キカイな人々


取りあえずは、仕事の終了時間となった。

結局、予定より少しの遅れが出たが、これなら明日以降挽回できるだろう。

いつものように駅そばのバーに立ち寄ることにした。

まあ日課みたいものである。皆勤賞をあげてもいい常連客の一人がすでに

メートルをあげていた。挨拶を交わしてしてビールを注文する。

「どうですか、最近は」

確か保険会社に勤めている男がグラスを持って近づき、話しかけてくる。

こいつは飲みすぎなきゃ紳士だ。

「相変わらずってとこかな」

「ぼくのはなんだかガタがきちまいましてね、新しいのにしようかなって」

「同じバージョンでしたよねえ」

「アタリハズレありますから」

「うちの社の製品なのに、どうも…」

「いや、別にあなたを責めようという気は毛頭なくて」

「私のも、だんだん作動するまで時間がかかるようになりました」

「低気圧が近づくと調子悪くなりませんか」

「なんだか神経痛みたいですが、そういわれれば」

彼はブリーフケースから何やら書類のようのものを取り出す。

セールスの強化月間かなんかで、保険に勧誘でもするのだろうか。

と、思ったら、別なパンフレットだった。

「これなんてどうですかね」

彼はぼくが工業デザイナーであることは知っている。

しかし、相談を持ちかけられても畑違いのことなので余り詳しくは知らない。

「ええと軽量・小型、」と、コピーを読み上げる。

「いくら専門家のあなたでもわかりませんよね、パンフレットだけじゃ。

で、私、このタイプのモニターになってしばらく装着してみることにしました」

「それは賢い」

「でもあれなんですよ、他にも変えたいパーツがいろいろあって、どうしようかなとも

思ってるんです」

実は、彼と私は、義足仲間なのだ。

義足といってもコンピュータ制御のいわばサイボーグ仲間なのである。

いまのバージョンのものは、すっかり時代遅れ(オールドファッション)となってしまったようだ。

しかし、私は、軽い不具合を老化のように思い、しばらくはこのままでいようと考えている。

せっかくなれてきた(カスタマイズ)のに。

先日内緒でネットオークションで松葉杖を競り落とした。木製のアンティーク。

妻に見つかりでもしたら、どやされるに違いない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?