ寄りのUKロック(少しUS)好きの高校生ですね

その当時での、昔の音楽だと、オレンジ・ジュース、アズテック・カメラ、アル・グリーン(オレジュがカヴァーしてたから)、ジェームズ・ブラウン、ピストルズ、クラッシュ、フランス・ギャル、ビートルズくらいだったかしら。

フミヤマウチさんの今回の「渋谷系洋盤ディスクガイド100」を見ながらやっと整理できたのは、渋谷系は音楽のジャンルや曲調を表現する言葉ではないということ。それなのに、音楽の1ジャンルのように語る人が多いので、自分は違和感を覚えてしまっていた、ということ。

それならば「渋谷系」とは何なんだろうと考えて思い浮かんだのが、「スウィンギング・ロンドン」でした。

「スウィンギング・ロンドン」は1960年台半ばのイギリスの若者のカルチャーの盛り上がりのことで、思い浮かぶキーワードは、サージェント・ペパー(ビートルズ)、サイケデリック(音楽、ファッション、アート)、LSD(Lucy in the Sky with Diamond~♪)、ツイッギー(ミニスカートのモデル)、「ナック」や「BLOW-UP/欲望」などの映画作品。

「渋谷系」は音楽そのものだけを指す単語でなくて、「90年台前半の都市部(渋谷)の若者カルチャーの盛り上がりの一つ」だったんじゃないだろうか。

カルチャーなので邦楽アーティストだけでなく、新旧の洋楽作品、その当時の音楽の聴き方、ライフスタイル、ファッション、映画、本、ショップ、街など多岐に渡るものだった。

おそらくとっくの昔に誰かが指摘している程度の気付きなのですが、やっと自分なりに「渋谷系」がなんだったのかが分かったような気がしているところです。(もう渋谷系のことを考えるのは飽きたw)

【お知らせ】
個人で作った音楽ディスクガイドZINEの第2弾「渋谷系特集」では、フリッパーズの前身バンド「ロリポップ・ソニック」とも対バンしていた「フィリップス」のインタビューがあり、その中にも若き日の小沢少年と小山田少年の微笑ましいエピソードが登場します。

→ 完売しましたー

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