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解剖研修日記⑨

解剖研修5日目最終日の日記です。
私の興味や視点での気付きや学びをシェアした日記です。解剖研修についてのご理解があり、声と身体の繋がりついて真摯に学ばれたい方以外の閲覧はご遠慮ください。もし文章中に気になる点やご指摘があれば真摯に受け止める所存ですので、お手数をおかけしますがご指摘いただけると幸いです。

最終日のトムの講義は神経と筋膜について。赤ちゃんは成長過程の中での寝返りは、見たいものを追っているうちに出来るようになる。決して寝返りをしようとしてしているのではない。寝返りのするのに左右差が生まれるのは、繰り返される方ほど脳が覚えているからである。
そのほかにも生活の中で靴紐を結ぶことやカバンの持ち方などの習慣が姿勢を作っていく。
猫背のように頭と骨盤が過度に前傾した姿勢も繰り返されるうちに神経系や筋肉に書き込まれて、筋膜の癒着が始まる。癒着が起こると新しく反り腰の姿勢を試みても制限がかかってしまうので、ヨガやマッサージなどで制限を外していく必要がある。この辺りの内容はとても興味深く、運動を教えている身からすると筋膜の制限というワードが特に気になった。最初はあまり重要視していなかったことだが、筋膜を切った状態での喉頭上下筋群の可動性が広がったことや筋膜がある上での喉頭と舌骨の可動性に差があったことを思い返すと、筋膜の存在はボイストレーニングでも無視できないのではないかと感じた。
「徒手療法(マニュアルセラピー)と運動療法を取り入れている人が気になる。」と話していた。私も気になるところだ。

脳〜行動までのプロセス以外に、熱いものに触れて手を勢いよく戻すなどの行動は反射的に行われるが、運動不足や加齢によってその筋肉の感覚がなくなってしまうらしい。また腕を上げたり身体を使っていると皮膚や筋肉が身体の重さを感じて「疲れたから下ろしたい」などのモチベーション(刺激)が生まれる。この辺りはトレーニング中の生徒さんの持つ悩みにどう対応させていくかにも関わってくるだろう。

最初はうつ伏せの状態で大腰筋と腰方形筋と横隔膜の根本とのつながりを見ることができた。内臓を取ったことでこのつながりが強力だということが分かった。
その後に大胸筋・小胸筋・前鋸筋の筋繊維のつながりを見てマッサージがより具体的にイメージできるようになった。その後は表情筋の薄さや脂肪の多さに苦戦しつつ解剖し、口輪筋や眼輪筋のプカプカ浮いている様子を見ることができた。表情筋を取っていたあとは下顎を外す準備をした。
その後は肋骨を切断し、肺の広がり方や縦隔と横隔膜のつながりに触れた。KENは右の肺が動きづらくなっていそうだった。
昼休み明けにはトッドが音楽家のために舌と喉頭蓋と喉頭が一緒につながった御献体を見せてくれた。
喉頭蓋と舌は舌骨喉頭蓋靭帯によってつながっており、舌を口の奥に動かすと喉頭蓋も倒れた。舌が前に行くことによる喉頭蓋の前傾はなかった。共鳴腔に関しては姿勢をストレートネックにすると咽頭壁がへしゃげ、首を長くする姿勢ではそれがなかった。喉頭蓋が倒れることによる仮声帯の閉じもありそうだ。被裂軟骨はこんぺいとうほどの大きさだったがそこを動かすことは時間の都合により残念ながら出来なかった。そして初めて生で見た声帯は私の指先ほどの小さな弁だった。舌骨上下筋群を見た時も思ったが、少しの刺激で動いてしまいそうな繊細な筋肉が喉頭周辺にはたくさん重なっている。「右の声帯だけ振動させて」「声帯は薄く開いて」「仮声帯は寄せないようにして声帯だけ閉鎖して」などの指導は数ミリ単位での操作を要求していることになる。それを実現できるのは少なくとも数日で出来るようなものではない。筋肉の大きさが違いすぎる。腹筋トレーニングのように1ヶ月頑張れば鍛えられるというものではない。イメージでいうと足の指の親指と人差し指をくっつけたま中指を離すことと同じくらい難しい。それも内喉頭筋に対しては外から見えない場所の操作である。心の声を意識するようなスピリチュアル系指導になるのも分からなくはない。神様はなぜそれらの筋肉を作ったのか。筋肉が分かれているとそれぞれ個別に動かせるようにも感じるが、輪状甲状筋斜部・垂部などは個別に動けるのかなどは実際の動きを見なくては分からないと感じたし、単純に筋肉が分かれているからという事だけで個別に動かせると考えるのは時期尚早な気もする。筋肉の連動性を考慮する場所と個別に捉える場所とを考えていく必要を感じた。
また口腔と鼻腔の繋がりも見ることが出来た。とても細い口蓋咽頭筋が軟口蓋を引き上げ、鼻腔のドアを閉じてくれる。嚥下をする時も同じ動きで鼻を塞ぐ。奥まで指で進むと鼻腔につながり、鉛筆1本ほどの細い場所が2つあった。細い場所だが息を通すスペースを作る事ができれば、音色の変化も出来るようになると感じた。舌が動くことによる軟口蓋の動きに関しては見ることが出来なかったが、見えにくい軟口蓋を意識するよりも舌を意識する方がコントロールしやすい人はいるかもしれない。

その後は肋骨を切断し、肺の広がり方や縦隔と横隔膜のつながりに触れた。肋骨は例えれば蟹の脚ほどの硬さで、第12肋骨まで下がる中でどんどんしなやかさが増していく。一番硬いのは鎖骨と第1肋骨だったので、呼吸指導の際は肋骨の下や背面を指導するといいと感じた。そのあとようやくKENの喉でも気管を切断して気管〜喉頭を舌骨上下筋群をつけた状態で見ることができた。
KENの喉はとても健康な様子で、声帯も気管もタバコの煙などで汚れた様子はなかった。気管は本当にホースのような感触で柔らかさも感じるし、しっかりとした柱のようにも感じた。甲状軟骨を倒した時の声帯の伸展も感じることが出来た。

次回に続く。


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