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スパムメール

スパムメールが雨嵐のように降っている。映画『マトリックス』のオープニングタイトルのように。あんまりひどいものだから、あるプロバイダーは、スパムメール予報を毎日6時間ごとに更新している。

ぼくのノートパソコンにも連日大量に届いてる。ファイアウォールをかいくぐってきた怪しい添付ファイルやRe:のついたものは、一切開かずに、そのまま削除している。ところが半月ほど前から削除できないメールが毎日届いている。

送信人の名前を見てドキンとした。新入社員当時、つきあっていた彼女と同じ名前。お互
いハンドルネームでメールのやりとりをしていた。イタズラにしては手が込んでいる。結局、そのコとは別れてしまい、上司に紹介された取引先の重役の娘と一緒になった。そう、ぼくは彼女を捨てたのだ。

結婚式当日、彼女はあてつけがましく退社した。同僚の女性社員からは随分と白い目で見られた。まもなく、ぼくは妻の父の会社に転職した。

「トシリン、元気?」という件名のメール。それと添付ファイル。写真かな。幸せな結婚でもして、子どもとのツーショットかもしれない。警戒心も次第に薄れ、ついクリックした。

そのとたん、強い衝撃を受け、気を失った。しばらくしてから目を開けると、狭い空間に幽閉されているらしい。突然、上部が開いた。巨大な眼球がこちらを睨んでいる。蔑むような視線。充血気味の眼球から、白い光線が放たれた。

「トシリン、トシリン、トシリン」どこからともなく声が聴こえた。彼女の声だった。「待ってくれ。ぼくは、キミにそうしたように、妻から三行半をつきつけられ、挙句の果てに職場も失った。赦してく---」

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