直したほうが気持ちいい

ずっと昔に妻にもらった万年筆が、半年以上前からインク詰まりで書けなくなっていた。

いつか修理しないと、と思っていたまま、筆箱の定位置を動かぬままだったが、ふっと気が向いて、渋谷のイトーヤで直してもらうことにした。

井の頭線の改札を出た目の前で、多分二週間に一度くらいは店の前を通り過ぎていたにも関わらず、ずっと放ったらかしにしていた。

これはきっと、物理的なものではなく、心理的なものだろうと思う。だって、行こうと思えばいつでも行けたもの。

なにか自分の気持ちをせき止めていたものが壊れ、前に進んだような心持ちがした結果、自然に足が向いたのだ。

万年筆のペン先を外し、透明の水に入ったコップに入れる。詰まっていたブルーブラックのインクがどろろっと水に溶ける。これを2回繰り返し、さらに超音波洗浄の末、ようやくスムーズな書き心地に戻った。

あの青く固まったインクが僕の昨日までだとすれば、それは水に流してしまおうよ。

今日の気分では、新しいものを買うよりも直したほうが気持ちいい。


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染谷拓郎

感じたこと、考えること

【気ままなエッセイ】ふだんの生活のなかで感じたことや考えたことを書いていきます。
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